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妖斬り、参る!  作者: 濃見 霧彦
第一話 迷い込んだは見知らぬお江戸?妖退治にいざ参る!
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 先程の勇んだ足並みとは打って変わって静かな足取りで本堂へと向かう兵衛。それに幻一郎とクロードが続く。


 「すまんな、俺のわがままを聞いて貰って」


 「いいって事でござるよ」


 「そうそう。それに掴みかけた感覚を今モノにするのは、今後のためにもなるしね」


 先ほど床を踏み抜いた渡り廊下の先、戸が開け放たれた本堂の奥にソレは待ち構えていた。


 「上位種、さしずめゴブリンナイトってところかな」


 抜身のままの刀を無造作に持ち、侵入者を誰何するかの如くに睨めつける。手に持つ獲物は日本刀であるため、強いて言うならゴブリンサムライと言ったところか。


 「何者かと問いたげだねえ」


 「そのようだな」


 自分が相手だとばかりに前に進み出て鯉口を切る兵衛。


 「我が名は小柄兵衛、義によって貴様を討つ」


 すらりと刀を抜き放ち切っ先を向けて名乗りを上げる。それに応えるようにゴブリンが兵衛目掛けて駆け出す。型も理合いもあったものではない力に任せた振り下ろし。

 脳裏に先ほどまでの自分もこうであったかと苦いものがちらりとよぎるも、すぐに雑念を振り払い体を右へと躱し正眼に構える。


 振り下ろした刀を腕力で強引に横薙ぎへと繋いで兵衛へとゴブリンが迫る。兵衛は一歩踏み込み自らの刀の根元付近を相手の刀の根元に合わせて受け止める。


 ぐぐっと力を込めて刀を押し込もうとするゴブリン、対する兵衛は切っ先を自分の側に倒し、相手の刃を滑らせて懐へと踏み込み、そのまま刀を跳ね上げる。


 両の腕をかち上げられガラリと空いた胴、その大きな隙を兵衛が見逃す訳もなく。


 「せいっ!」


 気合い一閃、狭い間合いの中器用に刀を操り右の脇から左の腰へと袈裟懸けに刀を薙ぐ。


 先ほどまでとは一転、間違いなく切ったという手応えを感じながら一歩後退り正眼で残心。ゴブリンもさすが親玉、すぐには倒れず再度の攻撃を仕掛けようと体勢を立て直しかけるも、途中で力が尽きた様子で崩れ落ち靄となって消えてしまう。


 それを確認し、刀を右手のみで〆の字を描くように風切り音を立てて振るう。そしてくるりと逆手に持ち替え鞘左手を添えパチリと納刀。


 ふうっと深い息を吐いて、後ろで見届けていた2人に振り返る。


 「しくじりもあったが、全て片付いた。これにて一件落着と言うところか」


 「終わり良ければオールオッケーでござるな」


 心地よい疲労感と達成感で笑みを受けべあう兵衛とクロード。


 「大二郎さんと啓真和尚への報告が残ってるけどね」


 幻一郎が苦笑いで水を差す。それもそうかと笑い合い連れ立って山門へと向かう。


 「小柄さま!ハットリさま!朔月さま!お三方ともご無事で!?」


 うずたかく盛り上がった土の向こうから大二郎の声がかかる。


 「大二郎殿、なぜこちらに!?」


 「それがお二人が出られた少し後に、妖方(あやかしがた)のお役人様がお見えになりましてな!」


 土壁越しに声を上げて言葉を交わす2人に不思議そうな表情をする幻一郎。しばし置いてこれは自分が原因だと気付き、盛り上がった土を元に戻す。


 「いやあ、失礼失礼」


 はっはっはと笑って誤魔化しながら手刀を切る幻一郎に、これがまたやっちゃいました?というやつでござるなと納得げなクロード。


 元の平らな地面へと戻った山門に大二郎とそれに伴われた黄八丈に黒羽織の若者が1人。


 「こちらがそのお役人さまでございます」


 大二郎に紹介され前に進み出る若者。


 「それがしは妖方長官、高坂(こうさか)伊勢守さま配下、同心の笹部健吾と申します。此度は日野村の窮状を聞きつけ急ぎ馳せ参じた次第です」


 折り目正しく綺麗に頭を下げる笹部。


 「お三方が寺へ行ったきり中々戻って来られないので、これは何かあったかと慌てて駆けつけてたという訳でして」


 「こちらもクロードと合流して1度戻るつもりだったのですが、少々アクシデント、いえ問題が発生してそのまま斬り合いになだれ込んだ次第でして」


 アクシデントの原因を思い起こして苦笑いの幻一郎が答える。


 「して首尾は?」


 「上々、討ち漏らしはなし。と言いたいところなんですが……」


 少々曖昧に答える兵衛。


 「恐らくそれがしの方が若輩でしょうから、かしこまらずとも構いませんよ」


 「それについてはわたくしの方もお楽に話して頂ければと」


 「そうか、それではお言葉に甘えさせてもらう」


 楽にと言われてやっと本来の、というより武家風を意識した口調になる兵衛。


 「それで、断言できぬ訳が?」


 「ああ。ハットリの調べでは普通のゴブリンが35、頭1つ大きいのが2、背丈が我らとかわらぬのが1。この内大きいものは全て間違いなく討ったが、普通のゴブリンは乱戦で片付けたので数え間違いがないとも言えんでな」


 「なるほど。では妖玉(あやかしだま)を勘定してみましょう」


 「妖玉とな?」


 「ええ。妖が黒い靄となった後にギヤマンのような玉が落ちているでしょう?あれが妖玉です」


 「言われてみれば、そんなのが落ちてたような……」

 

 「妖を倒しますとそれが落ちますので、忘れずにお持ち帰り下さいとお伝えする前に皆さま出てしまわれましたので。私の不手際でございますな」


 「いやあ、僕らもその辺り気にせずにいましたし、大二郎さんのせいじゃありませんって。おっと、申し遅れました笹部さん。僕は朔月幻一郎、一応旅の草子本書きと言う事で」


 「拙者はハットリ・クロード、忍びの者でござる」


 2人の胡散臭さ極まりない自己紹介に若干の戸惑いを見せる笹部。しかし気を取り直してこれに応える。


 「朔月殿にハットリ殿ですね。大ごぶりんに加えてごぶりん(がしら)を討つとは、お三方とも腕が立つお方のようで」


 「1番大きいの、ゴブリン頭は兵衛さんが1人で倒しちゃったし、だいたいは兵衛さんとハットリの2人が片付けちゃったから、僕は大した事はしてないんだけどね」


 「ほう、小柄殿がお一人でごぶりん頭を?それはお見事、妖玉の数を改めたのちにお話をお聞かせ願いたいものですな」


 小柄兵衛と言う人物にかその腕前にか、興味を惹かれた様子の笹部。さて、まずは妖玉の回収をと動き出した所で、場にそぐわぬグウと言う音が。


 「拙者、もう空腹で限界でござる……」


 「では急ぎ妖玉を集め、話は我が家にてと言う事でいかがでしょうか」


 クロードの本当に限界寸前といった様子に大二郎が助け舟を出す。


 「賛成、拙者大賛成でござるよ」


 何はともあれ一件落着。一同は妖玉を集め、大二郎の屋敷へと向かうのであった。


 

見知らぬ土地に迷い込み、なんの因果かゴブリン退治。所々しくじりもあったものの、どうにかゴブリンを討ち果たした一行。無事の一件落着に胸を撫で下ろし、これで村の人が安心して暮らせればと心の内に想う兵衛であった。


次回、

大江戸騒乱、ゴブリン大将を討て!

ご期待ください


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