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妖斬り、参る!  作者: 濃見 霧彦
第一話 迷い込んだは見知らぬお江戸?妖退治にいざ参る!
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善は急がば回ってハリーでござる、そう言い置いてクロードは制止の声も耳に入らずに飛び出していく。


「待てハットリ、俺もいこう」


兵衛もその後に続こうと立ち上がり掛けるも、幻一郎がこれを今度こそと押し留める。


「待って兵衛さん。そのまま見つかった事にして斬り合いになだれ込む気でしょう?」


「いや、そんな事は……。確かにうっかり見つかる事もあるかもしれんが……」


幻一郎の言葉に思わず目を逸らす兵衛。


「さっきのゴブリンと戦った時の速さなら、たぶん見付かっても振り切れるだろうし、僕らはここでその力のカラクリを聞いておこうよ」


「確かに先程の小柄さまやハットリさまは、光陰矢の如しと謳われる彼の吉田光陰(よしだみつかげ)にも劣らぬ素早い身のこなしでしたからな」


先ほどの出来事を思い返し、大二郎も幻一郎の言葉に賛同する。


「素早い動きのカラクリ、と申せばおそらくは勁力(けいりき)でございましょうなあ」


続けざまに思い当たる節を言葉にする。


「勁力ですか。それが兵衛さん達が速く走ったり、扇子の一振りでゴブリンを薙ぎ払った原因だと?」


「はい、おそらくは。古来より渡り人とされている方々はこの勁力と言うものを十全に使いこなす方が多いようでしてな、先ほど申しました吉田光陰はその勁力でもって10里(およそ40キロメートル)を四半刻で駆けたと伝わっております」


わかりやすく言えばフルマラソンの距離をおよそ30分で走り終えると言う事になる。時速およそ80km、秒速にして22mほど、100メートルを5秒以内で走ると考えればその飛び抜けた速さも理解できよう。

 

 実際に兵衛やクロードが全く同じ程度とは限らないが、少なくとも常人にはとても及ばぬ速さである事は間違いない。


 「ちなみにお聞きしますが、その勁力というものは珍しいものなのでしょうか?」


 「いえ、勁力自体は人と言うより命あるもの全てに備わる力と言われておりますので、村のものにも使える者はおります。ただそれを十全に使い、人の身を大きく超えた力を見せるとなると当世でも数える程かと」


 「使える人は多いけど、凄い人はあまりいないと」


 「左様でございます。村の者ですと、日に耕せる畝が一つ二つ増えると言った程度でございますな。お武家さまの中にはそれなりお使いになる方もいらっしゃるとは思いますが、なにぶん1本でも多く素振りをするくらいなら、1文字でも多く書を読まねば出世は叶わぬと言われる時分ですので、昔ほどの使い手は減っておりましょうが」


 「なるほど。ちなみに勁力を使うリスク、いや不利益や害のようなものはあるのでしょうか?」


 「慣れない者、体の出来ていない者が無理に勁力を使おうとすると体を痛める事があるそうですな。あとはあまり長い時間勁力を使った状態だと突如として激しい疲労に襲われ寝込む事、加えてやたらに腹が減るそうですな」


 「1つ目はまあ、兵衛さんもハットリも鍛えてるから良いとして、2つ目は気にしておいた方が良さそうですね。兵衛さん、疲労感はある?」


 「いや、特に疲労は感じてないな。しかし俺は平気だが、もしハットリが見つかってここまで走って戻って来るとなると少々危ういかもしれんな」


 「確かにそうだねえ、これは伝えに行ったほうがいいかな?」


 「そうするとしよう。大二郎殿、しばし出て参ります」


 兵衛が刀を掴んで立ち上がると、幻一郎もそれに続く。これが元の世界であれば携帯電話でもってメールなりなんなりで伝えれば済む話だが、生憎と幻一郎の手元のスマートフォンの電波表示は圏外。


 元から通じるとは期待していなかった幻一郎はディスプレイを一瞬だけ見て特に落胆する事もなく胸ポケットへと仕舞い込む。


 急ぎで山寺へと向かう2人だが、ここで1つの問題に気付く。スマートフォンは圏外で使用不可能、クロードは恐らく寺の中へと潜入中。内部を偵察しているであろうクロードに対して勁力のリスクを伝える、あるいは自分達の接近を伝える手段が存在しないのだ。


 「しまったな。兵衛さん、今の僕らにはハットリと連絡を取る手段がない」


 後頭部を掻きながら、苦笑いの幻一郎。


 「ここで待つか、異変があったら踏み込むかしかあるまい」


 一方の兵衛は準備万端とばかりに、刀の柄に手を掛けて不敵に笑みを浮かべる。




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