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妖斬り、参る!  作者: 濃見 霧彦
第一話 迷い込んだは見知らぬお江戸?妖退治にいざ参る!
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村の奥へとしばらく歩けば、他の家々に比べて一段しっかりした造りの庄屋の屋敷が目に入る。


「トメさん、帰りましたよ」


大二郎がそう声を掛けると、奥からトメと呼ばれた老女と、来客を伝えに一足早く屋敷へと戻った平助が一行を迎えに出る。


「旦那さん、お帰りなさいまし。お連れ様も一緒だそうで」


「ああ。仔細は平助さんから聞いていると思うが、危ない所を助けていただいてね。私は和尚さまに声をかけて来るから床の間へお通しておいておくれ」


「はい、わかりました。お武家さまがた、こちらへ」


トメに案内され、床の間で茶を出され大二郎を待つ一行。


質素だが落ち着いた雰囲気の部屋に居ながらに、一刻も早く困りごとの内容を、と落ち着きなくそわそわとする兵衛と、如何にも時代劇の屋敷と言った風情にお屋敷!日本家屋!と興奮してこちらもまた落ち着きのないクロード。

ただ一人、幻一郎だけが、全て予想通りであるといった風に悠然とお茶を飲んでいる。


「二人とも落ち着きなよ」


「伝統の日本家屋でござるぞ!ショーヤさんのお屋敷でござるぞ!これに沸き立たぬなど忍びの名が廃るでござる!」


「忍者は普通に日本家屋で暮らしてただろうから慣れて。僕らがいつもとの場所に戻れるかはわからないけど、当面はこの世界で暮らすんだから」


「長屋でござるか?日当たりの悪い裏長屋でござるか!?」


「いや、拠点見つけられなきゃ野宿だから、そうなるかはわかんないけど」


とにかく落ち着けと興奮するクロードを宥めようとする幻一郎。その言葉に野宿も忍者っぽいとかえってはしゃぐクロード。幻一郎は処置なしとばかりにクロードの説得を諦め兵衛の方へと向き直る。


「兵衛さんもさ、時代劇の主人公みたいに困った人を放っておけないっていうのはわかるけど、そう焦れたって大二郎さんの戻りが早くなる訳じゃないんだし」


「そうは言うがな幻一郎、村の人が困っているのだ。一刻も早く、と思うのが人情というやつだろう。大二郎殿もあの場ですぐに俺たちに化け物退治を頼んでくれれば良かったのだが」


「そうは言うけどね。ゴブリンがどっから沸いてきてるのかも、村を襲ってるのがゴブリンだけなのかもわからないし、だいいちさっきのゴブリンくらいならいいけど、アレより強いモンスターがいた場合でも扇子だけでやり合うつもりなのかい?」


「そこはだな、何故だかはわからんが扇子を一振りしただけで化け物共があの有り様になったのだ。どうにかなるだろうと踏んでいるのだがな」


「まさにそこなんだよね、僕が大二郎さんに聞きたいのはさ。兵衛さんの怪力?みたいなのと、なんかできる気がしてやってみたら本当に出た僕の魔法と、どっから出したのか分かんないクロードの暗器とかさ。渡り人ってやつだからなのか、この世界では普通の事なのか確認したいんだよね」


「拙者の暗器は普通にいつも自前で持ち歩いているでござるが?」


会話の最中に差し込まれるクロードの発言に頭を抱える幻一郎。


「なんで?」


「ニンジャの嗜みでござる」


「なんでハンカチ持ってるのって聞かれて、紳士の嗜みって答えるみたいな調子で言われても困るんだけど」


本題は幻一郎が事態をどう推測しているか、大二郎が語るであろう詳細をどう予想しているのかだったはずが、どんどん本筋からずれていき、肝心な話をする前に障子の向こうから声が掛かる。


「お待たせいたしました」


そう声を掛けて禿頭の僧侶を伴って客間に入る大二郎。


「大二郎殿、そちらの御仁は?」


「こちらの方は皆さまにお願いしたいお話に関わりある方でございます」


大二郎の言葉に僧侶、大二郎の隣に腰を下ろした僧侶が手を合わせる。


「拙僧は啓真(けいしん)と申す、庄屋殿の窮地を救っていただいた事にまずは感謝を」


「私からも改めまして。日野村の庄屋大二郎、並びにその供の平助の窮地をお救い頂きありがとうございます」


揃って頭を下げる二人に慌てて兵衛は腰を上げ


「お二人共、顔を上げてください。私は当然の事をしたまで」


と声を掛け、それに応えるようにゆっくりと二人は顔を上げる。


「本当はお先に渡り人の仔細をお話するのが道理でしょうが、小柄さまは一刻も早く困りごとの仔細を、と言ったご様子でしたので」


「ああ、やはりそう見えますか」


苦笑とともにちらりと兵衛を見やる幻一郎と、少々バツの悪そうな兵衛。クロードはいつの間にやら真剣な表情で座っている。


大二郎がちらりと啓真に目を向けると、啓真がこくりと頷いて口を開く。


「当方らの不始末で恥ずかしい限りなのだが、この村の先に先代の住職が亡くなってから跡を継ぐ者がおらず無人となっておる山寺がありましてな。そこにこの度拙僧が住職としてお勤めをする事になったのですが、しばらく寺を開けている間にごぶりん共に住み着かれましてな」


「1匹2匹ならば村の若い衆で乗り込んで行ってどうにか出来るのですが、なにぶん数が多く、村の者では手出しが出来ずという状況でして」


顔をしかめながら話す啓真の言葉に大二郎が言葉を繋ぐ。


「多数で寺に籠られては村の者では手の出しようがなく、代官所と妖奉行に願い出たのですが人手が足りぬのでしばし待てと言われましてな」


「拙僧らも寺社奉行にどうにかならぬかと願い出たのですが、妖退治は妖奉行の領分であるの一点張りで

してなあ。今は庄屋殿のご厚意でこちらに逗留させていただいているが、いつまでもこのままという訳にも参りませんでな」


「それで和尚さまと相談した上で、お三方に退治をお願いをしてみようといった次第でございます」


「なるほど。寺を占拠したゴブリン退治ですか」


「ええ、左様でございます。礼金として和尚さまと私からそれぞれ5両、妖斬りのお代としては少々安うございますが、それに加えてこちらを」


そう言って大二郎は脇に置いてあった桐の箱を兵衛の前に差し出す。


「これは?」


「大和の伝、山城盛親と言う刀工の作でございます」


失礼、と断りを入れて兵衛はスラリと刀を抜き刀身を確かめる。


「かなりの品とお見受けしますがよろしいのですか?」


依頼料よりも遥かに値打ちのありそうな小太刀を前に戸惑う兵衛。


「はい。父よりもしもの備えにと持たされましたが、私は剣の腕はイマイチでございますので。腕の立つお方に振るわれた方が刀も喜ぶでしょう」


「拙僧からはこちらを」


続けざまに啓真が布袋に包まれた大刀(だいとう)を差し出す。


「こちらは元は体を患い仏門に帰依した妖斬りの物です。いざとなればこれでもって寺に討ち入る心づもりでしたが、刀を振るえぬ拙僧が預かるよりも、妖を退治するお武家さまがお持ちになった方が元の持ち主の意にも添いましょう」


こちらも刀身を確かめて見れば、しっかりと手入れがされており頼もしい煌めきを放っている。


「どちらも5両どころでは済まぬ品とお見受けします。本当にいいのですか?」


「ええ、構いません。というよりも、我らがこれを持つよりも、皆さまに使って頂いた方が我らの身の為にもなりますので」


「拙者も庄屋殿と同じでございます」


「兵衛さん、交渉成立でいいんじゃない?いつまでも扇子一本って訳にもいかないでしょう?」


「しかしな、俺はありがたいが、俺ばかりが刀を持ってもな」


「拙者は自前の忍具があるでござるから」


「僕も魔法が使えるみたいだし、何より一番兵衛さんが刀の扱いに慣れてるしいいんじゃない?」


自分ばかりが良いのかと遠慮がちに口にしながらも、視線はチラチラと刀に向けられている。そもそもこの小柄兵衛という男、時代劇のその中でもチャンバラ劇が一際好きで殺陣師を志した身の上。

刀こそ差さないものの、普段から袴姿で過ごすほどなのだ。刀を与えられると聞いてこれを固辞できないだろう事は他の二人からはお見通しである。


「和尚さんも言ってたでしょ。振れない人が持つよりいいって」


「そうでござるぞ。拙者も持つなら忍刀と決めているでござるから問題ないでござる」


「そう言う事であればこの刀は俺が預かろう」


二人の後押しに兵衛が応える。それに一つ頷きを返すと、再び幻一郎が話を戻す。


「対価の話はこれでまとまったとして、次はゴブリンの戦力ですね。大二郎さん、和尚さん、寺に住み着いたゴブリンはどれほどいるんです?」


「寺からの出入りを見張った限りでは14、5は最低でもいるかと」


「いくらごぶりん共が子供ほどの背丈とはいえ小さな山寺のこと、さすがに50はおりますまいが……」


大二郎の説明を啓真が補足する。


「という事は多く見積もっても30匹って所でしょうかね。それであれば兵衛さんの得物の問題が解決した今ならどうにかなると思います。出来れば一度様子を見たい所ではありますが」


「それでは!?」


期待した大二郎の眼差しを受けて、兵衛とクロードに目配せを送る幻一郎。それを受けて二人は背筋を伸ばし居住まいを正すと、兵衛のみが一歩前にずいっと進み出る。


「大二郎殿。此度の一件、我らがしかと引き受けた」


そして力強く、朗々とした声でそう宣言する。

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