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妖斬り、参る!  作者: 濃見 霧彦
第一話 迷い込んだは見知らぬお江戸?妖退治にいざ参る!
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村へと続く一本道は丁寧に土が均されしっかりと固めてあり、幅こそ街道に劣るものの馬車も牛車も快適に走れる程だと大二郎は少々自慢げである。


聞けば時折村人が総出で道を均して踏み固めているらしく、これをする事によって荷車が通しやすく、荷運びの労がグッと下がるのだそうだ。


もっとも、そんな道を挟む田畑には倒された稲やら、半端に掘り返された根菜やらと所々に荒らされた様な形跡が見て取れるのだが。


その有り様に目を遣り、ふむとひとりごちると何やら思案げな表情になる幻一郎。兵衛とクロードもその様子に気付くのだが、必要があれば自分から切り出すだろうと敢えては触れない。そのかわりに周囲を警戒し、先程の小鬼がまたいつ現れても対応出来るよう備える。


「大二郎さん、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」


幻一郎が村に着くまでの世間話といった調子で話を切り出す。


「ええ、私で答えられる事でしたら」


「先ほどの緑の小鬼を大二郎さんはゴブリンと呼んでましたよね」


「ええ、たしかにごぶりんと申しましたが、それがどうかされましたか?」


「いえ、お恥ずかしながら田舎の生まれでして、郷里ではあのようなモンスターを見かけなかったものですから、ゴブリンと言うのはあの小鬼を指しているのか念のため確認して置こうかと」


「もんすたあとは、確か蘭方での妖の呼び方でしたか。あの妖はごぶりんに相違ございません」


「やはりゴブリンですか……」


大二郎の答えを聞くと、そう一言呟いてまた思案顔になる幻一郎。少しの間を置いて意を決した表情で、兵衛とクロードに声を掛ける。


「兵衛さん、クロード。僕らの事情を大二郎さんに話してしまおうと思うだけどいいかな?」


「突然何を言いだすのだ。無論俺は構わないが」


「拙者も構わないでござるよ。出会ってまだ間もないでござるが、大二郎殿は信用できると思うでござるし」


唐突な提案に対し即座に同意する二人にかえって幻一郎の方が不安になる。


「二人とも、僕が言い出したとは言え、そんな簡単にオーケーしていいのかい?」


「構わんさ。俺には分からんが、無根拠に事情を明かす訳ではないのだろう?」


「まあね。たぶん途中で分かると思うよ」


「それなら問題ナッシングでござるよ。考えるのは幻一郎殿の担当でござる、拙者の役目は影に忍び悪を斬る事にござるからな」


それが忍びの役目かどうかはともかくとして、幻一郎の判断に委ねると言わんばかりに再び距離を置いて周囲の警戒に入る。


「大二郎さん、信じてもらえないかも知れ突飛な事を言いますが、僕らはこの辺りどころか、この国の者ではありません」


「やはりそうでしたか」


幻一郎の言葉にどこか納得のいった様子で大二郎が応じる。


「やはり、ですか。僕らが何者なのかに心当たりがあるのではありませんか?」


「ええ。細かく語れば長くなりますので、掻い摘んで申し上げますが、皆さまは神渡(かみわた)りに巻き込まれた(わた)(びと)と呼ばれる方ではないかと」


「渡り人、ですか」


「ええ。国学者の先生が書いた本には、神様が現世(うつしよ)から神世(かみよ)へお渡りになる際に、その通り道に入り込んだ者が、見ず知らずの異界に出てしまうという事だそうです。かつては神隠しや天狗渡りと呼ばれたものですな」


「なるほど、僕らはそれではないかと?」


「はい。おそらくは、ですが」


「確かにそうかもしれません。見知った路地に入って、家へと帰るための通りに出るはずが、気が付いたら見知らぬ森の出口でしたから。まあ、細かくは大二郎さんのお宅にお邪魔させて頂いてから、でしょうかね」


そう幻一郎が言葉を切って視線を向けた先には、簡素な木柵に囲われた茅葺の家々が見えてくる。門はなく、夜間は側面に板を打ち付けた荷車を置いて門の代わりとしているそうだ。


再びゴブリンに襲われる事はなく、無事にたどり着いた事にほっと胸を撫でおろすと、大二郎は3人を先導して村の入り口へと立つ。


そんな村の入り口で大二郎に気付いた村人が駆け寄って声を掛けてくる。


「庄屋さん、どうだっただか?」


「代官所では人手が足りないから手が回せないそうだ。一応は妖方(あやかしがた)にも願い出てみたが、手空きの方が出次第人を寄越してくださる程度のお答えで、あまり期待は出来んだろうね」


苦い顔で首を横に振り村人に答える大二郎。


「んだばそっちのお武家さま?はお役人さまではねえだか?」


「ああ、この方々には道中でごぶりんに襲われていたところを助けていただいたんだ。なんの礼もせずに返すわけには行かないからと一緒に来てもらったんだ」


「んだばこの武家さま方がおらたちの村を救ってくれるだか!?」


「まあ落ち着きなさい、弥吉さん。旅のお方を無理に引き止めて頼み込む訳にもいかないだろう」


一縷の望みを見つけたとばかりに庄屋に縋り付き、助けを求めるような目で兵衛達三人を見る弥吉。庄屋の戻りに気付いて集まった村人達も、期待と不安の混ざった視線を三人に送る。


その気まずさというか居心地の悪さに耐えかねて兵衛が口を開く。


「大二郎殿、我らで力になれる事があれば手を貸そう」


「旅は道連れ世は情け、袖すり合えば多少はエンジョイでござる」


続くように、おそらく肯定だろう言葉をクロードが口にする。


そんな二人とは対照的に、幻一郎は


「二人とも待った、まずは話を聞いてからだよ。出来るかどうかも分からないものを安請け合いするもんじゃない」


と二人を押し留める。


「しかしな幻一郎」


「僕も最初から断るつもりじゃないし、可能なら請け合いたいと思うよ。でも何も分からない状況で受けますって訳にはいかないでしょ。まずはとにかく話を聞こうよ」


「そうですな。頼みごとをお願いするにしてもまずは事情をお話せねばなりませんし、その辺りは腰を落ち着けて話したく思いますので、とにかくまずは我が家へとお越し下さい」


即答を避けた幻一郎に対し特に不快そうな様子も見せず、とにかく我が家へと促す大二郎。その先導に従い、一行は改めて大二郎の住まいへと向かう。


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