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妖斬り、参る!  作者: 濃見 霧彦
第二話 初陣! ゴブリン大将を討て!!
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 「さすがに今日いきなり長屋って訳にはいかなかったね」


 「まあそれもそうだろうさ。問題は今夜の宿をどうするかだな、適当に旅籠でも探すか?」


 「拙者は野宿でも一向にウェルカムでござるよ」


 旅籠の場所もわからないので、散策を兼ねて連れ立って街を歩く3人。道ゆく人の中には稀に幻一郎同様に洋装の者の姿も見える。


 「腹が減ってはキャントウォーでござる。まずは腹ごしらえでござろう」


 「それもそうだな。少々日は高いが、今日は仕事ある訳でもなし。懐も温かい事だし、飯どころで軽く一杯と行くか」


 せっかくの江戸である、楽しまなければ損とばかりに盛り上がり始める兵衛とハットリ。


 「多少は余裕があるけど程々にね、まあ僕も賛成なんだけどけど」


 旅籠は夜にでも呼び込みを当てに探せば良いと、一応は諫めるものの同じく笑顔の幻一郎。良さそうな飯処を探して辺りを見回す。蕎麦屋の文字を目ざとく見つけたクロードの「やはり江戸なら蕎麦でござろう」の一言に「日の高い内から蕎麦屋で一杯も乙なものだな」と賛同し暖簾を潜る。


 「いらっしゃい、座敷の方は埋まっちゃってるのでそっちでいいですか?」


 快活そうな娘に迎えられてその手の示す方を見れば、一枚板の飯台に樽の上に薄い座布団が敷かれた椅子。


 「ああ、構わんぞ」


 平静を装い答える兵衛だが、内心は構わないどころか大歓迎である。


 「とりあえず酒と適当に摘める物を」


 「うちは蕎麦屋なのでお酒はお一人3本まで、つまみはお任せになるけどいいですか?」


 「構わん」


 「お酒は冷で?」


 「ああ、それで頼む」


 「拙者も同じくでござる」


 「あ、僕はお茶を」


 このやり取りがしたかったのだとばかりに満足そうな兵衛、奥へと引っ込む娘を見送ってからちらりと座敷へと視線を送る。座敷には渡世人風の男が8人ばかり、何か儲け話でもあったのかわいわいと騒がしく酒を飲んでいる。


 「ずいぶん盛り上がっているな」


 視線を戻し、少しばかり声をひそめる兵衛。


 「で、ござるなあ」


 「楽しく騒いでくれてるだけならいいんだけどね」


 呑気なクロードをよそに幻一郎は気がかりそうに呟く。飲み屋で昼間から騒ぐ渡世人とくれば、後は大体想像も出来ようというものだ。


 「町娘を助けてフォーリンラブなやつでござるか?」


 「まあ、フォーリンラブかどうかは分かんないけどそれだね。もっとも、たまたま居合わせただけの客が他の客と揉め事起こして迷惑に思われる可能性のが高いと思うんだけど」


 だいいち、僕ら今無職だしねと付け加えて視線を戻す幻一郎。座敷の渡世人たちは小声で話しをする兵衛たちを特に気にする様子はない。


 「お客さん、お待たせ」


そこへ蕎麦屋の娘が盆を持ってやってくる。幻一郎用の茶の他に2合の徳利が2本と杯が2つ。それに木の芽の和え物と浅漬けの2品。


 「すまんな」


 受け取りながらも早速酒を注ぎ杯を満たす兵衛。日の高い内からとはなんとも贅沢でござるなあとクロードも続く。


 「あ、僕はもうお蕎麦が欲しいんだけど」


さて乾杯でもと杯を構えた兵衛とクロードを尻目に幻一郎は至ってマイペースに注文を始める。


 「蕎麦は盛りとかけしかないけどどっちにします?」


 「じゃあかけで、ゆっくりでいいよ」


 「はーい、じゃあ出来るまで少し待っててくだいね。あ、そうだ。うちはお酒は1人3本までしか出しませんから」


 潑剌と応え奥へと娘が引っ込むタイミングを見計らって、気勢を削がれた兵衛と待ちきれんと言わんばかりのクロードが幻一郎の前に杯を突き出し乾杯を迫る。


 「さっさと乾杯して始めるでござるよ」


 「何に乾杯する?」


 「やはりここは我らの新しい門出に、だろうな」


まあ今は無職だけど、と言う言葉を飲み込んで幻一郎もほうじ茶が注がれた茶碗を掲げる。


 奥の座敷の集団もなかなかに盛り上がっているようで、追加の酒とついでに酌をと大声で注文をつけている。


 「うちは1人に徳利で3本までって言いましたよね。お客さんたちはもう飲んじゃってるんだからお酒は出せませんよ。あとお酌を頼むなら花街にでも行ってください」


 「あんだと?姉ちゃんよお、俺らが誰だか分かっていてモノ言ってんだろうなあ?痛い眼見ねえ内に酒を持ってきて注ぎやがれってんだ!」


 楽しげな様子から一転、1人の男が立ち上がって娘にがなり立てる。周りの男達もそうだそうだと囃し立てるばかりで止めに入る気配はない。


 「どこの誰かは知りませんけどね、うちは蕎麦屋で飲み屋じゃないんですからね。それが嫌ならさっさと帰って下さい」


 娘も相当に気が強いのか、負けじと言い返す。その様子を見た兵衛がこれはいかんかと腰を浮かせる。


 「てめえ!泣く子も黙る白虎一家の源三様を舐めてんじゃねえぞ!!」


 源三と名乗った男が娘に掴みかかろうと腕を伸ばすが、割って入ったその手を兵衛が掴んで捻り上げる。


 「おい、そこまでにしておけ。大の男が娘相手にみっともないとは思わんのか。せっかくの酒が不味くなっていかん」


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