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妖斬り、参る!  作者: 濃見 霧彦
第一話 迷い込んだは見知らぬお江戸?妖退治にいざ参る!
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ぱあんと乾いた破裂音が鳴り、緑の小鬼がはじけ飛ぶ。その有り様に今まさに襲われようとしていた老人二人ばかりか、その音を放った主とその連れまでもが一瞬呆気にとられる。


「待って、今のなに投げたの!?」


コートに身を包んだ癖の強い散切り頭の男、朔月(さくつき) 幻一郎(げんいちろう)が問いかけとも非難とも取れる声を上げる。


「さすが日本製、かんしゃく玉ひとつとっても高性能でござるなあ」


逆立てた金髪に赤メッシュ、青い忍び装束の男、ハットリ・クロードはそんな問いも非難もどこ吹く風といった調子で自ら投げたかんしゃく玉の威力に感心している。


いち早く我に返った髷を結わず髪を頭の後ろで束ねた袴姿の男、小柄(こづか) 兵衛(ひょうえ)


「その話は後だ。まずはあのバケモノをどうにかするぞ」


と声を掛けるに合わせて二人の男も続けて走り出す。


「先行して後ろを片付けるでござる!」


クロードが一足早く接敵すると、先頭の三匹、続く二匹を助走をつけた勢いで飛び越え、どこからともなく取り出したクナイを最後尾に位置する三匹に投げつけ一息にこれを仕留める。


続いて先頭の小鬼と老人達との間に割って入った兵衛は無手よりはマシだろうと握った扇子を右端の小鬼目掛け横薙ぎに一閃。間合いの外に居たはずの残り二匹ごとまとめてこれをなぎ倒すも、その思わぬ戦果に戸惑いが隠せぬ様子。


「残りは任されるよ!氷弾、穿て!」


幻一郎が声を上げて腕を振るえば、氷の礫が放たれ残りの二匹を貫く。


討たれた小鬼はその場で黒い靄となって消え、後には小粒の半透明な玉が残るばかり。その様にホッと安堵しつつも、三人の男は老人の元へと集う。


「怪我はありませんか?」


突然現れ助けに入った奇妙な取り合わせの三人組に若干の戸惑いを窺わせるものの、声を掛けられ我に返ったのか、兎にも角にも先ずは礼をと背筋の伸びた老人が向き直る。


「どなたかは存じませんが助かりました」


「いやなに、大したことではありません。たまさか通りがかっただけのこと」


「袖すり合うも他生の縁、義を見てせざるは勇ナッシングでござるからな」


どうにか立ち上がった腰の曲がった老人も、未だ動揺が収まらない様子ながらも


「お武家さま、危ない所を助かっただよ。ただワシを庇って旦那さんが足を痛めちまったみてえでなあ」


と続く。


「ふむ、ちょっと失礼しますよ」


そう言って幻一郎が老人の足元に屈んで手をかざすと、うっすらとした青白い光が包み込み、痛めた箇所に染み込む様に消えていく。


「これでおそらく大丈夫だと思いますが、足に違和感はありますか?」


「いえ、おかげさまですっかり元どおり、と言うよりも元以上ですな。普段から感じていた節々の痛みさえ何処かへ飛んでしまいました」


痛みは消えた様子だが、まだ何か気がかりがあるのかその表情は冴えぬままであるが。


「まだどこか痛みますか?」


「いえ、まさか危ない所を救って頂いた上に足の痛みまで(まじな)いで取って頂いたとなると、果たして礼をいかほど用意したものかなと」


どうやら痛みではなく、新たな悩みで表情が優れなかったようである。老人の言葉に真っ先に幻一郎が反応する。


「ではいくつかお伺いさせていただけませんか?なにぶんこの辺りは不案内でして」


「でしたら立ち話もなんですので我が家においで下さいませんか?」


「お言葉に甘えさせていただきます」


「おい、朔月。俺はそんなつもりで助けた訳では……」


「まあ、いいからさ。ここはありがたくお言葉に甘えようよ。僕らの置かれてる状況もたぶんある程度わかるだろうし」


礼を求めての事ではないと固辞しようとする言葉を遮り兵衛を諭す幻一郎、特に重要な最後の一言を小声で伝え、


「おっと、申し遅れました。私は朔月(さくつき) 幻一郎(げんいちろう)と申します。草紙本のタネ集めに諸国を巡っている、という事にしておいてください」


と、歓待を受ける礼儀とばかりに、にこやかな表情で老人に名乗る。それに続いて


「私は小柄 兵衛といいます。差料(さしりょう)もない有様で恥ずかしい限りですが、武芸者として諸国を巡り方々の武芸を修める旅をしています。」


「拙者はハットリ・クロードでござる。こんな見た目でござるが、生まれも育ちも日ノ本でござるよ。拙者も忍びの道を極めるために修行の旅の最中でござる」


とまあ、三者三様になんとも怪しげな内容の自己紹介ではあるが、窮地を救い捻った足まで治したのが功を奏したか、老人は敢えて彼らの奇妙さには触れずに、


「これはこれはご丁寧に。私はこの先の日野村の庄屋をしております、大二郎と申します。これはウチで下働きをしております平助です」


と、こちらもにこやかな表情で応える。


笹本老人に促され、平助老人も三人の前に歩み出て


「平助ですだ。命ばかりか旦那さんの足まで見て頂きなんとお礼を申し上げていいやら」


と深々と頭を下げる。


「ショーヤ!?ショーヤでござるか!?」


などと俄かに盛り上がっている忍者がいるが、兵衛は元より、幻一郎も話が進まみませんからアレは気にしないで下さいと大二郎に移動を促す。

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