翠の貴公子
公爵家の継嗣として生まれた双子の一人アウルは、両親の事故死で僅か6歳にして兄を背負って生きることになってしまう。
彼の運命と出会いが数奇な物語を綴る。
長い間家を空けていた父が帰宅したと、執事を通して聞いた私は、楽しみにして出かけてきていた馬との週末を切り上げて家に戻った。
迎えの車に乗り込んでからも、一刻も早くと落ち着き無く足を動かし続けて居るのをみて、運転手がフェンダー越しに声をかけて来た。
「御館様のお帰りは久しぶりの事で御座いますねぇ。坊ちゃま。これからは何時でもお好きなときにお好きなことが御出来になりますねえ。御館様がおいでに成れば、お兄様をご心配なさらんでいいし、御館のお仕事も切り盛りなさらんで良い。何時もお可哀想だと心配しとったんです。ほんに良かったと思うとります」
「有り難う。でも、父様も大変なんだ。母様が療養中から…もう少しして、母様がお元気に成られたらお二人で戻られるだろうし…」
「そうなれば宜しゅう御座いますねぇ…」
その時は気づか無かったが、彼の何処か憚るようなもの言いの間が、実は私の知らない悪い状況を隠そうとしてだったのだと、あとに成って気が付いた。
久しぶりに会える父の事で、或いは自分の肩の荷が下ろせることを期待して、気もそぞろだった私の耳には、何時もの心配性の爺やの繰り言にしか聞こえていなかった。
最後までお読み頂いて有り難う御座いました。