九話 遭遇2
本日2話目です。
さてどうしたものか……あのアホみたいなMPが切れるまで逃げ回るのはあまり現実的ではないし……こっちから攻めるか?と言っても多分僕のステータスじゃあ勝てない……
とりあえず色々試してみることにした。先ずは近接戦。近づくために魔力を過剰に込めたライトをリッチの目の前に発生させる。過剰に魔力を込めた魔法は威力が上がる……が、非常に効率が悪いため普通に同威力の上位の魔法を使った方が消費魔力を3分の2くらいに抑えられる。ただ今回の場合はそんな便利な魔法を覚えていないため仕方がない。
ちなみにリッチは眼球が無いのに何故か普通に強い光や濃い煙などで相手を見失う。つまり普通の視界に頼っている。そして嗅覚などはないためケルベロスの時のように煙の匂いで誤魔化さなくても問題ない。そのため、危険な爆発ではなく安全なライトにした。ライトに限らずレベル1の魔法は魔力を供給し続けなければ直ぐに消えてしまうため、直ぐに蝙蝠化して天井近くに上昇した。
ライトが消え、直ぐに視界が回復したらしいリッチは僕を探すが見つからない。僕はリッチの真上へと移動すると、そこで蝙蝠化を解除し、アンデットを浄化する聖なる属性の魔力を纏わせた日蝕で斬りかかった。が、
カキィーン
と、硬質なものがぶつかった音がして、日蝕は障壁に止められていた。
「クソッ!やっぱり不意打ちでも防がれるか……!」
僕は思わず悪態をつくと、リッチがこちらに顔を向け、杖を構えたのを見て直ぐに飛び退いた。間一髪で僕がいた場所に炎の槍が突き刺さって爆発した。
そして、なんとか回避できた事に安心しているとリッチが再び炎の槍を放ってきた。しかもその量が半端ではない。視界が埋め尽くされるほどの量で、回避しきるのは不可能だと否応なく理解させられた。仕方なく魔法障壁を張り、当たったものをランダムで転移させるディメンションボールを大量に配置した。
正直この魔法はこういう使い方以外に活用法がない気がする。転移先を指定できるならまだしも完全にランダムだし、転移する場所は自分から半径1キロ以内のため、緊急離脱にも使えない。敵に当ててもうまく1キロ上空に行けばいいが、それも確定ではない。下手をすれば近くの街の中に転移してしまう可能性もあるのだ。
リッチが炎の槍を一斉に発射した。その炎の槍は、ディメンションボールにぶつかって消えたり、障壁に激突して爆発してりしている。ディメンションボールにぶつかって転移した炎の槍が僕の後ろの方や周囲に現れて地面や壁を爆破している。そのうちの何発かはリッチの近くに転移したものもあったが、やはり障壁で防がれていた。
この状況を打破する方法を考えているた僕は、急に自分の近くに転移してきた炎の槍に反応することが出来ず、もろに食らってしまった。
「ッ………!」
炎に焼かれ、悲鳴すら出ない。そのまま吹き飛ばされ、壁に激突するかと思ったその時、壁をすり抜けた。
「ガハッ…!」
ドゴン!と音をたてて壁をすり抜けた先の壁に激突した僕は、地面に倒れ伏した。
「クソッ……!そりゃあそうだよな。ランダムなんだから僕の直ぐそこに転移するのだってあり得るよな。」
吸血鬼の回復力で多少ダメージが回復し、動けるようになった僕は辺りを見回した。そこは地面に藁が引かれ、木で出来た机や椅子がある、「部屋」だった。
「どうなってるんだ……?ここは何なんだ?」
ぽつりと口から出た疑問を解決するため、部屋の中を少し見てみることにした。と言っても、この部屋はそこまで広くはない。机と椅子だけで場所の半分近くを占めているほどだ。そのため、自然とみるのは机の上になる。そこには一冊の日記があった。
中を見てみると、そこに書いてあったのはあのリッチになった男の日記だった。それによるとこの男は高ランク冒険者で、このダンジョンにて起きていた高ランク冒険者の行方不明事件を調査する依頼受け、パーティーとともに来ていたらしい。
○月×日
ようやくこのダンジョンの最深部に到達することが出来た。しかし、そこにいたのは竜のアンデットであるドラゴンゾンビだった。このダンジョンは明らかにおかしい。45階層を超えたあたりから、急に徘徊している魔物が強力になった。44階層まではオーガなどのD+ランクの魔物がメインだったのに、45階層以降は急にBランクが出没するようになり、この階層の階段を降りた先はAランクのケルベロスの縄張り。パーティーのみんなはこいつにやられた。あげくにボスはA+のドラゴンゾンビときた。しかもこいつは大きさから考えて元が上位竜以上だろう。もしかすると古代竜の可能性だってある……!明らかに初心者向けダンジョンに居ていい魔物ではない。なんとかここを脱出し、ギルマスにこのダンジョンの危険性を伝えなくては……!
○月△日
しまった……!ドラゴンゾンビの呪いのブレスを食らってしまった……!このままでは俺は徐々ににアンデットへとなっていくだろう。幸いここは魔物よけのアーティファクトを持っていたおかげで見つからない。今のうちに対策を練らねば。
○月○日
最近たまに記憶にない戦いをしている。おそらく浸食が進んでいるのだろう。浄化魔法の使えるシエナが生きてさえいれば……!
○月◇日
ようやくアンデットの力を弱める魔道具が完成した。しかしもうほぼアンデットとなってしまった俺の魔力では起動させることが出来ない。結局間に合わなかった……
○月✴日
もう俺の意識よりもアンデットとしての自我の方がメインになってきている。最後の悪足搔きとして、あのドラゴンゾンビを倒すことにする。今ならアンデットとしての大量の魔力に物を言わせて倒せるだろう。もしこの日記を読んでいる人が居るなら君に俺の所持品とアンデットの力を弱める魔道具を託す。これらを隠した仕掛けの解除呪文は『不屈の意志を』だ。どうか俺を倒してくれ。
僕はそれを読み終え、静かに日記を閉じると日記をアイテムボックスに収納した。地上に戻ったとき冒険者ギルドに届けようと決意しながら。
「……不屈の意志を」
僕がそう言うとともに、壁の一部が淡く光り、その部分が開いた。その中には高さ30センチほどで六角柱をした赤い水晶と、大きな袋があった。僕はまず、水晶を手に取ると、紙切れがついていた。そこには
『この魔道具はもともとあった周囲の毒素を浄化する魔道具を改造して造った魔道具だ。魔力を流せば起動し、あたりから瘴気を吸収して聖なる魔力として放出する。これならアンデットの力を弱められる。俺の自動障壁の強度は魔防値と物防値に比例するから、これを使えばかなり脆く出来るはずだ。頑張ってくれ。』
と書いてあった。僕は水晶を握りしめ、完全に体力が回復したのを確認してからリッチのいる大部屋へと踏み出した。