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十五話 帰還

目が覚めるとそこはゴブリンの集落の僕が倒れていた場所からさほど離れていない建物の陰だった。


「やあ、目が覚めたか?」


声の方を見ると黒い髪をした優男がいた。しかし、優男という言葉から連想するヒョロっちい感じはしない。身長は180cmほどだが、どちらかと言えば引き締まった体つきをしている。そして柄に百合の意匠をあしらった真っ黒な剣を下げていた。


「この度は助けてくれてありがとうございます。ところであなたはどちら様でしょうか?」


僕がそう聞くと彼はさわやかに笑って言った。


「そんなに堅くならないでくれ。僕はSランク冒険者のウィリアム。『黒剣』とも呼ばれていたりする。職業は魔法剣士だ」


僕は言われた事を理解するのにしばしの間が必要だった。そして頭が理解すると同時に体が動いていた。


「弟子にしてください!」


我ながら見事な土下座だったと思う。そして相手の引きっぷりも見事だったと思う。


「お願いします!僕は強くなりたいんです!」


そう、せっかく復活させてもらったんだから強くなって無双したいじゃん。


「ま、まあとりあえず落ち着いて。取り敢えず街へ帰りがてら話そうか」


僕の様子から本気だと伝わったのだろう。ウィリアムさんは少し引きながらも優しく笑ってそう言ってくれた。微妙に笑顔が引き攣っていたけれども。


「ところで君はどこ出身だい?自分以外の黒髪なんて初めて見たよ。君は忌み子と迫害されなかったんだね。幸せに育った目をしている」


「……ウィリアムさんは迫害されたんですか?」


「ああ、されたよ。道を歩けば石を投げられ、野菜が育てば畑を荒らされ、狩りに行けば罠に嵌められ、家に篭れば火をつけられた。村の中に僕の居場所はなかった。恋人であるオリビアの家が匿ってくれなければ生きてはいられなかっただろうと今でも思うよ。実際僕の家族は全員死んでしまったしね」


僕は絶句した。僕が向こうの世界で受けていたイジメなんて比べ物にならない程のことをこの人は今の僕より遥かに幼い頃からされていたのだということに気づいたからだ。


「まあ今ではSランク冒険者なんて肩書きを手に入れて大手を振って表を歩けるようになったけどね。良かった良かった」


……それで本当に良かったのだろうか?なにせ彼は迫害に対して恨みを持っているわけでも、家族を殺されたことに対して恨みを持っているわけでもないことが話していてわかったからだ。まるでその他のことに心の容量を取られてしまってそんな事考えられないと言ったように。

一体何が起こればここまで心の容量を分けられるのだろうか。

僕は話をそらすことにした。


「ところでその剣は銘とか無いんですか?見事な意匠ですけど」


「ああ分かるかい?この百合という花はね、オリビアがとても好きだった花なんだよ。この黒百合の剣にはね、白百合の短剣という対になる短剣があるんだ。真っ白な短剣の柄にこれと同じ百合の意匠をあしらった綺麗な短剣だよ。オリビアの護身用として作られた短剣だ」


「なるほど……ではその対になる剣を互いに持っている二人は離れていても繋がっている、ってことですね」


それを聞くとウィリアムさんは一瞬ポカンとした後とても面白そうに、それでいて嬉しそうに笑った。


「はは、確かにね。君はなかなかロマンチストのようだ。ところで黒百合の花言葉を知っているかい?」


「いえ、知らないです。白百合なら確か『汚れの無い心』『純潔』だったとおもいますけど」


「そう、それ以外にも『無垢』や『清浄』『ピュア』、『尊厳』や『堂々たる美』なんてのもある。正に彼女に相応しい花だ。そして黒百合の花言葉は『恋』そして『愛』だ。僕達の関係を表している」


「なるほど」


「ところでもうすぐ門だよ。ギルドカードを準備しておいた方がいいと思うけど」


そう言われて前を見るともう衛兵が見えるくらいに近づいてきていた。


「ああ!ほんとだ!早く用意しないと」


因みにこの街、入るだけなら確かにステータス確認だけで入れるのだが出る時は身分証明が出来るものが必要になるし、行きで提示した場合帰りも提示しないと冒険者の場合最悪そのまま死亡扱いになる可能性もある。

街に入るとそのままギルドに直行し、ウィリアムさんも混じえてギルマスと三人で報告等をした後報酬を受け取ってギルドから出た。


「さてと。ウィリアムさん、弟子の件、考えて貰えましたか?」


「……うん、まあいいよ。僕の目的達成のために無条件で協力することを条件に引き受けようじゃないか」


「マジですか!?全然いいです!しますします何でもします!」


「そっか。ありがとう。じゃあまた明日8時頃に冒険者ギルド前で合流しよう」


「了解です!それでは、また明日!」


「また明日」


そして僕はそのまま急いで宿を取るためダッシュで走っていった。











カケルが走っていったのを見届けたあと、ウィリアムは振っていた手を下ろして笑みを浮かべた。とても陰のある、暗いマイナスの感情に支配された負の笑みを。


「フフ。彼は知らないんだね。黒百合の花言葉は『恋』と『愛』だけじゃなくて『復讐』や『呪い』でもあるってことを。でももう言質はとった。あとはじっくりと時間をかけて育てるだけだ。フフ、オリビア、もう少しで悲願を果たしてあげるからね……」


彼はそう言いながら懐から短剣を取りだした。柄に彼の剣とおなじ百合の意匠をあしらった真っ白な美しい短剣を。

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