十三話 就職
教会に着くと幾つかの石像があり、その足元に扉があった。石像は髭をはやした爺さん、ムキムキの厳ついおっさん、小太りの男性、妖艶な美女、ドワーフのような髭モジャの男、そしてどう見ても魔神にしか見えない中性的な石像があった。
近くにいたシスターさんを捕まえてあの石像の意味を聞くとそれぞれ創造神、闘神、商売神、美術神、技巧神、そして最後はやはり魔神らしい。
足元の扉の中にはそれぞれ各神様の祈りの間があるので、自分の信仰している神様のところに行くらしい。
僕は魔神のところに行くことにした。生き返らせて貰った恩があるので誰を信仰するかと言われればやはり魔神だからだ。
扉の中に入ると魔神の石像があり、その前で色々な人が祈っていた。だが、やはり魔族の神であり魔法の神であるためか、魔法使いらしき人や魔族と思われる人達が多かった。
石像の前に行くと周りの人を見てそれと同じように片膝をついて手を組んで祈った。
「カケル君。顔を上げてくれないか」
声が聞こえたので顔を上げるとそこには予想通り魔神がいた。
「これって祈ったら誰でもここに来れる訳じゃないですよね加護持ちとかじゃないと来れないとかですか?」
「う、うん。確かにその通りなんだが結構落ち着いてるね。もう少し驚くかと思ったんだけど
「ええ。こういう場面はよく知ってますしね(主にラノベで)」
「なるほど。まあとりあえず直球に要件を言うよ。まず君の職業だが、魔法剣士というレアな職業だ。本来剣士のジョブと魔法使いのジョブ両方を経験していないとなれないが、君は初めからこれだ。目立つと思うからあまり公言しないことをおすすめするよ。二つ目が君の???になってるスキルだが、かなり危険なものだ。使い方を間違えるとこの世界に崩壊を齎しかねない。注意してくれ。最後に、君に一つ謝罪をしなければならない。君は自分が何の勇者だったか覚えているかい?」
「はい。確か忍耐の勇者だったと思いますけど……」
「その通りだ。ところで君は『七つの美徳』というものを知っているか?」
「いえ、知りません。七つの大罪なら知ってますけど……」
「七つの美徳というのは、人間の代表的な罪とされる七つの大罪に対応する人間の代表的な美徳の事だ。傲慢と謙譲、憤怒と慈悲、嫉妬と忍耐、怠惰と勤勉、強欲と救恤、暴食と節制、色欲と純潔と言うふうに互いに対応している。そしてこれはスキルにも言えることだ。この世界には大罪スキルと美徳スキルがあり、普通のスキルとは格が違うとしか言えないような強力な効果を持っている。そのかわり、一度にひとつしか存在しえないけどね」
「え?ということは、僕の忍耐の勇者の称号からすると僕もその忍耐をもっているはずなのでは……」
「そうなんだが、そこに手違いがあった。本来自分で持ち主を選ぶ大罪スキルと違い、美徳スキルは私たち神が適切な者を選んで付与するんだけど、前回言ったミスで付与できなかった。恥ずかしいことにそれに今の今まで気づいていなかったんだ。それで、君に聞きたいんだけど君は忍耐のスキルが欲しいかい?強力なスキルだが、持っていると面倒なことになる可能性もあるスキルだ。君の選択に任せよう。」
僕は少しの間考えたあと、結論を出した。
「欲しいです。僕は今少しでも力が欲しい。だから、僕に忍耐のスキルをください」
「分かった。なら君に付与するよ。ただ、今の君ではこのスキルを扱うことは出来ないだろう。さっき言ったあのスキルと同じように???になると思う。進化すれば使えるようになるだろうから、そしたら使ってくれ。それじゃあ君の精神を体に戻すよ」
「分かりました。色々と聞きたいことがありますけど、それは次の機会にすることにします」
【希少スキル魔法剣を獲得しました】
僕はそのままとりあえず元の祈りの姿勢に戻った。そしてしばらくして目を開けるとそこは元の神殿だった。ステータスを確認して魔法剣士になっている事を確認するとそのままそこを出て出入り口付近にあった箱に布施を入れ門に向かった。
なんだかんだで教会でもそこそこ時間を使ってしまったため、門に着く頃にはもう昼過ぎになってしまっていた。
門を出ると衛兵に要件を聞かれたので冒険者としての仕事をしてきますとだけ言って森に向かった。