帰ってきた小学生の場合
「ここが噂の廃校なの? なんかこわ~い」
「結構雰囲気あるよねぇ~。なんか本当に出て来そう」
「ハハハ。そう思うから、なんてことないものも心霊現象だと思い込んでしまうんだよ。病は気からって言うだろう? それと同じさ」
「そうだよね! さっすがリュウセイくん!」
「リュウセイくんはいつも落ち着いててカッコイイなぁ」
「そんなことないさ。僕だって慌てる時くらいあるよ?」
「えぇ~~、うっそだぁ~~」
廃校を前に、女子達がきゃいきゃいと黄色い声を上げる。その中心では、こんな夜中にも拘らずブランド物の服に身を包んだリュウセイが、余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「……チッ」
「ちょっと、やめなよコウタ」
「むかつくんだよ、アイツ」
「それはまあ気持ちは分かるけど……そんなに睨んだら、女子を敵に回すよ?」
「……」
共通の敵を見付けた時の女子の結束力ほど恐ろしいものはない。
そして、ここにいる女子は全員リュウセイの味方だ。というか、取り巻きと言ってもいいかもしれない。
ここでリュウセイへの敵意を露にしたら、周囲の女子から100倍にして返されることは目に見えていた。
「クソッ、しゃーねーな」
小声でそう呟き、苛立ちを抑える。そうすると、ダイチもほっとしたような表情をした。
そして、改めて目の前の廃校を見上げると、苦い顔をした。
「それにしても……またここに来ることになるなんてね……」
「ああ……もう絶対来ないと思ってたんだけどな……」
北畑第四中学校。
夜の闇に沈むその廃校は、以前と変わらずに不気味な存在感を放っていた。
俺達が夏休みの終わりに、こっそり花火をしようとこの廃校に忍び込んだのは、今から3週間前のこと。
その日、一緒にいたシノが霊を目撃したと騒ぎ、俺はそれを信じずに校舎内に侵入した。
そして、女の子の霊に追い掛けられたのだ。ここにいるダイチと一緒に。しかも、ダイチは校門を出る直前に金縛りに遭ったらしい。
その話を夏休み明けに学校でしたのだが、面白がったり怖がったりするクラスメートの中、真っ先に俺達の話を笑い飛ばしたのがここにいるリュウセイだ。
リュウセイは家がお金持ちのイケメンで、いつも澄ました顔で俺達を子供扱いしてくるいけ好かない奴だ。女子達からすると、それが大人っぽくてかっこいいという評価になるそうだが。
その時も、心霊体験を語る俺達の前で科学がどうだの心理学がどうだのとうんちくを垂れて、俺達が経験したあれこれは本物の心霊現象ではないとエラッソーに全否定してみせたのだ。
そりゃあ俺だって、世に言う心霊現象のほとんどが科学で説明できることくらい知っている。
特にこういった古びた建物では、あちこちの隙間やガタついた配管などを通る風の音が、変な音や声に聞こえたりするらしい。
だが、俺達はあの時、確かに後を追って来る女の子の声を聞いたのだ。しかも最後は、何もない校庭で女の子の声に追い掛けられた。あれは断じて気のせいでも何かのトリックでもない。
なのに、リュウセイは自分は経験していないくせに、まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるようにして、それは気のせいだと言いやがったのだ。
流石にそんな風に言われたら俺も黙っていられず、「いいぜ! そこまで言うなら今度一緒に行こうぜ! 俺が言ってることがウソだったら、土下座でも何でもしてやるよ!!」と啖呵を切ってしまったのだ。そして今に至る。
「それにしても、ここまで大人数になるとはね……」
「どーっせ、『キャーこわーい』とかやってリュウセイに抱きつきでもするつもりなんだろ。ケッ」
呼びもしないのに集まった8人の女子を睨みながら小声でそう吐き捨てると、ダイチが少し怪訝そうな顔でこちらを見た。
「……なんか、いつになく荒れてない?」
「……別にっ!」
そう言って鼻を鳴らしてみたが、自分が荒れている理由は自分で分かっている。
リュウセイを取り巻く女子共から一歩引いたところで、控え目な笑みを浮かべている少女を横目で見る。
同じクラスの橋本。その表情は少し困ったような、気弱そうな笑みだったが……リュウセイを見詰める目には、他の女子共と変わらない熱が籠っていた。
「チッ」
そう、俺は単純に、橋本があそこにいることが気に食わないのだ。
だが、そんなことをダイチに言う訳にはいかず、結局「女子がうるさくてイラついてるだけだ」と告げた。
すると、一応納得したらしいダイチが、何やら暗い笑みを浮かべた。
「フフフッ、まあ今の内に余裕ぶってればいいさ。戦場でいちゃつく奴は真っ先に死ぬって相場が決まってるんだからね……」
「お、おう? そ、そうか」
なんだかヤバイオーラを発し始めたダイチから目を逸らし、俺はリュウセイとその取り巻き共に「そろそろ行くぞ」と声を掛けた。
そして、俺は二度と来ることはないと考えていたこの心霊スポットに、再び足を踏み入れたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なにあのリアルハーレム野郎。死にたいのか?」
俺は侵入して来た小学生達を見ながら、この上なく平坦な声で呟いた。
なんか先頭の2人には見覚えがある気がするが、そんなことはどうでもいい。
それより問題なのは、その後ろで女子達に囲まれながらキャッキャウフフとイチャついてるあのクソガキだ。
この俺の管理地でラブコメ、しかもハーレムプレイをするとは、よほど死にたいらしい。
あ? 小学生相手に大人げない?
じゃかしいわボケ! モテる男に大人もガキも関係あるかい!!
「クックック、俺は米川純一。モテる男となれば小学生相手でも手を抜かない男ぉ!!」
俺の管理地でラブコメする奴には、死を以て償ってもらわなくてはならない。そう、尊厳の死でなぁ!!
俺の気迫によって、窓ガラスがガタガタと揺れる。沸き立つ瘴気によって、室内の空気がざわつく。
「さて、どうするかな」
一旦心を落ち着かせ、作戦を考える。
普通に脅かしてもいいのだが、それだと最悪あのハーレム野郎が漢気を発揮して、吊り橋効果でかえって逆効果になるかもしれない。と、すると……
「……そうだな、これでいくか」
俺はかつてやったことのない試みに一抹の不安を抱きつつ、成功した時のことを思ってニヤリとした笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ~夜の学校ってなんかこわい~~」
「ははは、大丈夫だよ。実際何も起こらないじゃないか」
「何も起こらなくてもこわいよぉ」
「大丈夫。万が一何かあったら僕が守るから」
「リュウセイくん……」
「ちょっと! リュウセイくんにくっつき過ぎ!」
「こらこら、そんなに怒鳴ったら可愛い顔が台無しだよ?」
「そんな、かわいいなんて……」
周囲の女の子達を安心させながら、暗い廊下を進む。
たしかに夜の学校は少し不気味な雰囲気がしたが、別に今のところ何も起きていないし、話に聞いていたような女の子の声もしていない。
まったく、コウタくんとダイチくんにも困ったものだ。
皆の気を引きたかったのかもしれないけど、あんなくだらない作り話をするなんて。幽霊なんか現実にいるはずがないだろうに。
まあ僕は優しいから? クラスメート達の前で素直に自分の嘘を認めて謝れば、別に土下座までさせるつもりは無いけど? もっとも、ダイチくんはともかくあのコウタくんが素直に謝るとは思えないけども。ほんと、目立ちたがりやな子供はめんどくさいなぁ。
「ちょっとコウタ? なぁ~んにも出て来ませんけど?」
「うっせぇ! お前らがうるさいから出て来ないのかもしれないだろ!」
「幽霊がそんなこと気にするぅ? 今の内に作り話だって認めちゃいなさいよぉ」
「作り話じゃないっての!! なあダイチ?」
「う、うん……」
やれやれ、必死じゃないか。コウタくんは。
その一方で、ダイチくんはもうだいぶ落ち着かない様子だけど? そろそろ嘘だったって認めないと、引っ込みがつかなくなるんじゃないかな?
「まあまあ皆、2人がそう言ってるんだ。もう少し回ってみようじゃないか」
「えぇ~~? リュウセイくん、こんな奴らの言うことを信じてるのぉ?」
「幽霊がいるとは思っていないよ? でも、それはこの2人が嘘を吐いてるということにはならない。もしかしたら、何かの音を女の子の声と勘違いしたのかもしれないじゃないか。それを確かめるためにここに来たんだしね」
「まあ、そうだけどぉ……」
実際、何かの幻聴か勘違いか……まあ、十中八九ただの作り話だろうけどね。
夜の廃校で女の子の声を聞いたなんて、あまりにもそれっぽ過ぎる。それに、ここは小学校じゃなくて中学校なんだよ? 中学校に小さな女の子の霊がいるなんて、その時点でおかしいじゃないか。まったく、作り話をするならせめてそのくらいの辻褄は合わ──
── ㇰㇲㇰㇲ
「……」
「? リュウセイくん?」
「あれ? どうしたの?」
「え、あ、ううん。何でもないよ?」
何かが聞こえた気がして思わず立ち止まると、周りの女の子に心配されてしまった。
その様子からすると、他の子達には聞こえなかったらしい。
……なんだ、聞き間違いか。やれやれ、2人のくだらない作り話のせいで、僕まで変に意識してしま──
── ねぇ
「……」
「リュウセイくん?」
「ちょっと、また?」
「……ごめん。今、誰かしゃべったかい?」
「え?」
周囲を見回すが、誰も彼もが不思議そうな顔をしている。
「おい、どうした?」
「何かあったの?」
先を進むコウタくんとダイチくんが、こちらを怪訝そうに振り返る。
その2人の顔をじっと見詰めるが、特に何か悪意は感じられない。
これは、この2人の仕込みではない? ……いや、やっぱり聞き間違いだろう。だって、さっきの声は右の方から聞こえた。教室が並んでいる左側ならともかく、右側には校庭を見渡せる窓ガラスが並んでいるだけなのだ。
窓ガラスが、あんな音を立てるとは思えない。もし万が一聞き間違いじゃないとするなら、その声の主はすぐ隣か、あるいは窓の向こうにいるということに──
── ねぇ、聞こえてるんでしょ?
「っ! さ、さて、もういいんじゃないかな? そろそろ帰らないかい?」
「はあ? まだ入ってから10分くらいしか経ってねぇじゃん」
「それに、僕らが女の子の声を最初に聞いたのは、一番上の階の校長室の前だったから……せめてそこまで行ってみないと」
「それは……いや、でも……」
「どうしたの? リュウセイくん」
「ああ、いや……」
── ねぇ、こっち見てよ
「~~~~っ!!? じゃ、じゃあ、早くそこへ行こう!! その方が手っ取り早いだろう!?」
「お、おう……まあ、いいけどよ」
「う、うん? じゃあ、階段に向かおうか?」
「さっさと行こう! さっさとね!」
速足で階段に向かおうとするが、周囲の女の子達が邪魔でゆっくりとしか進めない。
そうこうしている内に、また声が聞こえた。やはり窓の方から。
こうなると正直、女の子達が邪魔でしょうがない。でも、まさか蹴散らして進むわけにもいかない。というか、なんで僕だけにしか聞こえていないんだ? 本当に皆気付いていないのか? なんなんだ、なんなんだよこれ!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くっくっく、キョドッてるキョドッてる」
割とただの肝試し感覚でいる小学生の中、1人だけ様子がおかしいハーレム野郎を見て、俺は満足感を覚える。
別に、やったことは特別なことじゃない。
普段から使っている《効果音》を、今回は極力ボリュームを抑えつつ特定個人の耳元で発生させることで、1人だけに霊の声が聞こえるようにしたのだ。今回の場合、ハーレム野郎の右耳の辺りに狙いを定めた。
座標の設定がかなり難しかったが、どうやら上手くいったらしい。先程から、ハーレム野郎はしきりに窓の方をチラ見している。最初の余裕はどこへやら、今はすぐにでも逃げ出したいと思っているのが手に取るように分かる。
「さぁて、上手いところ踊ってくれよ」
俺は止めを刺すために、最近新たに召喚した下級霊に指示を出した。
こいつは元々、この北畑第四中学校の召喚リストには存在しなかった霊だ。元はと言えば宍戸トンネルの召喚リストにあった霊を、《管理者チャット》の機能を使って取り寄せた。
召喚リストは管理地のレベルアップなどでも新たな項目が追加されるらしいが、こうして《管理者チャット》を介して他の管理地と繋がることで、その管理地にあって自分の管理地にはない項目を自分のリストに追加できるのだ。
もっとも、リストの追加自体には相手側の管理者の許可がいるし、追加するのにもHPを消費する。しかも召喚の際には“本場”よりもかなり割増しでHPを消費しなければならないが、今回のこいつに関しては結構使い勝手がよさそうだったので、思い切って召喚してみた。
「180HPも使って召喚したんだ……精々役立ってくれよ」
この校長室のすぐ外の廊下、その窓の向こうにスタンバイしたそいつを見て、俺は暗い笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(なんだ、あいつ? なんかずっとキョロキョロしてっけど)
背後のリュウセイを肩越しに見ながら、俺は内心首を傾げていた。
リュウセイの提案でさっさと校長室に向かうことになった俺達だが、当のリュウセイがさっきからずっと落ち着きがないのだ。
周囲の女子達の言葉にも生返事だし、いつもの爽やかな笑みもどこへやら。ずっと引き攣った笑みを浮かべながら、しきりに校庭の方を気にしている。
「着いたよ。前回、僕達はここで女の子の声を聞いたんだ」
そうこうしている間に、校長室の前に着いた。
……あの出来事を思い出すと、今でも震えが走る。だが、今は女子達が騒がしいのと、リュウセイの様子が気になるのとで、そこまで恐怖は感じていなかった。
当の俺達ですらそうなのだ。あの出来事の当事者でない女子達はもっと緊張感がないらしく、口々に騒ぎ出した。
「別に、何も聞こえないけど?」
「なぁ~んだ、やっぱり作り話かぁ」
「ま、そんなことだろうと思ってたけど」
「あ~あ、つまんないのぉ」
「あ、そうだ。コウタ、あんた土下座するとか言ってなかったっけ?」
「っ」
1人の女子がそう言ったのを皮切りに、他の女子も次々とニヤニヤ笑い出した。そして、ついに土下座コールが始まる。幸い、橋本はどこか困った表情でおろおろしており、そのコールに加わっていなかったが……。
「まあまあ、皆落ち着こうよ。誰だって勘違いすることくらいあるさ」
リュウセイが引き攣った笑みを浮かべながらもそう言うと、それまで土下座コールをしていた女子達が一斉にリュウセイに擦り寄った。
「もう、リュウセイくん優し過ぎ~」
「ホントだよぉ」
「は、ハハハ。まあね。じゃあ、そろそろ──」
── ねぇ、こっち向いてったら
その声は、突然響いた。
ただし、前回と違って廊下の奥からではない。
聞き覚えのあるその声は……校庭側の窓の外から聞こえたのだ。
その場にいる全員が、一斉に窓の方を向く。まるでそのタイミングを狙いすましたかのように、次の瞬間。
バンバンバンバンバンッ!!!
窓ガラスを叩く激しい音。窓が内側に揺れ、ガタガタと音を立てる。
でも、姿は見えない。外側から窓を叩く何者かの姿は、全く見えない。なのに、なのに……
赤い。
赤い、手形。
赤い手形が、次々と窓に……
「きゃあぁぁぁーーーーーー!!!」
絹を裂くような悲鳴がし、俺は反射的にそちらを見た。そして、唖然とした。
まるで女子のような悲鳴を上げつつ、廊下を駆け抜けていく人影。それが、まさかのリュウセイだったから。
そして、そのリュウセイを追いかけるようにして、廊下の窓に足跡ならぬ手跡が付いていく。
隣のダイチも、取り巻きの女子も、リュウセイに突き飛ばされて床に尻もちをついている女子も、全員が呆然とその後ろ姿を見送った。
そして、リュウセイが階段へと駆け込むと、窓を叩く手の音もその後を追い、やがて聞こえなくなった。
静寂。その中で、俺の耳が微かな水音を拾った。
無意識にそちらを見ると、音の発生源はリュウセイに突き飛ばされて尻もちをついている女子……って、橋本じゃねぇか!
慌てて駆け寄り、助け起こそうとして……その水音の正体に、気付いてしまった。橋本のお尻の下に広がる水たまりを見て。
「っ、い、いやぁっ! 見ないで! 見ないでぇ!!」
そこでようやく橋本も自分の醜態に気付いたのか、脚を閉じると両手でスカートを押さえ、体を縮こまらせる。
だが、その声のせいで逆に橋本に注目が集まってしまった。
ダイチも、他の女子も、次々と橋本のお漏らしに気付いていく。
(や、やばい。このままじゃ橋本に一生モノの黒歴史が……)
なんとかフォローしようとするが、何も思いつかない。
そうこうしている間に、女子の1人が嗜虐的な笑みを浮かべ、橋本に向かって口を開いて──
バタンッ! カチャカチャカチャカチャ!
廊下の奥から激しくドアを開く音がし、こちらに何かが近付いて来た。
反射的に視線を上げ……こちらに駆け寄って来る骸骨を見て、完全に硬直した。
まるで短距離走のオリンピック選手のような、実に美しいフォーム。そしてその手には、窓から取り外したカーテンらしき布が握られている。
誰もが予想外の展開に動けず、声も上げられずにいる中、骸骨はあっという間に俺達の元へと辿り着くと……そっと橋本の前に跪き、その手に持っていたカーテンをファサッと橋本に掛けた。それはまるで、王子様が、暴漢に襲われてあられもない姿となった令嬢に、自らのマントを被せるかの如く。
そして、橋本を実にスムーズにカーテンでくるむと、これまた驚くほど自然な動作で橋本をお姫様抱っこした。
「え、あ、ええ?」
これには橋本も呆然とするしかない。
自分の体と骸骨の顔との間で視線を行ったり来たりさせる橋本に向かって、骸骨は落ち着かせるようにそっと頷くと、そのまま俺達に背を向けた。
骸骨にお姫様抱っこされ、どこかに運ばれる橋本。
普通なら止めるべき場面なのだろうが、その骸骨の後ろ姿があまりにも堂々としており、橋本をお姫様抱っこする姿があまりにも様になっていたので、俺達は何も言えなかった。
誰からともなくその後を追うと、骸骨は階段を降り、玄関ホールを抜けると、そのまま校庭に出てしまった。
そして、校門の前まで来るとようやくその場に橋本を下ろした。
ゆっくりと腰を屈め、飽くまでも優しく、労わるように橋本を地面に下ろす。
そして、自らは跪いたまま、橋本が自分の脚でしっかりと立つのを確認する。
「あ、ありがとうございます……?」
橋本がおずおずとお礼を言うと、骸骨はその頭にそっと手を乗せ、軽く撫ぜた。
そして、その空洞の目をこちらへと向けると、ついっと校門の方に手を向けた。
その姿は、まるで「もう帰りなさい」と言ってるかのようで……。
「お、お邪魔しました……?」
俺達は口々にそう言うと、骸骨に見守られながら校門を乗り越えた。
骸骨は俺達が全員敷地から出たのを確認すると、こちらに手を振りながら校舎の方へと戻っていく。
その姿を、俺達はずっと見送り続けた。
やがて、骸骨は玄関の前で優雅に一礼すると、校舎の中へと消えて行った。
「やっべぇ、クソかっけぇ……」
その日、俺達は真のイケメンを見た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なにあいつ、イケメンかよ」
俺、なんも指示出してないんだけど。
というかあいつ、この前の女子高生相手には一切容赦なかったくせに……あれか? 小さくて無垢な女の子は別ってことか? なにそれ紳士かよ。いや、ホネさん女疑惑あったっけ? だとしたら宝○歌劇団の男役かよ。タキシードとか着せたら意外と似合うんじゃないか? あいつ。
「……さてと、あのハーレム野郎はどこ行ったかな?」
頭を振って気分を切り替え、ハーレム野郎の現在位置を探る。
ちなみにあのガキを追い立てた霊は、名を《赤い手》という。霊力を消費して、赤い手形を付ける“血手形”という技能を有している。車で心霊トンネルを通った時、車の窓に手形を付けるのがこいつだ。もっとも、本物の血ではないので時間経過で手形は消えるらしいが。
この上位版に血文字を書くことが出来る《赤い指》という霊もいるらしいが、そちらはリストに追加していない。消費HPがハンパじゃなかったし、そもそも中位霊だから今の俺では操れない可能性があったからだ。
まあ、それはともかくとして。
「ん……ああ、ここ2階か」
ハーレム野郎は、2階の教室の隅でプルプル震えていた。
どうやらここまで逃げたところで腰が抜けてしまったらしく、床に寝っ転がって丸まっていた。
「……」
その姿は、どう見ても完全に怯え切っていた。
いくらハーレム野郎とはいえ、相手は小学生だ。流石にこれ以上追い打ちを掛けるのは……
「うん、躊躇う理由は無いな。リア充は敵だ」
このあと滅茶苦茶Hした。一晩中、足腰立たなくなるまで、な。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
今回のポイント収支
消費HP
・監視用モニター ―― 584HP
《罠設置》
・各種効果音×42 ―― 126HP
・ポルターガイスト×25 ―― 125HP
・金縛り×14 ―― 140HP
《召喚》
・動く人体模型×1 ―― 30HP
計 1005HP
――――――――――――――――――――――――
獲得HP
・通常ポイント ―― 2874HP
・腰抜かしボーナス×3 ―― 45HP
・失禁ボーナス×3 ―― 75HP
・失神ボーナス×4 ―― 200HP
計 3194HP
――――――――――――――――――――――――
合計 2189HP獲得
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
侵入者のその後
・コウタとダイチ
多くの証人を得られたことで、心霊体験が嘘ではなかったと証明され、一時的に学校中の注目を浴びる。しかし、冷静になってみるとかなり怖い体験をしていたことに気付き、心霊体験を周囲に話しつつも、遊び半分で近付かないよう忠告するようになった。ただし、効果はあまりなかった模様。
・リュウセイ
純一に徹底的にいじめ抜かれた結果、一月ほど不登校になる。その後なんとか学校に通えるようになったが、学校そのものに対する恐怖は消えず、常にビクビクしている挙動不審な子供になってしまった。加えて、元取り巻き達に真っ先に逃げたことをあちこちで暴露された結果、学校での人気は急降下。ただその代わり、同じ体験を共有したコウタとダイチとは、少し仲良くなった模様。
・取り巻きの女子達
今回の一件でリュウセイの醜態を目撃し、また、真のイケメンというものを知ってしまったせいで、リュウセイ熱は一気に冷めた。本人達もかなりの恐怖体験はしたはずなのだが、特に堪えた様子もなく、以降も普通に学校に通っている。
・橋本
ホネさんのおかげで、幸いにして黒歴史は作らずに済んだ。また、恐怖体験もかなり緩和されたようで、以降も普通に学校に通っている。今回の一件でやはりリュウセイ熱は冷めたが、コウタとの間にも特に何のフラグも立たなかった。しかし、この一件以来、骨格標本を見かけると何やらもじもじするようになってしまった。ホネさんにもらったカーテンを自室で使っているが、夜になると変な影が映り込む気がするのが最近の悩み。