表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

女子高生3人組ともう1人の場合

「ほら宮田ぁ~さっさと行きなさいよぉ」

「あんたってホンットとろいよねぇ」

「ウチ8時から見たいテレビあっからさぁ。ちゃちゃっと行きなって」

「う、うん……」


 長峰ながみねさん達に言われるまま門を乗り越え、校庭に足を踏み入れつつ、わたしは「どうしてこうなったのだろう?」と自分の運命を呪った。




 親の転勤に伴って、東京からこの地方に引っ越して来たのが約半年前のこと。

 2年生からの転校生という特殊な立場に生来の内気な性格も相まって、わたしはなかなかクラスに馴染めずにいた。


 そんな時に話し掛けてくれたのが長峰さん達3人だった。

 最初は転校生であるわたしに気を遣ってくれている優しい人達だと思っていた。

 でも、3人と仲良くなってから1ヶ月が経過した頃から、この3人は本性を現し始めた。


 始めはグループ内で軽くパシられるくらいだった。

 それがやがてノートや宿題を写させるように強要されるようになり、最近ではお金までたかられるようになった。


 といっても、露骨に金銭を要求するのではない。

 4人で喫茶店などに行った際に、明らかに1人800円以上は頼んでおきながら「あっ、今日500円しかないわぁ~」などと言って、毎回わたしが多く支払う羽目になっているのだ。

 塵も積もれば山となるで、もう1人につき3000円くらいは払っていると思う。

 3人分を合計すれば諭吉さんに届くかもしれない。しがない高校2年生のわたしにとっては、十分過ぎる大金だ。


 ここまでくれば、いくら人間関係のあれこれに鈍いわたしでも分かる。

 この3人は、ちょうどいい搾取の対象としてわたしをグループに引き込んだのだと。


 だからといって、「やめてほしい」とも「グループを抜けたい」とも言えず、わたしは3人とずるずると関係を続けていた。

 「いいでしょ? だって友達じゃん」

 そう言われてしまうと、気弱なわたしには何も言えなくなってしまうのだ。


(でもだからって、これはあんまりだよぉ)


 ここは最近ネットで話題の心霊スポット、北畑第四中学校だ。

 多くの人々が心霊現象に遭遇しているらしいと前から噂にはなっていたのだが、そのことを知った長峰さん達が、ここで肝試しをしようと言い出したのだ。


 その肝試しとは、1人ずつ順番に校舎に入って行って、指定された場所で自撮りをしてくるという内容だ。

 そして、当然のようにトップバッターはわたしだ。

 一応順番はくじ引きで決めたのだが、多分くじに細工をされていたんだと思う。なんせ最後にくじを引いたのがわたしだし。


(絶対校舎に何か仕掛けてあるよね……)


 そうは思っていても、今この状況でそれを言っても言いがかりにしかならない。

 実際に引っ掛かった後でも、「ちょっとした冗談じゃ~ん」で済まされそうではあるが。


「は~いストップ。じゃあここでちょっとこの動画を見てもらおっか」


 正面の本校舎の少し手前まで来たところで、長峰さんがスマホを取り出しながらそう声を上げた。


 何事かと思いながら近くによると、そこに表示されていたのはある動画投稿サイトに投稿された1本の動画だった。

 タイトルは『【恐怖】心霊スポットの廃校でカップル盗撮しようと思ったらヤバいの撮れた』。


 どうやらこの廃校に忍び込んだギャルが投稿した動画らしく、そのタイトル通り、カップルのいちゃつく声に誘われてある教室に入ったところで、女性の怨霊に遭遇する様子が撮影されていた。

 その怨霊の放つ狂的な笑い声は真に迫っていて、とても作り物とは思えない迫力があった。実際に動画を見て、鳥肌が立ってしまったほどだ。


「どう? なかなかヤバげっしょ?」


 ヤバげとかいうレベルじゃない。普通にヤバい。激ヤバだ。


 噂によると、この学校ではいじめを苦に自殺した女生徒がいたとかで、廃校になったのもそれが一因だという。

 ならば、あの笑い声の主はその時に亡くなった女生徒なのだろうか?


 そう言うと、長峰さんは嗜虐的な笑みを浮かべて言った。


「あんた知らないの? その自殺はたしかに有名だけどさ。その3年後にもっとヤバい事件が起きたって噂があんのよ」

「え……?」

「あのね――」


 その話を聞いて、わたしは本心から思った。


 冗談だとしても帰りたい、と――。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ふ~ん、こいつらあの事件について知ってんのか」


 校庭に侵入して来た女子高生と思われる4人組の様子をモニターで監視しながら、俺は呟いた。


 俺も、女子高生が自殺した事件についてはニュースで知ってたが、その3年後に起きた事件についてはここで《マニュアル》を読むまで知らなかった。

 内容が内容だけに、なんで知られていないのか疑問に思ったのだが……まあ何か事情があったのだろう。どこかからマスコミに圧力が掛かったとか? いや、知らんけど。


「それにしてもこいつら……典型的な小悪党って感じだな」


 俺が通ってた学校にもいたわ。スクールカーストの上位陣に加われるほどではないから、手近な大人しいクラスメートをグループ内に取り込んで、そこで優越感に浸る奴ら。

 自分より下だと認識した人間を虐げ、搾取し、そうすることで自分の虚栄心を満足させようとする連中。うんうん、いたわ~。そして嫌いだわ~、こーゆー奴ら。


 というかこの3人、よくあの事件のことを嬉々と語れるな。

 「自分達は大丈夫」とでも思っているのか、あるいは自分達も彼女達(・・・)と同じいじめっ子であるという自覚がないのか……。


 いっそのことこの3人、理科室に誘導してやろうか。

 そうしたら、いじめっ子のなれの果てってものを嫌でも知ることになるだろう。……いや、やらんけど。あれ(・・)は流石に洒落にならん。下手したら人死にが出るかもしれんし、いくら俺でもそこまでやる気はない。


 ……というか、この3人の女子高生見覚えあるな。

 見覚えあるというか、ついこの前の日曜日にここに来てたわ。こいつら。んでもって、校内に色々と仕掛けていってた。


 恐らく、この1人浮いている女の子を自分達の仕掛けで怖がらせて、それをわらおうとでも考えていたのだろう。

 だが残念だったな。お前らが仕掛けていったものはその日の夜の内に全て撤去済みだ。


 え? なんで仕掛けられている段階で撃退しなかったのかって?


 いや、それが俺ら幽霊って、基本的に日中は行動に制限掛かるみたいなんだよね。

 具体的には、俺の場合は動きが鈍くなってすんごいやる気がなくなる。

 もう何が起ころうとどうでもいいや~って気分になる。


 これはおかしいと思って《管理者ステータス》を調べてみたら、“鈍化”と“無気力”の2つのバッドステータスが付いてた。

 一緒にいる下級幽霊もそれは一緒だ。日中は動きが鈍くなって、命令もちゃんと聞かなくなる。


 もっと正確に言うと、どうやら問題なのは時間じゃなくて日光らしい。

 この前終日曇天だった時は、そこまでだるくはなかったからな。


 まあとにかく、この前の日曜日は絶好調の晴天で、俺は絶不調でやる気が無かったので、この3人の女子高生がなんかやってるのを「お~、なんか仕掛けてんなぁ~~」とぼんやり眺めていたという訳だ。

 んでもって夜になってやる気を取り戻したところで、仕掛けられてたトラップみたいなのを全部撤去したってこと。回想終わり。



 さて、そうこうしている間に、眼鏡を掛けた女の子――宮田さんが1人で校舎内に侵入して来た。

 残りの3人はその宮田さんの後ろ姿をにやにや笑いながら見送っていたが、少ししてからその後を追い始めた。


 さっきまでの会話によると、どうやらこの前ヤンキーのカップルを撃退した「6-2の教室で自撮り写真を撮ってこい」というのが指令らしい。

 実際、6-2の教室には何やら音響機器が設置されていた。

 恐らくだが、あれで俺がやった《効果音》を再現するつもりだったのだろう。


 というかそう! あの時のヤンキー女がスマホで撮ってた動画を公開したもんだから、もう同じ手を使えなくなったんだよ!

 あの『濡れ場かと思ったら突然のホラードッキリ』は俺の自信作で、リア充潰しの必殺技にする予定だったのに! 手の内明かされちゃもう誰も引っ掛からないじゃん!!


 ……まあ、その反面あの動画のおかげで侵入者が増えたのも確かだから、そう悪いことばかりでもないんだけどさ……。


『あれ? 衣装ないじゃん』

『そんなわけないでしょ。ウチちゃんとここに隠したし!』

『そう言ってもないもんはないし……どこか別のところと間違えてんじゃね?』

『いや、間違えてないって! ここ1-4でしょ!?』


 2つ表示されている監視モニターの1つ。いじめっ子3人組の監視モニターで、何やら3人が慌てている様子が映し出されていた。


 どうやら、一階の教室に隠しておいた白いワンピースと長い黒髪のウィッグがないことに慌てているらしい。

 恐らく、というか間違いなくそれで幽霊に変装して、宮田さんを脅かすつもりだったんだろうが……残念だったな。それらはとっくに回収済みだ。ついでにそのまま動く人体模型(3号)に装備させてみた。見事に狂気度が上がったぜ、やったね!


 さて、それはそれとして、ちょうどいいから今回の標的はこの3人組に絞ろうか。

 あの宮田さんは無理矢理連れてこられただけみたいだし、この廃校の成り立ちからしてもいじめっ子を許すわけにはいかないからね。


「こいつのせっかくのお披露目の舞台だしな。よし、行け!」


 そして、俺は画面を操作すると、新たに召喚した配下に命令を下した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あぁ~~もうっ、マジ最悪。マジありえない。これじゃあ音で驚かすしかないじゃん」


 本来なら、仕掛けておいたスピーカーから流れる音で驚かした後、教室から飛び出てきた宮田を変装したアタシが驚かせるはずだったのだ。その様子を2人に撮ってもらい、ネタにしようとも考えていた。

 でも、用意しておいた衣装が見付からない以上しょうがない。こうしてる間に宮田が教室に着いてしまうかもしれないし、ここは音だけで我慢しよう。


 そう決めて、教室を出ようとした──その時。



 カチャ カチャカチャ



 廊下の左の方から、何かの音が聞こえた。

 足音? いや、もっと硬質な音だ。それに、足音にしては鳴るタイミングが不規則過ぎる。


「ねぇ、何か聞こえない?」

「ちょっと、やめてよ──え? あれ?」


 2人にも聞こえたらしい。お互いに顔を見合わせたまま、ピタリと硬直する。


「……宮田?」


 2人が固まる中、アタシは廊下の音がする方に向かって声を上げた。

 あのヘタレで根暗な宮田がこんなことをするとは考えにくかったが、一番ありえるのが宮田の悪戯だというのも確かだった。

 2人もそう判断したのか、次々と声を上げ始める。


「ちょっと宮田ぁ! タチ悪い冗談やめてよねぇ!」

「全っ然怖くないんだけどぉ! やり方がマジ古典的過ぎ!」


 それでも音は止まらない。

 いや、それどころかますます近付いている。



 カチャ カチャチャ カチャ カチャカチャ



「いや、ホントマジで笑えないっていうか……」

「ねぇ……」


 半笑いでそう言い合いながらも、誰もその場を動けない。

 まるで金縛りにでもあったかのように、その場に立ち尽くしたまま、開け放たれた教室の前の扉をじっと見詰める。

 やがて、扉の側で音が止まり……



 カチャ



「ひっ」

「っ」

「な、え」


 思わず、喉の奥から引き攣ったような音が出る。

 でも、無理もない。だって、開け放たれた扉に、外から指が掛かったのだから。……肉も皮もない、骨だけの指が。

 そして、その骨だけの指がググッとたわんで……



 カチャチャ



 真っ白い頭蓋骨が、ゆっくりと顔を覗かせた。

 ぽっかりと空いた暗い眼窩がんかが、たしかにアタシ達を順に見回して──


「い、いやぁぁああぁぁぁーーーー!!!」

「ひぃやぁぁああぁぁぁーーーー!!!」

「きゃああぁぁぁぁーーーーー!!!」


 アタシ達は一斉に悲鳴を上げ、誰からともなく教室の後ろ側の扉を目指して走った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おお~~すげぇ。演技派だなぁ、あいつ」


 3人組を追い立てる動く骨格標本(100HP)を見ながら、俺は感心していた。

 俺は3人組を驚かすよう指示しただけで、どのように驚かすかは指示していない。

 だから、あの先ずは音でビビらせてからの、恐怖を煽るようなぬるりとした登場の仕方は、あいつが自分で判断してやったことだ。

 いや、これは純粋にスゴイわ。なんで動く人体模型の3倍以上もHPが要るのかと思っていたが……これだけの性能なら納得だわ。

 なんせ、今見たような知性の高さに加え、動きがスムーズだし素早い。間違っても勝手に階段を転げ落ちて死んだりしない。動く人体模型とは違うのだよ動く人体模型とは!


 そうこうしている間に、3人組は教室を飛び出て廊下の端へと逃げて行く。

 その後ろを、動く骨格標本はゆっくりとした速度で、腕や足をおどろおどろしくプラプラと振りながら追い立てていく。

 ……いや、本当にすごいな。あの動きは関節の可動域が極端に大きい骨格標本ならではだろう。それに、あのじわじわと追い詰めるような速度もいい。たぶん本気を出せば追い付けるのだろうが、敢えてゆっくりと近付いた方が恐怖は増すというものだ。どうせ逃げ場なんてないしね。


 あっ、ちょうど先頭の1人が廊下の端にある扉に辿り着いた。

 両手でドアノブを握り、しきりにガチャガチャと動かす。


『なんで、なんで……っ』

『ちょっと! 早く開けてよ!』

『来てるっ、来てるってぇ!!』

『開かない、開かないのよぉ!!』


 残念、それは開かずの間だ。

 扉増設(12HP)で設置した、ただ廊下の突き当りの壁に張り付いているだけの見せかけの扉だから、押そうが引こうが絶対に開きましぇ~ん。残念でしたぁ~。


『ちょっと! どいて!』

『いたっ! 何すんのよ!!』

『喧嘩してる場合じゃ……すぐっ、すぐそこまで来てる!』


 おーおー頑張ってるねぇ。

 まっ、どんだけ足掻いても絶対に開かないんだけど。

 すぐ近くに校庭に出れる窓があるのに……目の前に扉があると、どうしてもそっちから出ようとしちゃうもんなのかね。鍵穴とかが無いから、開くものだと思い込んでしまうのも無理ないけど。

 でも、そうやってる間に、ほら……



 カチャ



『い、いやぁぁあぁぁぁーーー!!!』


 ドアノブを掴んでいた女子高生の頬を、背後から伸びた骨の手が撫でる。

 女子高生は反射的にその手を振り払うも、恐怖に耐えかねたのか、扉を背にしてずるずるとへたり込んでしまった。

 眼前に立つ骨格標本を大きく見開いた目で見上げながら、脚をがくがくと震わせる。ん? HPが急に増えた。……あっ、察し。


 そんな彼女を無視し、残り2人は動く骨格標本の脇をすり抜けて反対方向へと逃げて行く。

 誰も助けようとしない辺りが……なんだかなぁ。まあ予想通りっちゃ予想通りだけど。当然しっかりと《金縛り》を仕掛けてありますけども。


『っ!!?』


 先を走っていた1人が、廊下の途中でガチッと動きを止める。その脇を……これまた予想通りというか、もう1人が猛然と駆け抜けていく。不自然に動きを止めた仲間を気遣う素振りは、一切見せなかった。まっ、当然少し先に第二陣もセットされてるんだけどね?


 動く骨格標本が、《金縛り》に捕らわれた最初の1人の顔面を背後から掴むと、その女子高生はその場で失神してしまった。

 そして、動く骨格標本は少し先で同じように動きを止めている最後の1人にゆっくりと、わざと音を立てながら近付いていく。

 やがて、最後の1人の首筋に、その指が触れた──直後、《金縛り》が解けた。


『うああぁぁぁーーーー!!』


 まるで雄叫びのような声を上げながら、転げるように逃げて行く。

 火事場の馬鹿力か、その速度は女子高生にしてはかなり速いが……残念だったな。


 さっきのあれが動く骨格標本の全力疾走だと、誰が言った?


 逃げる最後の1人を、動く骨格標本が短距離走の選手さながらの美しいフォームで追いかける。



 カチャカチャカチャカチャカチャカチャ!!



 音に振り返った女子高生の顔が、恐怖に引き攣る。

 いや、うん。追われてる側からすると、それはすごい恐怖なんだろうけど……ゴメン、はたから見てるとすんごいシュールだわ、この光景。……って、あ。


『え? な、なに!?』


 三階にもう1人、宮田さんがいたのを忘れてた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「な、なに? 今の悲鳴」


 わたしは突然階下から聞こえてきた3人分の悲鳴に、指定された教室に入ろうとしていた足を止めた。

 咄嗟にあの3人の悪戯かとも思ったが、それにしては悲鳴が妙に真に迫っている。


「……どうしよう」


 少し迷って、わたしは結局引き返すことにした。

 念のために、スマホをいつでも通報出来る状態にしたまま、ついさっき上がってきたばかりの階段を下りていく。

 悲鳴は時々途切れながらも、まだ続いている。そして、一階に繋がる階段に差し掛かったところで、悲鳴に紛れてカチャカチャという音がしているのに気付いた。


(なに……? この音)


 階段の踊り場で、眼下に広がる下駄箱を眺めながら、わたしは耳を澄ませた。

 すると、その奇妙な音と1人分の悲鳴が、向かって左側からぐんぐんと近付いてくる。


(え? こっち来た!? ど、どうしよう!?)


 しかし、わたしが次の行動に移る前に、音の主が姿を現した。

 先ずは長峰さん。いつものツンと澄ました表情はどこへやら、髪を振り乱し、恐怖に表情を歪めながら下駄箱に差し掛かると、わたしに背を向けて正面玄関へと疾走していった。

 そして、その後を追って現れたのは──


「え? な、なに!?」


 現れたその人影に、思わず声を上げてしまう。

 すると、わたしの声に反応したように、その人影──骨格標本が、バッと頭をこちらに向けた。


「っ!?」


 突然こちらを向かれたことに驚いて、わたしはうっかりスマホを落としてしまった。

 「あっ!」と思ったのもつかの間、手すりの上に落っこちたスマホは、シャーッと手すりの上を滑って一階に落ちていく。

 「壊れちゃう!」と思いながらもすぐには動けず、わたしは呆然とその行方を見送る。

 わたしが見詰める先で、スマホは手すりの上を7割ほど滑った後で、するっと手すりから落ち、階段に向かって落下し──空中で骨の手に受け止められた。


「え?」


 その手の主──骨格標本は、キャッチしたスマホをその場に置くと、わたしに向かってグッとサムズアップした。


「あ、ありがとう?」


 思わずそうお礼を言うと、骨格標本はまるで「じゃあな、気を付けろよ」とでも言いたげに右手の人差し指と中指を揃えてピッと額の前で振ると、美しいフォームで長峰さんを追いかけて行った。


「な、なんだったの……?」


 校庭の方で再び上がった長峰さんの悲鳴を聞きながら、わたしは呆然と呟いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「なにあいつ、イケメンかよ」


 動く骨格標本の予想外の紳士的な行動に、俺は思わずそうツッコんでしまった。

 言っておくが、今の一連の行動、俺は一切指示していない。動く骨格標本が勝手にやったことだ。

 なにあれ。少女漫画のヒーローかよ。外見骨のくせに。

 その本人(?)は、今も校庭で逃げた女子高生を追い回している。


 ……あ~~まあ、あっちはあいつに任せるか。

 そうなると、廊下の端で腰抜かしてるのと失神してるのは……ふむ。


『いやぁぁあぁぁーーー!! なに!? なんなのコイツ!?』

『え、ちょっ、なんでウィッグ着けてんの? しかもワンピ……いや! なんか怖い! こっち来ないでぇ!!』


「うん、やっぱりなんか別の意味で怖くなったな」


 長いウィッグを頭にかぶり、パツパツの白いワンピースを着ている動く人体模型(3号)を眺めながら、俺はそう呟いた。




 ……その後、やはりというかなんというか、逃げ惑う女子高生に突き飛ばされて動く人体模型(3号)は死んだ。

 装備を身に付けてもやっぱり物理防御力がゴミであることには変わりなかったらしい。ホント使えないな、あいつ。






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



今回のポイント収支



消費HP


・監視用モニター ―― 63HP


《罠設置》


・金縛り×5 ―― 50HP


《召喚》


・動く人体模型×1 ―― 30HP


計 143HP


――――――――――――――――――――――――


獲得HP


・通常ポイント ―― 356HP


・腰抜かしボーナス×1 ―― 15HP


・失禁ボーナス×2 ―― 50HP


・失神ボーナス×1 ―― 50HP


計 471HP


――――――――――――――――――――――――


合計 328HP獲得



【保有HPが1000HPを突破しました。新機能、《ローカルチャット》《レベルアップ》が解放されます】






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



侵入者のその後


・3人組

今回の一件の後、お互いを助けなかったことで激しい喧嘩になり、グループは解散。かと言って今更他のグループに加わることも出来ず、各々孤独な学園生活を送ることとなる。それに加えて今回の一件で植え付けられたトラウマのせいで学校を休みがちになり、結局3人共、出席日数が足りずに留年した。


・宮田さん

長峰率いる3人組が解散したことで、自然と孤立することとなる。しかし、いじめから解放されたおかげで、今は以前より快適な学園生活を送っている。今回の一件以来、骨格標本を見かけると会釈する癖が付いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
宮田さん、会釈良いね。 めちゃくちゃ不審かつ不思議ちゃんな行動だけど、真面目にきちんと感謝の気持ちを表している。その心があれば、きっとその先の人生、マシになるさ。 しかし、骨格標本さん、随分と人間臭…
そのうち、学校中からアンモニアの臭いが………なんてことにならないよう、後片付けはキチンとしたほうがよいかと。 ところで、人体模型さんは倒れた後に組み立て直しても復活はしないの?
[良い点] いじめっ娘どもに天誅でスカッとしました。小学校だったら二宮金次郎像とか出せたかも。 [一言] 宮田さんメンタル強くなってる。でも骨格標本に挨拶するのはやめよーね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ