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退魔巫女見習いの場合 前編

 ここ最近、私には気になることがあった。


「委員長、どうしました?」

「ん、ああいや」


 服装検査中、風紀委員の後輩に声を掛けられ、反射的に誤魔化す。しかし、後輩は私が向けていた視線を辿って、私が見ていた人物に気付いたようだった。


「あれは……今年転校してきた宮田さんですよね。彼女が何か?」

「知っているのか?」

「ええ、まあ。同じクラスですし」

「そうか……どんな生徒だ?」

「どんなって……普通に大人しくて真面目な子ですよ? ちょっと前まで長峰って少し不良っぽい生徒に目を付けられてたみたいですけど、今はもう落ち着いているみたいですし」

「長峰……ああ、最近よく遅刻してくるあの生徒か?」

「ええ、その長峰です。あと2人一緒につるんでる生徒がいたんですけど、最近3人共学校をサボりがちになってますねぇ」

「ふぅん」

「って、なんの話でしたっけ? ……ああ、そうそう。それで、宮田さんがどうしました?」

「ん……」


 答えに困り、少し考える。

 私が彼女を気にするようになった理由。それは一言で言えば、「用務員さんが見えているから」だ。

 この場合の用務員さんとは、普通に学校に勤めている用務員さんのことを言っているのではない。この学校に住み着いている、生徒達の守護霊たる用務員さんのことだ。

 彼は学校に満ちる大きな生気に惹かれてやってきた浮遊霊の類を、片っ端からトングで掴んではチリ取りに放り込み、焼却炉で浄化する働き者な守護霊なのだ。私は心の中で彼を用務員様と呼んでいる。

 今日も今日とて、登校中の生徒に憑りつこうとしていた浮遊霊を、飛ぶハエを箸で掴んだという宮本武蔵を彷彿とさせる見事なトング捌きで捕獲し、1秒もしない内にチリ取りに放り込んでいた。

 私はその光景に、いつものように心の中でお礼を言っていた……のだが、そこでふと、彼のことを唖然とした様子で見詰める生徒の姿に気付いてしまった。それが彼女、宮田さんだ。


 少し前から、微かに妙な気配をまとっている彼女のことは気になっていた。

 だが、先程の一件で確信した。彼女は霊が見えている。それも、どうやら見えるようになったのは最近のことだと思われる。であれば、何かきっかけがあったはずなのだが……そんな事情をどう後輩に説明したものか。

 しばし考えた末に、私は一番シンプルでストレートな手段を取ることにした。


「いや、ちょっと口では説明しづらい。私が直接本人と話そう。すまないが後は任せた」

「え、え? 委員長?」


 戸惑う後輩にチェックシートを押し付け、早足で校舎の方へと進むと、下駄箱で靴を履き替えている宮田さんに声を掛けた。


「宮田さん、ちょっといいかな?」

「え? あ、はい。えっと……風紀委員長さんが、わたしに何の用でしょうか……?」


 私の腕章を見て少し警戒した様子を見せる宮田さんに、安心させるように手を振る。


「ああいや、風紀委員の仕事とは関係がないんだ。少し君に話があって……ちょっと時間をもらえるかな?」


 私がそう言った瞬間、周囲にいた生徒が一斉にざわついた。


(む、これはマズいな……どうやら風紀委員長直々に呼び出されたと思われたか。このままでは彼女にあらぬ疑いが掛けられてしまう)


 そう考えた私は、少し大きめの声ではっきりと念押しした。


「もう一度言うが、本当に風紀委員の仕事とは何の関係もない。飽くまで私個人の事情だ。勝手なことは重々承知だが、少し時間をもらえないだろうか?」


 あれ? おかしい。なんだかますますざわつきが大きくなった気がするぞ?


「えっと、いいですけど……ここで、ですか?」

「いや、出来れば2人きりになれる場所に……そうだな、屋上に行こうか?」


 おい、なぜここで悲鳴が上がる? 委員会室だと誤解を招きそうだから、屋上を選んだだけなんだが?


「あれ? 屋上って立ち入り禁止じゃなかったですっけ?」

「ああ、風紀委員は特別に入れるようになっているんだ。もっとも、鍵を持ってるのは私だけだけどね。じゃあ、行こうか」


 そして、2人で屋上に向かったんだが……後ろの生徒達がうるさい。「きゃーいやぁー」って何がだ。



* * * * * * *



「さて、まずは自己紹介だな。私は小野寺千歳(おのでらちとせ)。3年生で、風紀委員長をやっている。まあ、あと少しで引退だがな」

「あ、わたしは2年3組の宮田愛美(みやたまなみ)です……」


 その言葉に、小首を傾げる。私の記憶によれば、生徒名簿には……


「まなみ? 君の名前はたしかヴィー……」

「まなみです。わたしの名前は、まなみです!!」

「そ、そうか」


 まあ、彼女にもこだわりがあるんだろう。深くは突っ込まないことにする。


「さて、時間もないことだし単刀直入に行こう。君には霊感があるな? それも、恐らく最近目覚めたものだ」

「っ!?」

「図星か」

「なんで……もしかして、小野寺先輩も?」

「そうだ、私にも霊感がある。だから分かった。さて、その上で……君は何か、心霊現象に悩まされていたりするんじゃないか?」


 それまでなかった霊感が、ふとした拍子に目覚めてしまうこと自体は稀にある。

 そしてその多くは、なんらかの心霊現象に遭遇したことがきっかけとなっている。

 霊に取り憑かれたとか、誰かに呪われたとか、あるいは……よほど強力な心霊スポットに足を踏み入れたとか。

 中には身近な人間の死をきっかけに目覚めたりする人もいるらしいが、彼女のまとう奇妙な気配が、その可能性を否定していた。


(彼女は十中八九怪異に遭遇している。もしそうだとしたら、私は……)


 固唾を飲んで待ち構える私の前で、宮田さんは少し考える素振りを見せて……


「……いえ、特に困っていることはないです」

「……なに?」


 ひどくあっさりとした返答に、思わず目をパチパチさせる。

 宮田さんの表情には緊張や動揺は見受けられず、嘘を言っているようには見えない。


「だが……君には、奇妙な気配がまとわりついている。それは、怪異に取り憑かれているからではないのか?」

「怪異…………ああ! ホネさんのことですね!」

「ほ、ほねさん?」


 なんだその妙にファンシーな名前は?

 しかし、私がその正体を尋ねる前に予鈴が鳴ってしまい、やむなくその場は解散することになったのだった。



* * * * * * *



「千歳、ちょっと千歳!」

「ん、ああすまん。なんだ?」

「なんだじゃないよ。次、移動教室でしょ」

「ああ、そうだったな」


 急いで手荷物をまとめ、友人と一緒に教室を出る。


「どうしたの? ぼーっとしちゃって」

「いや、ちょっと考え事をな」

「考え事?」

「ああ……なあ、ほねさんって聞いたことあるか?」

「なにそれ。何かのキャラクター?」

「いや、たぶん都市伝説の類だと思うんだが……」

「都市伝説……いや、ちょっと聞いたことないけど……動く骨格標本の噂なら聞いたことあるよ?」

「なんだそれは」

「北畑町にある北畑第四中学校っていう廃校に、動く骨格標本が出るんだって」

「動く骨格標本……ほね……」


 もしかして、宮田さんが言っていたのはそれのことか?

 いや、なんにせよ怪奇現象の噂があるのなら、調べてみないといけないだろう。

 そうだな。今夜にでも、北畑第四中学校とやらを訪ねてみるか……。



* * * * * * *



「ここが、北畑第四中学校……」


 その夜、噂にあった北畑第四中学校の校門前に立った私は、門の向こうから押し寄せてくる異様な気配に絶句した。

 これは……怪異が存在するという次元ではない。間違いなく、この廃校自体が心霊スポットと化している。


「どうやら……正装で来たのは正解だったようだな……」


 私は門の前で一礼してから、素早く門を乗り越えると、上に羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。


「退魔巫女、小野寺千歳。参る!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 MIKO・SAN・DAAAAAAAA!!!!


「HYEEEEEEE!!!」


 俺は、画面上に表示された侵入者のステータスに歓喜の雄叫びを上げていた。



========================


小野寺千歳


種族:ヒト

職業:高校生・巫女Lv.3・退魔師Lv.3


生命力:145

物理攻撃力:88

物理防御力:93

霊力:112


技能:霊感Lv.7・小野寺流降霊術Lv.2・小野寺流退魔術Lv.3

加護:──

徳業ポイント:114(善人)


========================



 巫女さんですよ奥さん! リアル巫女!!

 正月に大量発生するバイト巫女じゃなくて、正真正銘リアル巫女!! しかも美少女巫女!!

 夜闇に浮かび上がる白い肌。首の後ろで結ばれた長く艶やかな黒髪。スッと通った鼻梁に切れ長の目! フゥゥゥゥーーー⤴⤴ 今夜はお祭りだぜぇ!!


「……って、テンション上がってる場合じゃないわ」


 ただの巫女ならそこまで問題はない。だが、相手は巫女兼退魔師だ。俺達管理者の……明確な、敵だ。


「そっかぁ、遂に来ちゃったかぁ」


 いつかは来ると思ってたが、正直予想よりもかなり早かった。それでも、レベルが低い分まだマシか。

 以前管理者チャットで聞いたところ、霊能力者系の職業はレベル1~10まであり、レベル1~3が見習い、レベル4~6で一人前、レベル7~9で一流、レベル10で超一流って感じらしい。

 ちなみに、霊能力者系の職業で最高位職とされる《サトラー》だけは、なぜかレベルが1~52まであり、レベル1~10で「やべぇ」、レベル11~20で「激ヤバ」、レベル21~30で「諦めろ」、レベル31~40で「悟れ」、レベル41~50で「拝め」、レベル51、52で「神☆降☆臨」らしい。意味分からん。

 まあそれはともかくとして、この小野寺さんとやらは退魔師Lv.3、つまり見習い程度だ。たぶん、中級霊1体なら1人で相手に出来るくらいかな。まあ、単騎で魔境を落とせるような実力はまずないだろう。


「でもまあ、とりあえずお手並み拝見といくか」


 俺は手始めに下級幽霊を2体召喚すると、巫女さんの元へと送り込んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「むっ!!」


 慎重にグラウンドを進んでいると、前方の校舎から2体の霊がこちらへと向かって来た。

 見た感じはそこら辺にいる浮遊霊と大して変わらないが、心霊スポットにいる影響か、普通の浮遊霊に比べると姿がはっきりしている。


「ふむ……だが、術を使うほどではないな」


 私は腰に着けたポーチから小さな壺を取り出すと、中の塩を一つまみ、2体の霊に向かってパッと振りまいた。

 すると、塩を浴びた2体の霊が輪郭をブレさせ、慌てて方向転換すると、上空をゆらゆらと周回し始めた。


「む……仕留めきることは出来なかったか」


 清めの塩は、退魔師が霊力を使わずに除霊を行う最も簡単な方法で、弱い霊なら振りかけるだけで退治できるし、簡易的な結界を張るのにも利用できる退魔師必携の除霊道具だ。

 普通、この程度の浮遊霊なら今ので除霊できるはずなのだが……やはり、心霊スポットにいる影響か。かなり弱ってはいるようだが、完全消滅は免れたようだ。


(まあいい、あの様子ならもう何も出来まい)


 そう判断すると、私は上空を漂う霊を無視し、霊が出てきた正面玄関へと向かう。

 そして、大きなガラス扉を開き、下駄箱が並ぶ玄関へと足を踏み入れる。そのまま下駄箱の間を突っ切り、廊下に出ようとした瞬間。


「むっ!!?」


 下駄箱の真ん中辺りまで来たところで、私の背筋を悪寒が走り抜けた。ぞわっと全身が総毛立ち、否応なく足が止まる。


 見られている。

 下駄箱の靴入れの中から、下駄箱と天井の間から、背後にある傘立ての隙間から、正面に見える階段の影から。

 気付いた時には無数の目が、じっと私を見詰めていた。


(しまった! 囲まれた!!)


 最初の霊が大したことなかったからと、知らず知らずの内に油断していた。今私の周囲を囲んでいる目からは、先程の浮遊霊とは比較にならないほどの霊力を感じる。一斉に襲い掛かられたら、間違いなくひとたまりもない。


「くっ!!」


 もはや迷っている暇などなかった。

 私は素早くポーチに手を突っ込むと、護光の符を取り出し、呪文を唱える。


「光よ! 生者を昏き闇より護り給え!」


 呪文を唱え終わると同時に、私の体をぼんやりとした光が包む。

 これは瘴気を妨げ、霊を遠ざける守護の光だ。だが、今この状況ではこの程度、気休めにしかならない。だから……


「ハッ!!」


 気合と共に、呪符に一気に霊力を注ぎ込む。

 すると、過電流を流された電球が一瞬の閃光を放つように、呪符から凄まじい光が放たれた。

 爆発的に広がった守護の光に、私を見詰めていた無数の目が姿を消し、その気配が一斉に遠ざかる。と同時に、私は駆け出した。

 もう使い物にならなくなった呪符をその場に捨て、正面階段を一気に駆け上がる。

 そして、一番近くの教室に滑り込むと、扉を背にしゃがみこんだ。


(……追っては……来ないようだな)


 慎重に周囲の気配を探り、なんとか撒けたらしいことを確認すると、そこでようやく詰めていた息を吐き出す。


「はあぁぁーー……」


 危ないところだった。というか、なんだあの数は。あのレベルの霊に囲まれたのなんて初めてだ。


(どうする……? 冷静に考えるなら撤退すべきだが……)


 この心霊スポットは予想よりも遥かに危険だ。正直、私の手に余る。

 だが一方で、だからこそここで逃げるわけにはいかないのだ。

 なぜなら、彼女は……宮田さんは、既にここと関わりを持ってしまっている。

 霊や怪異と繋いだ縁というのは厄介なもので、きちんと縁を断ち切らないとずっと付きまとわれる。その上、下手をするとその縁を伝って他の霊まで憑いてくる可能性がある。

 もし、先程の霊のような存在が、一気に彼女の元へと向かったら……


(人々をこの世ならざるものから守るのが我々退魔師の務め……彼女のためにも、最低でもホネさんとやらだけはどうにかしなくては)


 そう決意を新たにし……たところで、先程上ってきた階段と反対方向から、廊下を何かが歩く音が聞こえてきた。



 コツ コツ コツ



(!! これは……強い。先程の目と同じ……いや、それ以上か? それに、なんだこの凄まじい不浄な気配は)


 まだ距離があるのにも拘らず、あまりの不快さに眉をしかめてしまいそうだ。これ程までに不浄な気配をまとった存在には初めて遭遇する。


(どうする? このままやり過ごすか? いや、あれだけ派手に術を使ったんだ。既に気付かれている可能性が高い。それならいっそのこと先手を打った方が……それに)


 何より1人の退魔師として、このような不浄な存在を野放しにはしておけない。


 私はポーチから浄火の符を取り出すと、足音が私のいる教室の前に差し掛かったところで一気に飛び出した。

 人差し指と中指の間に挟んだ呪符を掲げたその先。廊下の真ん中にいたのは、1体の黒い影。

 全身向こう側が透けて見えるほど薄い黒色なのに、足元の地面には、そこだけ妙に黒々とした影がくっきりと落ちている。

 そして、その全身から漂う圧倒的なまでの不浄な気配。思わず胸焼けを起こしてしまいそうになりながらも、私はしっかりと呪文を唱えた。


「浄き火よ! 悪しきものを祓い給え!!」


 霊力を吸収した呪符から、破邪の力を宿した火が迸る。

 その火は一直線に宙を走ると、黒い影の中心に命中し、一気に燃え上がった。


「──! ────!!」


 揺らめく火の中で、黒い影が身悶える。悲鳴を上げているのか、微かに声のようなものも聞こえてきた。


「祓い給え、浄め給え!」


 呪符に更なる霊力を注ぎ込み、火力を引き上げる。

 すると、黒い影が何やらガクガクと震え始めた。そのままゆっくりと、体を前に傾けていく。


(効いてる? このままいけば、倒せる?)


 私がそう思った直後、黒い影はグアアッと体を持ち上げ、怨嗟に満ちた声を放った。


「──ツ ────アジュ ──ウガアアァァァーー!!!」


 最後の雄叫びは、私の耳にもはっきりと聞こえた。

 そして、その雄叫びが放たれると同時に、その全身を覆っていた火が吹き散らされる。


「!! そん、な……っ!」


 押し寄せる瘴気から我が身を庇いつつ、私はその光景に愕然とする。

 マズイ、見誤った。まさかこれほどとは。


「ゥゥゥ── クソガッ! ──」

「っ!」


 ポーチから替えの呪符を取り出しつつ身構える。

 だが、どうやらかなりダメージは入っているようで、黒い影は項垂れたままその場に立ち尽くしている。何やらぶつぶつ言っているが、また声が小さくなってしまって何を言っているのかは分からない。


(今、畳み掛ければ……)


 倒せるのではないかという考えが、チラリと脳裏を過る。

 だが、私はすぐにその考えを捨てた。本命はこいつではない。ここでこれ以上霊力を消費したら、それ以降の戦いに支障をきたす。


 一瞬でそう判断すると、私は口惜しい気持ちを押し殺しながらじりじりと後退りし、階段で3階に退避した。

 そして、適当な教室に音を立てないように侵入すると、ポーチから塩の壺を取り出し、自分を囲むように円形に塩を撒いた。

 本当は盛り塩をした方が防御力は上がるのだが、今は最低限気配を断てればそれでいい。消費した霊力を少しでも回復させるため、私は塩で作った円の内側で腰を下ろした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『アアァァァァーーー!!』


 透明な炎に巻かれ、黒い影が身悶える。

 すごいな、あれが退魔術か。

 さっきの光といい、この炎といい、恐らく霊感がない人間には全く見えないもので、実際に光ったり燃えたりしてるわけじゃないんだろうが……こうして見てる分にはすごいファンタジーな光景だ。漫画やアニメでしか存在しないと思っていた非現実的な光景に、自分自身非現実の身ながら興奮する。


『グ、ゥゥゥゥ……』

「っと、あいつ大丈夫か?」


 思わず他人事のように観戦してしまっていたが、巫女さんの攻撃を受けた影は、その熱に耐えかねたかのように前傾姿勢になってしまっている。

 しかし、次の瞬間グアッと体を持ち上げると、怨嗟に満ちた雄叫びを上げた。


『爆、発……サセル、ナラ! リア充共ダロウガアアァァァーー!!!』


「……」


 ……なんというか、ゴメン。ウチの嫉妬さんが。

 あ、嫉妬さんというのは、俺があの徘徊する影に付けた名前だ。他に怠惰さんと色欲さんがいる。というか、怠惰さんは今俺の前でソファーに寝っ転がってぼーっとしてる。徘徊しろよ。

 色欲さんは……この前宮田さんが来た時に、突如全力疾走し始めたと思ったら、いきなり宮田さんにル〇ンダイブを決行し……空中でホネさんに蹴落とされた挙句、ゴミを見るような目で見られた。

 なんだか俺まですごく申し訳ない気分になったので、今は体育館に待機させてる。女の気配でも察したのか、なんか校庭側の壁に張り付いてるけど。お前はお前で徘徊しろよ。


「さて……どうするか」


 塩で作られた結界の中に座り込み、休憩をしている巫女さんを見ながら、俺はこれからどうすべきかを考えた。

 基本的に、管理者にとって霊能力者を相手にするのは百害あって一利なしだ。なぜなら彼らはちょっとやそっとでは怖がらない。そして、怖がらない相手からはHPを回収できない。

 特に、流れの退魔師や除霊師ならばともかく、今回の巫女さんのようにどこぞの組織に属する霊能力者を相手にした場合は、下手なことをしたら仲間を呼ばれる可能性がある。そうなったら、もう完全な戦争だ。それも泥沼の。

 それを避けようと思ったら、方法は1つ。上手いことやり過ごすこと。


『隠蔽結界:敷地内の霊的な気配を完全に隠蔽する結界を構築する(制限時間1時間)』


 これは、管理地のレベルが2になった時に追加された結界だ。これを使えば、霊能力者の霊感を誤魔化すことが出来る。これを利用するのだ。

 つまり、何か適当な霊をあの巫女さんに倒させ、それと同時に気配を隠蔽。この心霊スポットが鎮静化したように見せかけるのだ。

 そうしてしばらくしてほとぼりが冷めてから、活動を再開する。あまりにも消極的だが、霊能力者達との全面戦争を避けるためには仕方がない。

 となると、誰を倒させるかだが……


「嫉妬さんは……ダメだな。俺の指示を守って素直に死んでくれるとは思えん」


 それに、俺自身なんとなく影を倒されるのはイヤだ。なにより……それでは面白くない。はっきり言おう! 俺は、どうせならあの巫女さんを辱めたいのだ!! うん、最低なこと言ってる自覚はある!!


「まあ、向こうだって俺を殺しに来てるんだし? 多少あ~れ~でいや~んでくっころな展開になっても、そのくらい覚悟の上だよね?」


 ふふふ、男というのはガッチリ守られているほど乱したくなる、暴きたくなる生き物なのだよ。

 お固い風紀委員。高潔な女騎士。厳しい女上司……は、いいや。この世にやり手の美人女上司なんて存在しない。いるとしたら性悪で口うるさいババァだけだ。少なくとも俺の会社はそうだった。

 まあそれはいいとして。とにかく、相手はリアル巫女さんだぞ? 神職だ。本来神聖不可触な存在だ。しかし敵だ。これはもう……ヤるしかないだろう。男なら。


「でも……いい感じの奴がいないんだよなぁ」


 この前の生霊さん達はなかなかいい感じだったが、やはり実体がないとなぁ……となると、動く人体模型? 即殺される未来しか見えんけど? それに不器用だし。

 やっぱりこういう時は、霊よりも妖怪系だよなぁ。


「よし、先輩達に相談するか!」


 俺はモニターを見て、まだ巫女さんが休憩中なのを確認すると、素早く画面を操作した。


【ローカルチャットを開始します。本当に開始してもよろしいですか?】

            ▶はい いいえ

外伝的な短編『女の霊が毎晩一段ずつ階段を上がって来るので、とりあえず一段上に盛り塩してみた』を投稿しました。よかったら読んでみてください。

https://ncode.syosetu.com/n3083fz/

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― 新着の感想 ―
不浄!? 不浄と言われてるよ、管理者さん!! やってやれ! わからせだ!
[気になる点] こんなに続きが気になる話があるだろうか、いや無い(反語)
2020/02/21 08:06 退会済み
管理
[一言] ミコサン逃げて超逃げて!! 一体どんなことが起きるのかなぁ…
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