プロローグ
このプロローグは短編『なんか思ってたのと違う!!』とほぼ同一の内容です。
最後の数行だけ連載用に書き直していますが、内容自体にはほとんど変更はありません。
不意に走った脳の中心を貫くような激痛。
それと共に体の制御が効かなくなり、俺はデスクに前のめりに突っ伏した。
(あ、これはダメなやつだ)
「石の上にも三年」
その言葉を胸に、同期が次々と辞めていく中、労働基準法の“ろ”の字も見えないブラック企業にしがみついてきたが、2年半でどうやら俺の体は限界を迎えたらしい。
(あぁ……つまらない人生だった)
徐々に暗くなっていく視界の中、俺はぼんやりと思う。
(もし来世があるなら……今度はもっと自分の好きなように生きよう……)
その思いを最後に、俺の意識は途切れた。
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* * * * * * *
ふと気が付くと、俺は見覚えのない和室にいた。
「は……?」
身を起こして呆然と周囲を見渡すと、部屋に隣接した縁側に人影がいるのを発見した。
「おぉ、気付いたかの?」
その人影――着物を着た小柄なじいさんは、こちらを振り向くとそう言った。
そして、ゆっくりと立ち上がると、こちらに歩いて来る。
こうして立っている姿を見ると、微妙に猫背なせいもあるが、思った以上に小柄だ。
顔も皺だらけで、まるで年老いた猿みたい――――おっと、こんな考えは不敬だな。
なぜなら、俺が思った通りならこの展開は……そして、この老人の正体は……
「さて、混乱していることだとは思うが、まず最初に言っておくと、おぬしは死んだ。わしがおぬしの魂をここに呼んだのは、おぬしにある場所の管理を頼みたいと思ったからじゃ」
キタァァァアアァァァーーーーー!!!!
俺は思わず内心で歓喜の声を上げていた。
いやだって、これキタだろ!! 今流行りのダンジョンマスター転生ってやつだろ!! 異世界の迷宮の管理者になって、好き勝手に生きられるやつだろ!! ダンジョンという名の独立国家作って、召喚したモンスター娘や迷い込んで来た女騎士や女冒険者を囲ってハーレム作れちゃうやつだろ!! やったぜ! 真面目に生きてきてよかったぁ!!
「……聞いておるかの?」
「え? あ、はい。聞いていますよ。是非引き受けさせて頂きます」
やべっ、テンション上がり過ぎて半分聞き流してた。
でも、こんな好機を逃す手はない。
俺はほとんど身を乗り出すようにして了承の意を伝えた。
「おおっ! 引き受けてくれるか! それは助かる。では早速管理地へ送るでな」
じいさんは皺だらけの顔を更にしわくちゃにしながら笑うと、ふいっと手を振った。
すると、たちまち俺を中心に風が渦巻き、俺の体を室外へと運んで行く。
そのまま抗う間もなく縁側を飛び越え、虚空へと吹き飛ばされる。
その凄まじい勢いに飛びそうになる意識の中、最後にもう一度、さっきのじいさんの声が聞こえた。
『おぉそうじゃ。おぬしにはわしの加護を与えておくでの。その力があれば管理者としての務めに役立つじゃろう。頑張るんじゃぞ』
……ご丁寧に転生特典の神の加護まで……ありがとうございます!!
じいさん……いや、神様に感謝の念を飛ばし、俺は風の流れに身を任せた。
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* * * * * * *
ふと気が付くと、俺は先程とは打って変わって洋室の椅子に座っていた。
ほとんど物がないがらんとした洋室には、やはり見覚えは…………いや、よく見るとどこかで見たような気も……?
奇妙な既視感に首を傾げるも、それも目の前のパソコンの画面に表示されている内容に気付くまでだった。
「やったぜ!!!」
思わず声に出して喜ぶ。
簡素なデスクトップパソコンの画面には、《マニュアル》《管理メニュー》《管理者ステータス》の3つの項目が並んでいた。
……パソコンタイプか。俺としては、空中に透明なウィンドウが表示されるタイプの方が……いや、贅沢は言うまい。これはこれで使いやすいしな。
気を取り直して、俺は早速《管理メニュー》を開くことにした。
え? マニュアル? そんなもん一々読まんよ。やりながら覚えた方が早いだろうし。
マウスを動かして《管理メニュー》の項目をクリックすると、画面が飛んで新たに5つの項目が表示される。
画面中央に《罠設置》《召喚》《設備増設》《結界構築》の4つの項目、そして右上に100HPという数字が表示されている。
いいねいいね! このポイントを消費して罠を作り、モンスターを召喚して、ゆくゆくはダンジョンを拡張するってことだよな!?
……HPのHがなんの略なのかが分からないが、まあやっている内に分かるだろう。
期待通りの展開に胸を高鳴らせながら、まずは一番上の《罠設置》の項目をクリックする。
すると、画面には設置できる罠と消費ポイントが表示され――――
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・こんにゃく ―― 1HP
・各種効果音 ―― 3HP
・ポルターガイスト ―― 5HP
・金縛り ―― 10HP
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……ん?
気のせいか? 罠というよりも心霊現象ばっかりな気がするんだが?
上から2つ目の各種効果音というのがよく分からなかったのでクリックしてみると、その横に新たに複数の項目が表示された。曰く、《ラップ音》《ノック音》《女性の悲鳴》等々……。
……うん、気のせいじゃない。思いっ切り心霊現象だね。というかこんにゃくってまた古典的な……。
ひしひしと嫌な予感を感じながら、俺はメニューのページまで戻り、今度は《召喚》の項目をクリックした。
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・カラス ―― 3HP
・下級幽霊 ―― 15HP
・動く人体模型 ―― 30HP
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「…………」
……えぇーーっと、こういったダンジョンマスターもので、最初は動く骸骨くらいしか召喚できないっていう話は聞いたことがあるけど……どう考えてもそういう問題じゃないよね。
いや、まだだ!
低ポイントではこんなものしか召喚できなくても、より高ポイントなら可愛いモンスター娘を召喚できるはずだ!!
俺は一縷の望みを胸に、画面を下へとスクロールした。
そして、ページの一番下。そこに俺は、自分が目指すべきヒロイン候補の名前を発見した。
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・テケテケ ―― 1000HP
・トイレの花子さん ―― 10000HP
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「なんでだよっ!!?」
消費ポイント高っか!? その次に消費ポイントの高い《テケテケ》の10倍もポイント必要なんだけど!?
い、いや、もしかしたらこの花子さんはすごい美少女なのかもしれない。
そうだ。イメージで決めつけちゃいけない。
最近はゾンビですらヒロイン化される時代だぞ! 花子さんが美少女でいてはならない道理なんてない!!
そう自分自身に言い聞かせながら、《トイレの花子さん》の項目をクリックする。
すると、詳細なステータスと共に、新たに開いたウィンドウにその姿が表示され――――
「ウワーオ、和風美人(棒)」
なんというか……すごい予想通りだった。
ぱっつりと切り揃えられたおかっぱ頭に、目は小さく切れ長で、鼻も口も小さい。
ちょうど市松人形のような顔だった。服装は白シャツに赤い吊りスカートだが。
それに、年齢はどう見ても小学校の上級生くらいだった。
うん、これヒロインはアカン。俺は断じてロリコンではない。
……どうしよう。
これ、どう考えても俺が思ってたダンジョンのメニューじゃない。これはどう考えても学校の……
「いや、まだだ。俺にはまだ《設備増設》と《結界構築》の項目がある!!」
そうだ。俺が予想が合っているなら、普通こんな項目が存在するはずがない。
そう、今までがたまたま、たまたまそっち方面に偏っていただけで、このダンジョンが呪いの館や墓地だった、みたいなパターンだってありうるじゃないか!!
「呪いの館や墓地に、動く人体模型や花子さんは出ねぇよ」という、自分自身の冷静な声を無視し、《設備増設》の項目を開く。
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・階段1段追加 ―― 7HP
・扉増設 ―― 12HP
・目が動く肖像画 ―― 20HP
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……地味じゃね?
この《階段1段追加》って、夜になると段数が変わるとか、上る時と下る時で段数が変わるってやつだよな?
《扉増設》は…………もしかして開かずの間か?
ハハッ! そりゃ開かないよな! だって扉だけ設置されてて部屋がないんだから! 「開かずの間」は実は「あらずの間」でしたってか! やかましいわ!
半ばヤケクソ気味になりながら、俺は最後の《結界構築》の項目を開いた。
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・電波遮断結界 ―― 50HP
・迷彩結界 ―― 150HP
・物理結界 ―― 200HP
・黒霧結界 ―― 500HP
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「…………」
とりあえず上から順にクリックして、その効果を調べてみる。
『電波遮断結界:敷地内の電波を遮断する結界を構築する(制限時間1時間)』
うん、これはそのまんまだな。ホラー映画とかで都合よく携帯が圏外になるやつな。
『迷彩結界:敷地の外から見た時、ただの空き地に見えるようになる結界を構築する(制限時間6時間)』
ああ、「後日訪ねてみると、そこには何もない空き地が広がっていた」ってやつか。
『物理結界:敷地内に外部への物理干渉を遮断する結界を構築する(制限時間1時間)』
これもホラーではお馴染みだな。なぜか見えない壁があって外に出れないってやつ。
『黒霧結界:敷地内に生者の生命力を吸収する霧を発生させる(制限時間30分)』
凶悪!!
なにこれ怖っわ!! 最後のやつだけガチじゃん!! どおりで消費ポイントがずば抜けて高いわけだ!!
……というか、薄々感付いてたけど、このHPのHってやっぱり……
無言で右上の100HPという数字をクリックする。
『HP:敷地内の生者の恐怖の感情を元にして蓄積されるポイント』
デスヨネーー。うん、知ってた。
妙に投げやりな気分で、俺は自分の予想を確信に変えるべく、最初のページに戻ると、《管理者ステータス》の項目を開いた。
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米川純一
種族:地縛霊(中級)
称号:北畑第四中学校の管理者
生命力:0
物理攻撃力:0
物理防御力:∞
霊力:100
技能:念動力
加護:ぬらりひょんの加護
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「…………」
あーー……うん、なるほどね。
北中ね。俺が昔通ってた学校だわ。いじめを苦に自殺した女生徒がいたとかで、とっくに廃校になったけど。
ていうかどこかで見たことあると思ったら、ここ北中の校長室じゃん。
あちこちに飾ってあった賞状もトロフィーも、全部なくなってるから分からんかったわ。
物理攻撃力ゼロに物理防御力無限大? これってつまり基本物には触れられないってこったよね? うん、そう言われてみれば俺、さっきから椅子に座ってる感覚ないし、マウスも握ってる感覚ないわ。これずっと無意識の内に技能の念動力で動かしてたってことよね? ……そっかぁ……これじゃあ透明人間みたいに、やって来た女の子にあ~んなことやこ~んなことも出来ないなぁ……。
……うん、でも何よりの誤算は一番上と一番下よね。
つまり、種族:地縛霊(中級)とぬらりひょんの加護。
……そっかぁ、言われてみればあのじいさん、自分が神だとは一言も言ってなかったし、俺のことを転生させる――ましてや異世界転生させるとは一っ言も言ってなかったわ。
ははっ、まさかの妖怪の親玉でしたか。そして俺は生まれ変わることもなく、ただその魂だけをこの学校に囚われたってことか。ガッデム!!
せめてなんらかのチート能力はないものかと、半ば祈るような気持ちで《ぬらりひょんの加護》をクリックする。
『ぬらりひょんの加護:霊としての格が少し上がり、自分より格が低い霊を従えることが出来るようになる。心霊スポットの管理者に必須の力』
救いなんかどこにもなかったよ……。
俺はそのまま机に突っ伏した。
そしてそのまま机をすり抜けた。絶望しかねぇ……。
「……あれ? これネットが繋がってる?」
のろのろと頭を上げ、最初のページまで戻ると、画面の左隅の方にインターネットのアイコンがあるのを発見した。
疲弊し切った心のまま、そのアイコンをクリックすると、ネットに繋がると同時に都市伝説を扱った掲示板に飛んだ。
「……え? これってまさか、自分で自分の管理地を心霊スポットとして宣伝して、人を呼び込めってことか?」
それなんて自演乙。
あぁでも、生前心霊番組を見た時、よくもまあこんなに曰く付きの心霊スポットがたくさんあるもんだと思ったっけ。
あれってもしかして、各地の管理者が自分で流した情報だったのかもな。へへっ、生前の疑問が1つ解けちまったぜ。
あっはっはっはっは……はあぁぁぁーーーー。
俺の野望は潰えた。
チートを使ったイージーライフも、モンスター娘ハーレムも、迷い込んで来た女の子にあんなことやこんなことするのも夢のまた夢だ。ちくせう。
そのまましばらく、失意と絶望のままに落ち込み続け……やがて俺はヤケクソ気味に叫んだ。
「だあああぁぁぁーーー!! あぁもう! 分かったよ、やってやるよ!! こうなったらこの学校を最恐最悪の心霊スポットにしてやるよ!! んでもって遊び半分でやって来たくそリア充共を恐怖のドン底へ叩き落してやるぅ!!」
その八つ当たりでしかない負の想念に満ちた叫びによって、校長室の窓ガラスがガタガタと揺れた。
これは、後に「男女で行くとなぜか本気を出して来る心霊スポット」として有名になる北畑第四中学校の始まりの物語。
彼はまだ知らない。
多くの人間を恐怖のどん底に叩き落としたその先に、坊主や巫女、あるいは取り壊し業者と本気の死闘を繰り広げることになることを。