軌道にのった建設・改革
アップしました。
皆さんのコメントおよび読んでいただいた結果の点数は大変はげみになっています。
福島の放射能の問題を書くのを忘れていましたので、書き足します。
2021年正月、牧村は家でくつろいでいる。
家は、前の官舎よりずっと広くなって、1戸建てで庭もある。隣は、おなじように引っ越ししてきた順平一家である。ここは大学に隣接する住宅地を、国が買い上げて、一部新設、一部改修して10戸ほどを確保したものだ。外からは厳重なゲートがあって、簡単には入れないようになっている。 舞も4歳になって、幼稚園に通っているが、行き帰りにはガード付きだ。
生活は快適ではあるが不自由にはなっている。
牧村夫婦の会話である。
「ねえ、確かにお給料は3倍位になって、家賃も要らないけれど、ちょっと不自由ね。どこに行くにもガード付きで、舞は簡単にお友達も呼べないものね」
「うーん、そうだね。もう、世の中に名前が通ってしまったからね。有名税というけど、われわれは油断すると誘拐があるからね。もっとたちが悪いよ。ちなみに、4月に国際物理学会に、山戸先生と呼ばれたんだよ。舞もつれて一緒に行こう。ドイツのフランクフルトだ」
「まあ、それはすてきね。あっちでは、こっちほど名前は売れていないでしょう?」
「うーん、知っている人はいないけど、ガードは付くと思うな」
「でも、海外には新婚旅行以来初めてだから楽しみにします。 ところで、このころは研究とか、順平君とか、FR機の建設とかどうなっているの」
「うん、研究者としては極めて順調だね。例のネイチャーの論文以来、国内ではいろんな研究会や学会で基調講演をやらしてもらっている。海外の学会からも今言った物理学会の他にもいろいろ話が来ている。
研究も、やはり順平セミナーの効果だとおもうけど、いまちょっとだいぶ方向を変えた研究、重力の仕組みにとりくんでいるところだ。理論面では大体めどがついたというところなんだけど、応用が先行しているという妙なことになってね。重力操作ができるということについては、実際はすでに順平君たちが確かめているんだ。したがって、理論が正しいことは疑いないのだけど、それを理論的にどう裏付けるかいうところなんだ。そんなことは不可能という反対者には気の毒な話で、誤りであることはすでに事実が証明しているからね。
いずれにせよ、4月には教授になれるだろう。
順平セミナーについては、今は学内のみでなく、時々彼が外に行ってやっているよ。成果は相当出ているみたいだ。学内の話は知っているだろう。今年の国内の理系の学会賞は殆どわが江南大学が受賞した。
最近は、順平君は防衛関係にのめりこんでいるようだね。何回か、セミナーは防衛研究所でやったようだよ。
どうも、レールガンを実用化したようだね。プロトタイプの1号機はもう試射したらしい。例の10万kWのFR機で起動できるらしく、米国の実用化したものが、初速2km/秒程度のものを、こっちは5km/秒を超えているらしい。しかも、10秒に一発撃てるらしく、有効射程も150kmを超えているので、弾道ミサイルも十分撃ち落とせるらしい。順平君は兵器が好きなんだね。中国をすごく警戒していることもあって、中国に対処できる軍備を備えるため、協力すると言っている。
彼は、自分でも言っているけど2チャンネルが大好きで、だから中国と韓国が大嫌いなようだ。韓国と言えば、記者会見で変なことを言って騒いだ韓国の記者がいたよね」
「前に、聞いたことがあるわ」
「彼の言った通り韓国大使館から大学にクレームがあった。山戸先生があいてにせず、ほっておいたら、一等書記官というのが乗り込んで来てね。どうもあの記者は、韓国では財閥の一員らしい」
「へえ、韓国人は大使館員まで、馬鹿なんだね」
「それで、事務方では相手ができず、山戸先生の部屋まで行ったのでだけど、『韓国は、FR機の技術はいらないのですね』と言われて青くなって帰っていったらしい。それでも、終わらず、馬鹿の記者は韓国のマスコミに無礼な扱いを受けたという記事を流して、かの国のマスコミは尻馬にもって大々的にはやし立てたものだ。それに対して、あの場はマスコミの人がたくさんいたものだから、映像から記事から反論がたくさん出て、あの記者はさすがに記者はやめざるを得なかったようだよ」
「馬鹿はしょうがないね。自業自得とはこのことね。ところで、FR機とかの建設はどうなっているの」
「うん、FR機は今、100万kW機が24台、10万kW機の80台が、同時並行で建設が進んでいる。10万kW機は防衛庁関係の要望もあって、いろいろ調整して、各20機5か所で建設中だ。
ちなみにマスコミで報じられたので知っているだろうけど、かの福島の原発の放射能除染は、いま装置が組み立て中だ、除染装置用の電源供給に10万kW機が2基はすでに設置した。大体1年で主だった除染は終わるようだよ。これに僕もからんでいるのは知っているよね。それで、FR機はたぶん春には10万kW機は40台くらい運転に入れるし、100万kW機も最初の8台が夏には動き始める。
FR機が出そろうまでの石油だけど、石油関係の産油国、メジャー相手の価格ネゴ交渉は大変だったようだね。でも、米国に最優先でFR機の建設、バッテリー、モーターの技術を供与するということで、圧力をかけてもらって思ったところに落ち着いたらしい。いま、アメリカから技術者を50人受け入れて、かれらが間もなくアメリカに帰って100万kW機の建設に入る。このアメリカ優先は、安全保障の面もあって、きな臭い中国の動きを抑える面でも役立ってもらっている。もっとも2年もすれば、順平効果で中国は軍事的には相手ではなくなるだろうね」
「はやく、電気代が安くなってほしいわ」
「うん、今年末には5千万kW位のFR機ができるので、半分くらいにはなるかな。S型バッテリーとモーターを積んだ、新型の車は、4月に発売のようだ。大体、車自体の値段はガソリン車と同じくらいらしい」
「発売されたら買いましょう。でもだいぶ待たなきゃならないのじゃ」
「そのくらいは、コネで大丈夫だよ。最初のロットが入手できるようになっている。また、バッテリーの励起(充電)工場の充実が大事だけど、4月には江南市にも1か所できるから、交換するバッテリーの補給は問題ないよ」
「でも、バッテリーの交換は大変なんじゃないの」
「バッテリーの交換は、順平君のお父さんの会社がすごく便利な交換機を開発してくれて、各スタンドに備えるから、30秒くらいで交換できるよ。お父さんの会社の江南メカトロニクスは、モーターで先行していたのだけど、普及を全国的に特急でやらなければならないということになっただろう。それで、ちょっと独占は無理ということになって、当てがはずれた格好だったけど、お父さん正人さんが開発した装置が全国のスタンドに入ることで大きな仕事ができるようになった。
お父さんもだいぶ出世するんじゃないかな」
「うん、奥さんもだいぶゆとりがありそう」
「ところで、最近はずいぶん景気がいいだろう?思わない?」
「うん、そうね。お友達の旦那さんは忙しいみたいだけど、残業代も増えてお給料も上がっているようよ。店にいってもお客さんが多いし、いろんなものも売れているみたいね」
「今年の日本のGDPは、企業の設備投資がすごく伸びて、全体として増加率5%を上回るようだね。来年はもっと上がって、7%を超えるだろうと言われている。
大学の新卒の就職率は完全に100%、それもそれなりのところばかりだ。特に江南大学はあっという間に全員が決まった。いま、院生に他大学からの転入志望者がすごいことになっている。入試志望者も過去最高で、偏差値がすごく上がって、工学部は医学部より高いらしい、理学部はいつも人気がないのだけど、その工学部とほとんど差がない」
「留学生は、どうなの」
「それこそ、世界中から志望者は殺到しているけど、理系は米国の特別な推薦の線以外の全部拒否している。あまりにも、国益に係る新規開発が多すぎるから、ちょっと、留学生は受け入れられない」
「でも在学生に留学生はいるでしょう?また、在日の人とかは?」
「いまは、順平セミナーを始め、重要な講義などや研究は特別な部屋でやって、留学生は入れないようにしている。また、今建設中の、技術開発公社の構内に講義棟・研究室を作るので、そっちには基本的に留学生は入れない。
日本国籍のないものは、留学生と同じ扱いだ。帰化した人も慎重に調べる」
5月20日、柏崎原発サイトFR機の建設現場、A機の現場所長の狭山を中心に工程会議の最中だ。
「それでは、柴田君、昨日のリアクターの工場検査結果を説明してください」と狭山。
「はい、浦和の〇〇工業で組み立て中のリアクターは、現在函体は完成しており、内部の整流格子もほとんど取り付け終わって、組み立て完了まであと1週間という所です。その後X線検査を経て、圧力検査等で2週間、6月20日には発送できるということです」
「ふーん、工程上クリティカルなリアクターが20日発送ということは、23日には組み立てを始められるな。そうすると、リアクター以外の組み立て配管・配線を全部終了させておけば、全体組み立て完了は7月頭だね。それから、調整、検査、8月盆までには試運転に入れるか」狭山がぶつぶつ言う。
集まった15人の職員と下請けの責任者を見渡す。
「ところで、吉安君、B号機の進捗はどうなんだ」狭山の言葉に吉安は苦笑いして答える。
B号機は、同じ御代田エンジニアリングが同じ構内で建設しているFR機で、お互いライバル視して早い完成を争っている。
「すこし、リアクターの製造が遅れているようですね。たぶん、1週間程度はリードしているのではないでしょうか」吉竹が説明する。
狭山がそれを受けて言う、「うん、そうか1週間程度というのは、頑張っているな。また、聞くところによると、大飯の現場の四菱重工が少し先行しているようだ。さすがに、開発を担当したメンバーを入れているだけのことはある。
それから、福島は少し遅れているようだね。なにせ、放射能の除染装置の設置、運転も並行してやっているから無理はないよね。でも、今年暮れには場内の除染は終わるらしい。ただ、周辺の低濃度汚染がね。これは、例の順平効果で開発された中和剤が使われれるらしく、すでに試験運用が始まっている。たぶん、来年一杯には、福島原発周辺の放射能の問題は片付くはずだよ。
しかし、このFR機は我が国のためにも1日も早く完成させたい。とはいえ事故の無いように慎重に手早くやろう」
皆が、にやりとしてうなづいて解散していく。
現場のメンバーの士気は高い。
5月21日、護衛艦”あきつき”艦上、
順平は叫ぶ、「わあ!気持ちがいい!」 “あきつき”は今20ノットの速度で走っている。
艦長の橋田一佐が「順平君は、自衛艦は初めてかな。」笑いながら言う。
「護衛艦どころか、船は初めて!」順平が気持ちよさそうに言う。
今日は、初めて実機が完成したレールガンがあきつきに設置され、試射を行うということで、伊豆大島沖に出ている。
制服組は海上幕僚長を始め、事務方も来ており、米軍の将校も3名乗り込んでいる。昨今中国の挑発はやまず、米軍の協力は是非必要なので、レールガンの技術は彼らに開示することになった。今、直径7mほどの砲台に15mほど突き出した径1.0mほどの格子状の砲身を彼らは盛んに写真を撮っている。順平は今日の試射に無理を言って、立ち会わせてもらった。なにしろ、開発のキーマンであるし、いくらでもアイデアが出てくるいわば『うちでの小づち』だから、防衛省も今後のことを考えると、少々の無理は聞く。
今日は、日米の合同演習に合わせて、伊豆大島沖で標的を準備しての試射だが、問題は威力が大きすぎて、通常の試射はできない。なにしろ、仰角30度程度の角度で打ち出せば、200km以上飛んでしまうのだから。そこで、今日は、あきつき艦上の砲の高さ12mから地球の円弧を考えて見通せる最大の5km先に標的を浮かべて標的を抜けた砲弾は海中に潜るように打つこととした。
さらに、ちょうど上空に差し掛かる高度330kmの機能を停止した衛星を狙うことにしている。この衛星は米軍が運用していて機能を停止したもので、彼らから標的に提供されている。衛星は、午後2時にほぼ真上に差し掛かるが、海面の標的への試射はその前だ。
「艦長!あと10分で標的にへの試射位置に着きます」当直将校が報告する。
「よろしい、艦橋に行く。順平君、Colonel Smith, please come in the control room.」艦長が呼びかける。
艦内に入り、皆で艦橋のスクリーンの映像を見つめる。かろうじて、標的の上の端が見えている。
「あと、1分で予定位置です。予定位置で、今から55秒後に打ちます」砲術士官が言う。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、撃て!」士官が叫ぶ。
艦の振動に合わせてゆっくり動いている砲から、バシュ!と少し大きな音がして、赤い火が走った、「命中です!」しかし、その後は極めて派手なものだった。
映像中の標的を、径25mm長さ300mmの砲弾は殆ど振動なしに通過したあと水面上をさらに1kmも走って水中に潜りこんでその莫大なエネルギーを解放した。
その位置から、海水が高さ100mほどもまくれあがってドーンという爆発が起きた。これは直径100mにも達する大きな爆発だ。
みな無言で顔を見合わせた。「水蒸気爆発ですね。これは本体に当てるより水面に打った方の威力の方が大きいんじゃないかな?」順平が言う。
その後、衛星を狙った試射は皆がかたずをのむ中行われ、1発目で330km上空の衛星を破壊した。どうも大気摩擦によって砲弾の速度がちょうどいい具合に下がるのと摩擦熱で弾丸が赤熱したことにより、単に貫通するのじゃなく当たった瞬間に衛星は爆散した。
『これで、弾道ミサイルでも撃ち落とせるな。早急に国内に砲台を建設する必要がある』立ち会った海上幕僚長は思った。
7月20日、閣議の席。
冒頭、官房長官が述べる。「今日はまず、財務大臣から最近の経済情勢についてご報告願います」
「はい、皆さんのご存知の通り、とりわけ、FR機を始め一連のS型バッテリー・モーター等の急速な建設・製造、それを組み込んだ自動車の急速な普及、さらに関連する種々の企業の設備投資に伴い日本経済は大きく上向いています。経済企画庁の調査では、民間の設備投資が大きく膨らみ、今年のみで昨年度を30兆円以上上回る状況で、それに伴って雇用率が大きく改善されさらに消費が活発になっています。結果として、今年のGDPの伸び率は、現状では9%に近いという見込みです。一方で、物価の上昇が続いており、今年の物価上昇率は2から、場合によっては3%を超えるという予想が出ています。
来年は、GDPの伸びは10%を超えると予想されており、インフレ率も今年以上という予想です。インフレ率については、極端に振れないように政府として何らかの手を打つ必要があると思います。我が国は、長くデフレで苦しんできたわけですが、これで解消されたと言ってもよろしいと思います。税収については、多くの企業が黒字化し、給与所得者の所得も増えていることから、大幅に増え、30%以上の増になろうかと思います。いずれにせよ、我が国の経済情勢は大幅に改善されたと言っていいでしょう。
これが、すべて江南大学発の種々の発明によるというのは、やや複雑な感情はありますが」
「ちょっとよろしいですか」文部科学大臣が手を挙げる。
「どうぞ」官房長官が促す。
「今話題になっている数々の発明は、いわゆる順平効果によるものですが、徐々に、彼の持つ触媒効果がほかの人でもある程度代用できるようになってきました。いくつかの大学および企業で、順平セミナーの経験者を加えて同じようなセミナーを継続的に開いており、さすがに順平君が入るほどの効果はありませんが、従来には考えられないほどの成果が出ています。
今年から、来年以降、我が国では新開発ラッシュになると思いますよ。そこで、文科省としては、このサークル活動を全国に広げるための、マニュアルを作るとともに資格制度の創設などの試案を作っているところです」
「大変、ボジティブな話をありがとうございます。中根大臣から現状のFR機ほかの進捗状況をお願いできますか」と官房長官。
「はい、しかし十分マスコミが報じていますので私が報じるまでもないとは思いますが。折角のご指名ですので。
FR機は、最初に着工した8基のうち4基は8月末ないしは9月始めには試運転に入れます。各サイトでは対抗心が強くて大変ですが、どうも大飯が先頭を切りそうですね。しかし、9月末には8基全部動きます。続いて、8基づつ1カ月遅れで5回分が着工しているので、すでに40機が着工しています。その後、今回の建設が終わったチームと、そこで研修を受けていたチームでさらに続いて着工が行われます。
今年の100万kW機は結局40基どまりになりそうですが、10万kW機建設は極めて順調に軌道に乗っており、300基を超えそうですね。おかげで、少し余裕がでたので爆発事故で発電機が壊れた、フィリピン・マニラに3基緊急に入れてあげて大変感謝されましたからね。しかし、今のペースで我が国の電力の発電装置が全部入れ替わるのは、後2年かかります」
「国内は順調なのですが、海外から技術を供与するようにという要望というか、要求が非常に強く、外務省としては大変苦慮しています。とりわけ、緊急援助ということで、フィリピンに出していますからね」と外務大臣。
「ほう、私もニュースでしか知りませんが、特にどこがそういう話を」と中根大臣。
「ご存知の通り米国に対しては最優先で技術移転を進めていますが、ごねているのは例によって、中国と韓国ですよ。どちらも当然という感じで、例によって歴史問題で自分たちに迷惑をかけた日本は最優先で自分たちに供与して当然という態度です。特に中国は軍事力をちらつかせてで脅しに近い態度で、交渉もしたくないですね」
これに関しては、首相が口を開く。
「その件ですが、彼らはまだ勘違いをしているようですが、我が国には彼らが高圧的にふるまうなんの弱みもありません。
特に韓国は勘違いも甚だしいと私も思っています。
中国は、昨年のバブル崩壊で、経済的な苦境にありますが、無理をして軍事予算は減らさないで来ていますので、我が国単独では安全保障上ではやや脅威です。しかし、後1年すれば、質の面で我が国は明らかに彼らを上回りますので、現状の所は米国と協力して、暴発しないようにあやす必要はあります。
しかし、韓国に対しては、基本的にはどんなことを言って来ても相手にする必要がありません。所詮どんな約束をしても、守れない国ですから。先般の慰安婦合意のその後を見てもよくわかります。そういう意味では、国民から嫌われているかの国に迎合することは、国内の政治的にリスクがありますが、厳しく対応することはなんのリスクもないですからね。韓国への技術供与は、最も優先度が低いランクにしてください。
中国は、先日のレールガンの試験のニュースを見て、今戦端を開く勇気はないでしょう。しかし、中国とは今は少なくとも戦いたくはないし、なにより戦争などはしたくはありません。1年たてば、かれらも我が国と戦うことは自殺行為だとわかるでしょう」
「ところで、FR機については、大体の報告をしましたが、S型バッテリー・モーター及び自動車及び船舶への応用について報告しておきます」中根大臣が続ける。
「すでに、皆さんご存知の通り。S型のバッテリー、モーターを搭載した車は各自動車メーカーが一斉に発売しましたが、各社フル生産体制にあっても、数カ月の予約待ちです。今年は新機種の国内販売のみで3百万台を超えるでしょう。
新型車は、現状では国内だけで行っており、自動車メーカーの海外進出の状況からみて早晩海外でも生産を開始する必要があります。この場合、どうしてもバッテリーの充電工場を海外へも建設する必要があるので、そこをどうするかですね。すでに、自動車メーカーが連合を組んで工場を建てるという話も始まっています。
ちなみに、船舶にもS型バッテリー・モーターの適用が始まっています。当面、建造中にゆきかぜ型護衛艦ゆきかぜに装置しており、1カ月後には竣工します。これは5000トンの船体にFR機10万kWの発電機を備えていますので、40ノットの高速運転が可能で、燃料の意味ではほとんど無限に走れます」
「ちょっとその話は私にさせてくださいよ」
伊藤防衛大臣が言う。「ゆきかぜは、順平君がずいぶん入れ込んで新機構を取り込んだ艦で、おそらく世界最強の艦です。
まず、速度は設計では45ノットになると計算されており、むろん水が燃料ですし、S型モーターによる駆動ですから載っている人間さえ耐えられれば、ほぼ無限に全速で航海できます。レールガンは標準装備、大型1基、防空用4基で、ほかに既存の6インチ砲さらに電磁砲、これは航空機、ミサイルの電子機器を破壊するものも設置しています。ミサイルは、対地対艦のセルを8基設置しており、このゆきかぜおそらく世界最高の攻撃力もっています。
それだけではありません。これは何と防御バリヤーをもっているのです。順平君が開発したもので、といっても防衛研究所の研究員の知識を借りたということですが、電磁的なものらしく、ミサイル程度ははじくそうです。バリヤーの展開は10万kWのFR機のほぼ全電力を使いますので、あきつきにはFR機を2基備えています。
さらに、江南大学技術開発公社と協同で、飛翔型護衛艦というタイプの艦船を作っており、これはいわば宇宙船、スペース・バトルシップです。加えて、航空機の面で、さっき言った飛翔型護衛艦に重力エンジンを積んでいるのですが、きな臭い中国相手のことを考えて、バッテリー駆動の小型重力エンジンを現状のF4とF15の古いものに積み替える作業をやっています。さらに、レーダー波をほぼ完全に吸収する塗料が開発されまして、自衛隊の航空機はまもなくすべてステルス化されます。首相が言われるようにあと1年待ってください。中国ごときに脅されることはありません!」
その時、首相秘書官が駆け込んでくる。「恐れいります。緊急事態ですので。北朝鮮が、ミサイルの燃料注入を始めたそうです」
「なに、来たか! 首相今度こそ、撃ち落としましょう。この動きはつかめていたので、レールガンを積んだ“あきつき”を日本海へ送り込んでいます。たぶん最新型のテポドンⅣ型でしょう。日本の上を越えますよ」防衛大臣が言う。
首相が答える。「よろしい。破壊命令を出してください。日本の上空を我が国の了解なしに上空をミサイル様のものを飛行させることは許容できない。その場合、防衛のため破壊する。防衛省大臣名で発表してください。
日本上空ではどのくらいの高度かね」
「過去の例からみて230km程度とされています」と防衛大臣。
「レールガンの有効射程距離は150kmとされているが大丈夫かね」と首相。
「それは海上の的の場合で、宇宙に向けて撃つ場合は別です。探知さえできれば軌道を変える要素のほとんどない亜宇宙空間に撃つ場合は300km、400kmでも大丈夫ですし、射程距離を離れるまで4発は撃てるのでまず大丈夫かと」防衛大臣が答える。
「よし! いままでずいぶんなめた真似をされたが、今度は我々の番だ」首相がきっぱり言う。
防衛省から破壊命令の発布と、日本上空を通過する場合は破壊する旨が公表された。
世界は日本の本気に驚き、その経過をかたずをのんで見守る。当初はミサイルによる破壊ということで、命中の見込みは薄いという意見が主流であったが、迎撃担当艦のあきつきにはレールガンが設置されており、すでに人工衛星の試射に成功しているとの話がネットから出回り、なおさら興味を掻き立てた。
翌日、午前10時北朝鮮ミサイル発射、7分後日本上空を通過することが判明、あきつきがその2分前350km離れたミサイルに射撃開始、10秒ごとに計3発発射、250kmの地点で一発目が命中して、ミサイルは分解して散乱した。
「迎撃成功です!」防衛省防衛指揮所に声が響く。
「おお!」期せずして歓声が沸き起こり、拍手の音が響く。
この結果は世界に驚きをもって迎えられ、とりわけ中国軍部には深刻なインパクトとなった。それというのも、防衛省は迎撃したのはレールガンであり砲弾の飛翔速度は秒速10km、すでに日本主要部には砲台の配備が始まっていると発表したからだ。これは、中国の核ミサイルが高確率で迎撃されることを意味する。
また、艦載の砲であるということ、弾道ミサイルを迎撃できるということは、敵性の航空機はその艦に近づくこともできないことを意味する。
戦争準備に入っていた紅軍は、短期間の激しい論戦の結果、準備を取りやめることに決した。
無論、北朝鮮はヒステリックにわわめいて『戦争行為だ!』と、言いたてたが、中国が鞘をおさめおとなしくなる状態では、相手にされずに終わっている。
さらに、日本から「今後日本に向けて撃つミサイルはすべて迎撃する」と言われてしまった。
現実の日本がこんな風になってくれればとおもいます。