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建設の開始

沢山の人に読んでもらえてずいぶん張り合いがでました。

もうすぐ日本に向けて出発するので、今日はここまでとします。

福島の放射能の問題は書くのを忘れていましたので書き足します。

 10月8日、経産省で会議が開かれた。山根大臣自らの主催だ。

 江南大学からは山戸教授、山村教授、モーターを担当する機械工学の佐野教授、バッテリーを担当する水谷教授が出席している。経産省からは次官はじめ10名、国交省からも3名、経済企画庁から2名、財務省から2名、学識経験者としては江南大学の4名と他に2名である。司会は田中局長である。


「今日はご出席ありがとうございます。

 今日はご案内の通り、フュージョン・リアクターの建設のプライオリティを実施上の観点から策定するためのものです。まず大臣からお願いします」司会が口火を切る。


「今般の首相の談話の内容は世界に広がり、とりわけ産油国に深刻な影響を与えたことは間違いありません。

 しかし、石油価格は下がるどころか、今のうちにという観点からか、かなりの供給先から極めて強気に来られているのが現状です。現状のネゴの状況だと、大分高い買い物をさせられる状況ですが、180日分はある備蓄を生かして、何とか高い買い物をしないで済むようにしたいということです。

 したがって、核融合発電機は無論ですが、超・バッテリーとモーターもできるだけ早く普及に持っていきたいということで、今日の会議を開きました。どうぞ、皆さんのご協力をお願いします」大臣が初めの言葉を述べる。


「ありがとうございます。まず、山村教授に標準設計の進行状況と、リアクター規模ごとの想定される工期をお聞きしたいのですが。先生お願いします」さらに司会。


「はい、標準設計としては、10、50、100万kWのものが完成しています。いずれも基本的には長方形の用地に収めるもので、10万が鋼製フレーム、50万、100万がコンクリート基礎になります。大きさは、お手元の資料のように、100万kWで30m×20mですから、どこに作るのであってもこの程度の用地確保に問題はないと思います。構成機器は、すでに製品化されているものが多いのですが、リアクター本体など新規に製作する物もかなりあります。従って、工期的には、これらの新規製作物に左右されることになりますが、製品化されている機器についても在庫、あるいは生産期間等で制約要因にはなりえます。


 お手元の資料にありますように、機器の製作、購入すべてを最優先で取り組むことは無論、2交代で製造するとしています。また組み立ては、最高の人材を2倍集めて2交代で進めるとして、100万kWで8カ月というのが結論です。これが限度でしょう。

 また、現在経産省の斡旋で集められた100名の講習中のエンジニアがおり、彼らに講習の一環で出来上がった標準設計図と仕様書に基づいて、発注仕様書を作らせています。さすがに、彼らは分野は違っていてもこういうことは手慣れていて、また、基本的に優秀な人が多く、彼らを工事責任者にしての建設は十分可能だと思います。講習期間は1カ月ですが、その最後に各現場の担当を決めます。100万kWのケースではまず、各チームの社内で発注作業を終え、制作の管理をしつつ現場の準備をして、機材が集まった適当な時期に、各電力会社の現場に行って組み立てを実施してもらいます。

 第1陣では、各10名で8か所の100万kWのFR機建設を、担当してもらいます。20名には四菱江南工場で引き続き10万kW、20基のパッケージ化したリアクター製作をやってもらいます。これは、工場内の港に面した用地で、仮設の屋根の中で組み立て、船で運び出します。大体、半年で最初のロット20基が完成の見込みです。


 従って、100万kW機の場合、最初の同時着工は8基ですが、100人の技術者の養成が終わる都度、20人で10万kWのFR機20基、80人で100万kWのFR機 8基というようにできていきます。今のところ、江南市での講習は5回までで、その後は各現場に10人ずつ別途送り込んで、仕事を覚えてもらおうと思っています。ということで、FR機については11月に建設を開始をして、100万kWの設備は来年8月〜9月には最初の8基が稼働、その後1カ月後には次の8基となり来年末には40基で、たぶん再来年にはほぼ200基2億kWで現況の発電量に達するでしょう。

 一方、10万kW級は、基本的に当初はアルミ等の工場向け、電力網上の理由で小型発電が必要な場所に設置しますが、来年中には150基程度ができるでしょう」


「大変綿密な資料をありがとうございした。大臣、こういうことですがこの件はよろしいですね」司会が念を押す。


「はい、山村先生ありがとうございました。あのこれは、大変申しにくいのですが、この建設計画の総指揮を先生にお願いしたいのですが。大分探したのですが、先生ほどの人材が見つからず、逆に先生の下だったらという方々がいます」大臣が申し訳なさそうに言う。


「ええ! 私がですか。うーん。まあ乗りかかった船ですね。来年一杯は面倒を見ます。その後は、その中で育った人材でお願いします」山村が答える。


「はい!ありがとうございます。そういうことでお願いします。よかった」大臣が笑顔で言う。


 田中からも、お礼を言う。「先生ありがとうございます。

 さて、今度は立地選定ですが、基本的な方針として、稼働していない原発には送電設備が整っているので、最優先と考えています。この点はよろしいでしょうか」


 皆が同意する「よろしいです」

 同意のうえで続ける。「順番について、最初の8基分については、まず東電の福島、これは悪評を払拭する理由と、放射能対策で、電力を使いたいというのがありましてそれがひとつです。さらに同じ東電の柏崎、―――――――――」としばらく立地についての話が続く。


 山村からのコメントは、「最初の8基の位置についての異議はありません。それとお願いしたいのは、各プラントには技術者の建設責任者を置きますが、管理に電力会社の担当者を置くことは必要でしょう。しかし、建設に係る権限はあくまで建設場責任者に持たせてください。さらに十分な資金を準備して、決裁権限も彼に持たせてください。さらに、乗り込んで最初の事務所の確保、通信手段、車両については電力会社からの全面的な協力をお願います」


 それを受けて司会が言う。「わかりました。電力会社に強く申し入れますし、当省もチェックするようにします。恐れ入りますが、先ほどの要求条項を文にしていだけますか。

それと、先ほど話がでましたが、東電の福島の放射能の問題で、特に汚染水の問題で終わりがみえないのが現状です。本件については、原子について新しい理論を打ち立てたことになった牧村先生と吉川順平氏に相談したところ、解決策が見えたという返事をもらっています。FR機の建設と一緒に処理設備を設置すればいいということです。しかし、今のところ電力の消費が大きいのでFR機の駆動後に動かすべきということになっています。


 さて次は、超バッテリーおよびモーターの活用による、自動車の電気駆動への変換ですが。これについては、S型をつけて、S型バッテリーおよびS型モーターと呼ばれ始めているので、今後はこの名前で行きたいのですがよろしいですか。よろしいですね。

 では、佐野教授あるいは水谷教授お願いします」


「では、自動車工学の一環ということで、私佐野からお答えします。

 お手元の資料をご参考ください。現状ではS型バッテリー、モーター双方については、理論的な確立はすでにされていまして、今年の電気・機械学会、自動車学会、またいくつかの国際専門ジャーナル紙に発表することになっています。

 バッテリーは、媒体になる物質も決めて、函体および構造も最適値が決められ、3つのプロトタイプが完成しています。これは、100、500、1000kW時のもので、最大のもので重量は10kg、30cm×40cm×高さ30cmで、価格としては10万円位になるだろうと想定しています」


「おお!」どよめきが起きる。


 さらに佐野が続ける。「今のところ、最大1000kW時までの5種類くらい、標準化しようと思っています。

 一方で、S型バッテリーは原理上電力を供給しての充電は出来ず、工場で電子的な励起をする必要があります。したがって、経産省でも発表されたようにスタンドで電池を交換するという形になります。

 この励起には、電力は使用しますが、1000kWのもので10kW時程度で、手間以外の費用は非常に小さいものです。たぶん、最大のもので1回の交換費用は2000〜3000円位でしょうか。普及には、まず生産体制を整える必要があります。これは、出来れば既存のバッテリーメーカーが望ましいということで、経産省さんの斡旋で、技術者を派遣していただき、具体的な生産設備の説明を済ましてあります。

 極めて急ぐ案件ということで、メーカーさんもすでに工場の改修と機器の注文をされているようで、現状の回答では、来春には量産に入れるということです。


 一方S型モーターですが、これも基本的には既存のメーカーさんにということで、同様に準備に入っています。これは、アルミ多用のもので、アルミメーカーとの連携が必要ということですが、これも3カ月ほどで量産に入れることになっています。自動車メーカーさんも説明には加わってもらったのですが、数は少ないですが電気自動車そのものの量産にはいままでにすでに入っており、大きな問題はないようです。バッテリーとモーター・メーカーと連絡を取り合ってモデルを決めるということで、やはり来春にはS型バッテリーとモーターを装着した車が現れるでしょう。

 それから、バッテリーの励起工場は全国に作る必要があります。これは、10万kWの核融合発電機と似たもので、設計は終わっており、来春までに50か所、来年末までに200箇所の建設を考えています。この建設と運用は石油元売り会社にお願いしています」


 会議はなお、質疑を含めて1時間続いて終わった。

 大臣の中根は、予想を超える進捗に、会議の内容には大変満足した。


 狭山健二は45歳の御代田エンジニアリングのエンジニアで、施工計画部、施設課の課長である。海外の仕事も5年こなして、石油化学のプラントの建設、更新、補修の仕事一筋にここまで来ている。

 しかし、彼にとっては9月10日の阿山首相の談話は悪夢であった。自分が誇りをもって取り組んできた、かつ将来性もあると信じてきた、業界が消えてしまう。いや、消えるわけはないが今の1/5程度になって細々とやっていくことになるということになる。国として救済措置をとるというが、プライドを持ってできないようなことを続けたくはない。


 彼の内線電話が鳴った。「山下常務の秘書の汲田です。ご都合がよろしければ、15分後に常務室に来ていただきたいのですが」なんだろうと思いながら返事をする。


「はい、伺います」落ち着かない時間を過ごして、腰を上げ、1階上の常務室をノックする。


「どうぞ」、秘書が開け、招き、奥のドアを開けて「常務、狭山課長がおいでです」と声をかける。

 開けた中には、常務の山下と1年後輩の親しく付き合っている山田章課長、と他に2名が座っている。他の2名は、柴田、吉安という3〜4年下のやはりエンジニアで係長クラスだ。


「ありがとう。忙しいところを、――――もっともいまはあまり忙しくないか。首相のあの話があってからはね」山下は皆の顔を見渡して、


「実は、1週間ほど前から経産省から打診があって、当社から20名人を出して、来週から江南市に行ってもらうことになった」驚いて、見つめる皆にさらに続ける。


「これは、昨日の首相の話の一件だ。核融合発電機の完成は事実らしい。

 それも性能等は首相のいったこと、新聞等で書いているとおりだ。わが社は、石油燃料という飯の種を大部分失うわけだ。しかし、これに対して当社のような石油化学会社、また発電機メーカー、原発メーカー等の石油または原子力利用を仕事としてきた会社からエンジニアを出して、核融合発電機、FR機と呼んでいるようだが、その建設に携わってもらいたいというのだ。

 政府として、できるだけ早く現行の電力の発電機をFR機に交換するつもりだ。現在、日本の電力会社の持つ発電能力は約2億kWだから、100万kWのFR機が200基必要なわけだ。また、電力料金が1/2また1/3になれば、使用量は当然増えるので300基位必要かな。いずれにせよ、君たちがその建設を担当することになる。当社は、たぶん何基かの受注という形で潤うわけだ。


 当面、江南市では江南大学で講義や訓練を受けることなるが、その期間は1ケ月だ。その後直ちに、各々建設担当を指定され、建設を実行することになる。最初は、準備工になるので、今の社内で人を集めて発注仕様書を書き、製造をフォローしつつ適当な時期に現場に入ってもらう。建設期間は1年も貰えないことは覚悟してほしい。

 各建設の今回講習を受ける担当者は、10名の予定だけど建設に当たっては当然スタッフおよび作業員は必要なだけ雇うことができる。出来たら、講習中に社内から必要なスタッフを抽出してほしい。できるだけ要望に従いたい。なお、今回の仕事は、発注先は電力会社だが、通常と違って見積もり等は必要ない。あとで清算という形をとるし、途中要求した金は払われるという約束になっている」


 集められたエンジニアは互いに顔を見合わせて、狭山が「これは、うれしい話ですね。ちなみに、100万kWのFR機ですか、いくらくらいになるのでしょうか」


「大体、100億と言われている。なにしろ、10万kWのものの開発が18億位で終わっているからな。また20m×30mのコンクリートベースに乗る大きさらしい」と山下が言う。


 若手の柴田が不安そうに言う。「でも、いったん建設が終わるとまた仕事がなくなるんじゃ」


 山下常務が返す。「そうだ、その懸念はあるけど、更新もあるし、海外への建設も莫大だ。将来性はあると思うよ。また、石油元売り会社から、話があっているのだけど、首相の話に出ていた新タイプのバッテリー、あれは電気を流して充電するのではないらしい。やはり、今回の10万kW級のFR機みたいなもので励起するということらしい。これを、全国に作る必要があるわけだ。最終的には各都道府県に3か所から5か所作ることになる。これの建設と運営を石油元売り会社にという話が来ているらしく、うちに声がかかっている。このように、いろんな需要が生まれてくると思うぞ」


 狭山は山田達と、江南市に行き、市内のホテルに住んで、車で10分ほどの江南大学に通う毎日である。

 講習と言っても、座学として理論とシステムを学習し、標準設計の図面を渡されれば、石油プラントほど複雑かつ大規模なものではなく通常のプラント仕事と一緒である。基本的に出身先の会社ごとに分かれて、早速仕様のすり合わせと詳細図の作成にかかる。集まったメンバーが、優秀なものばかりであったことも幸いし、1カ月を過ぎるころは発注仕様書、発注図あらかた出来上がり、予算書も作成も今のところ見積もりを取っていない機器費を除いて、ほぼ出来ており、準備そのものもほぼ出来上がろうとしていた。


 リアクター本体についても、材質はSUS316材による20mm厚の、径7mの円筒形のもので、特に複雑なものではなくはなく、励起装置である、電子銃や磁場発生器等もその内部構造はともかくそれほど巨大なものではなく、特殊とは言えない。ノウハウはそれらの励起装置をどう動かすかにあるようで、そのコントロール装置はブラックボックスになっていて、山戸・村山両教授と牧村准教授以外にはセットできないようになっていた。


 その講習のなかで、放射能の除染設備というものも説明された、すでに小型のプロトタイプは出来て福島に持ち込んでいてうまく行っているらしい。これは、要はFR機の融合反応の励起の応用であって、励起の条件を少し変えてやれば、ガンマ線などを発生する不安定な物質を安定させることができるということだ。しかし、融合機のように連鎖反応が起きないので、電力多消費型の設備になる。施設として水の放射能除去は簡単で、その励起状態を起こしているリアクター部分の輪っかを高速で水を通してやればいい。放射能を帯びた土、機器等やはり励起状態の大きな円筒をそれらのものを通してやればいいというものだ。ただ消費電力が、水用設備が5万kW、固体用が15万kW必要と言うことで、当初は100万kW機を稼働後に動かすということであったが、政府からの急いでほしいという要望で、福島のFR機設置チームが先行して設置することになっている。


 1か月後、終了式ということで、皆大学の小ホールに集まっている。講習会の座長を務めた山村教授から話がある。

「皆さん、この1カ月ご苦労様でした。

 私ども講師役を勤めさせていただいた者たちは、皆さんのような社会で活躍してきた人々をお教えするのは実質的に初めてで、どうするか試行錯誤であったのですが、逆に皆さんに教えていただきながら、講習というよりFR機建設の準備工をしたことになります。たぶん、皆さんも担当を決めて、予算の手配が済めば、すぐ発注にかかれるはずです。ご苦労様でした。これをもって、本講習は終了しました。

 それでは、各担当を発表します」


 狭山達、御代田エンジニアリング社員の20名は、柏崎に100万kWのFR機を2基建設することになった。

 その夜、市内のホテルでパーティがあり、参加者は疲れをいやした。

 狭山は、ビールを飲みながら、終わってみれば短かったこの1カ月を、満足感をもって振り返ることができた。


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