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展開の始まり

更新も骨が折れますね。

インターネットでSI単位換算表を見たりして勉強しました。

同日、午後、経済産業省の大臣室。

大臣の中根新太郎、および次官の山本慎吾に産業局長の田中が説明している。中根大臣は、阿山内閣の主要メンバーの一人で、阿山首相の懐刀と言われるまだ52歳の若手大臣だ。山本次官は、やや凡庸でことなかれ主義のところはあるが、さすがに頭の切れは次官に上り詰めるだけのことはあるという、田中の評価である。


田中が言う。「産業大の山中先生に論文を読んでもらいましたが、大分興奮されていました。どうも我が国でこのレベルのものが出ることは信じられないようで、どこから出たかとこだわっておられましたが、ちょっと今のところは、ということで勘弁していただきました。反応からみると、これは相当なもので、実現性も高そうですね」


「ふーん、ちょっとあまりにも話がうますぎるような気がするんだけどね。

しかし、中東情勢もきな臭くなってきており、ここにきて原油もはっきり上昇に転じている。まだ、原発が5基しか動いていないわが国としては、つらいところなんだよな。なんとか、本当であってほしいものだと思うよ。ところで、実現した場合の見通しを現状で分っている範囲でいいので教えてほしい。

首相の耳にも入れておきたいので」との中根大臣の言葉に田中が返す。


「はい、まあ現状で推定できる範囲ですが。

 山戸、牧村先生の言われたこと、またその後ヒアリングした結果からお話しします。

まず、これは、従来の学説を覆すもので、常温核融合とは言っていますが、実際は電磁波や圧力、またこれがみそなのですが、磁力等を一定の条件で励起することで核融合の連鎖反応を起こすものです。反応温度は500℃くらいなので、常温ではありませんが、プラズマの数千万℃に比べればまあ常温でしょうね。

このシステムの、信じられないほど都合のいい特徴は常温の他にも2つあり、まず燃料にあたる水素は重水素、3重水素である必要はなくて、通常水素自動車に使われる水素でいいという点がひとつです。次に、取り出すエネルギーは通常の核反応炉は熱なので、それから電気に変える必要がありますが、この場合は電力が直接出てきます。そのために、これは基本的にタービン等の可動部がなく、また発生する熱もさっき言ったように低いので極めて壊れにくいものになります。

 装置としてはなかり簡便なもので、コンパクトで建設費も低く、山戸先生の話では最小のユニットになる10万kW級で、プロトタイプで10億から20億円と言っています。この場合、量産すれば当然10億以下になるでしょう。ちなみに火力発電で10万kW だと最近の例では80億位かかるようです。それでいて、燃料は水素を1時間1g(グラム)程度で、火力の重油8klに比べるのもばからしいということになります。


現状で発電原価は、原子力で廃棄物の処分を考えないで6円/kw時、LNGで6.4円/kw時、石油で10円/kw時、石炭で6.5円/kw時ですが、これは1円/kw時を切りますね。そして、なにより燃料に一切困ることがない、ということです。

確かに話がうますぎますね。しかし、これほどのものになれば、世界の産業構造を全く作り変えることになります。さしあたって、発電設備を作る業界が壊滅します」


 聞いている中根大臣が、だんだん興奮してきているのがはた目にもわかる。


「これは、我が国にとって千載一隅のチャンスだ。実現すると考えて全力を尽くしてもらいたい。

また、先ほど言った石油価格の先行きがだいぶ怪しくなってきていることから、出来る限りスピードアップをお願いしたい。首相にも話をして、政府としてもできる限りのことはやります。ちなみに、実施主体は江南大学でいいのか?」


 大臣に田中が答える。「はい、キーマンが子供で、江南市在住であることから、例えば東京にすぐ連れてくることはちょっと無理だと思います。また、結局、論文の完成までは至らなかったものの、発想そのものはやはり、江南大学の牧村先生ですから。

 さらに、山戸先生もすでに折衝されているようですが、あの大学の工学部生産工学科に山村雅彦教授がいますからね。四菱重工で、さまざまは開発を手掛けてこられた山村先生に開発の指揮を執ってもらえれば、安心です。また、それに加えて、江南市に四菱の拠点工場がありますから」


 大臣が聞く。「わかった、まあそれが一番摩擦が起きない方法だかからね。

ちなみに、キーマンの天才少年については、進んでいるのかな?」


「はい、その件は基本的に公的には、江南大学の付属小学校に転校という形で、収めたいと思います。実際には、大学のいくつかの研究室に出入りすることになると思いますが。その件について、山本次官から文部科学省に話をして頂いています」なお、田中が答える。


 山本次官がうなづき、説明する。「次官の神山さんに話をしまして、基本的には了解してもらっています。ただ、大臣には文部科学省の城田大臣に、話をしていただきたいのですが。

それと、予算面の裏付けですが、ちょうど民間に募集している、新技術開発の補助金がありますから、20億円位であれば無理なく出せると思います。開発がうまく行けば、全く問題ありませんし、よしんば期待通りでなくても、学会のお歴々のお墨付きがあるわけですからあとで問題にならないように処理はできます」


「わかった。予算の件はそうしてください。城田さんには明日の閣議の時に話をするよ。 なんとか、うまく行ってほしいもんだ。今日はちょっとお神酒を上げるか。どうかね、山本さん、田中さん」この大臣の誘いに、「はい、ご一緒させていただきます」次官と局長は答える。


 その日の夕方5時前、研究室に居る牧村の携帯に日高からの電話が入った。

「先生、準備はできましたが、今晩、山戸先生はいかがですか?」


 牧村が答える。「はい、来てくださるそうです。また、急で申し訳ないのだけど、本学の工学部 生産工学科の山村教授も一緒にお願いしたのですが」


「まあ、山村先生も加わっていただけるとは、頼もしいですわ。もちろん大歓迎です。

こちらも、江南事務所から、吉竹という課長が、ご一緒しますので、よろしくお願いします。

場所は、木花町の、有楽という店ですが、ご存じですか」と日高。


「知っています。じゃ、6時半ということでよろしいですか」牧村が時間を指定する。


「はい、よろしくお願いします」


 有楽は、江南市では老舗の日本料理店で、牧村も何度か行ったことはある。大学で、山戸、山村教授と待ち合わせ、呼んでおいたタクシーで、繁華街の木花町の有楽に向かう。

店にいくと、仲井さんから案内され、奥の座敷に通される。ふすまを開けると、日高と40前後と思われるグレーの背広を着た男性が待っていた。


「お待ちしておりました、どうぞお座りください」その男性の言葉にとりあえず、膝を崩して座ったところで、自己紹介がある。

「始めまして、私は経済産業省の江南事務所におります、吉竹純也と申します。これから、長いおつき合いになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」


「貴江南大学にしばらく、出向させていただきます、日高なおみです。山戸先生と山村先生とは、はじめてになりますがどうぞよろしくお願いいたします」


「山戸です。今回の、プロジェクトと呼んでいいと思いますが、一緒に加われるのを大変楽しみにしています」


「生産工学科の山村です。民間に居た頃、いろんな開発プロジェクトは担当しましたが、今回のものほど重要なものは初めてです。協力して、出来れば楽しくやれればいいなと思っています」


「牧村です。ハードの開発は、専門分野が理学ですから経験がないので、ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いいたします。


 ビールを飲みながら、ひとしきりの雑談のあと、山戸から、始める。「プロジェクトの企画書は、日高さんが中心になって、牧村君と協力して早急に作っていただきたいと思いますが、よろしいですか」


「はい、もとよりそのつもりでした」日高が答える。


 さらに山戸が言う。「企画書と並行して、システムの設計を進める必要があります。

これに関しては、当面概念的なところと、基本設計的なものは、当大学内で山村先生を中心にお願いしようと思っています。しかし、CAD化が必要な部分もあり、できたらそれに長けたエンジニアを民間から出してもらうとありがたいのですが。しかしもし、予算面での裏付けがあるなら、こちらでも段取りしますが?」

「はい、民間企業にも声はかけてはいますが、使い勝手という意味では、無理が無ければ先生の方から準備していただたいた方がいいと思います。予算面の手当は、当省の次官も承知のうえで準備ができていると聞いています」日高が答える。


「わかりました。では明日からでも設計の準備にかかりましょう。ちなみに、キーマンに関しては、早めにご家族にもお会いして早く当大学へ何らかの形で籍を置いてもらいたいと思っているのですが」との山戸の話に日高が答える。


「はい、その件に関しても、文科省とは基本的な調整はできているとのことです。交渉は進めて頂いてよろしいと思います」


 それに続けて、吉竹課長から話がある。「本件については、局長から私にも話があり、大臣も大変期待されているということで、近く首相の耳にもいれるとのことです。

ご存知のように、昨今石油をはじめとするエネルギー価格の急激な上昇が懸念されており、かつ原発の再稼働が進んでいないわが国にとっては頭が痛いところです」


 山村からやや皮肉気に言う。「これが動き始めると大変なことになるよ。第1、原発なんてもうスクラップにしかならないじゃないの。また、既存の発電機メーカーはあがったりだし、石油、石炭等のエネルギー関係の会社は軒並み、開店休業だね」


 吉竹が答える。「それは承知しています。「原発の償却は頭が痛いところですし、このシステムの設備費は既存のものの20%以下になりますので、それほど直接にはGDPには貢献しないわけです。増して、燃料はただの水素ですから、水を供給してシステムの中で電気分解してもいいわけです。すなわち、電力に係る社会的な負荷というかコストが極端に下がるわけです。

しかし、これだけ既存のものに対してメリットが大きいと、緩やかな移行どころか、恐ろしく早い転換が進むでしょうし、それに伴う大きな需要が考えられます。


 電力だけ取ってみても、現状で必要な発電能力が全国で2億kWとすると、このシステムでも2万円/kW程度の費用は必要でしょうから、たちまち、4兆円の需要が生まれるわけです。さらに、聞くと発電装置から電力を直接取り出すシステムは少し仕組みを変えるといわば電力の缶詰をつくれるということなので、当然自動車も安価な電力自動車に代わるでしょう。

 さらには、電力料金が1/5以下になると、工場などの生産施設は大規模に作り替えになります。また、安い電力を使った新たな産業がどんどんおきるはずです。幸い、我が国は民間に金が余っている一方で、銀行からお金を借りる人おらず、デフレから抜け出せないわけです。そこに、いま設備投資した方が絶対得という状態が生まれるわけです。間違いなく、すごい好景気がやってきます。

原発の償却ロスなんかわずかなもの、だということになると思いますよ」


山村は吉竹を見て、「なかなか経産省も考えているね。私もそう思うよ。協力してできるだけ早く実現しましょう」と吉竹と握手する。


「ところで、『あれ』とか『これ』とか、もう少しなんとか呼び名はないのかな」との山戸に

「それは、やっぱりフュージョン・リアクターが呼びやすくていいと思いますよ」日高が言う。


「レディーファーストだ。いいんじゃないかね」と山戸。

「賛成!」皆が言う。


「じゃ、プロジェクト名は『フュージョン・リアクター開発プロジェクト』、外には“FR計画”ね」山戸が結論つける。


こつこつ、続けたいですね。

読んでいただく方が、居ればいいのですが。

再度訂正しました。

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