愛に生まれて
何となく続けてみようかなと
僕が君に優しいのはね、人類を愛してるからだよ。
僕に向けられる悪意も、好意も、敵意も、恋意も、殺意も、生意も、全て愛してる。
分かってくれなくてもいい。
それでも君たちを愛してる。
心の底から愛してる。
だから――――――
僕の父と母はそれは偉大な人だった。
決して裕福ではなかったが、慎ましく、真面目で、なによりも優しい両親だった。
たった一人の息子である僕は、この両親が良いとわがままを神様に言ったのか、この愛すべき両親にもとに下り立ち生まれた。
あぁ、何と言うべきか分からぬ程の幸運。
生まれた時の事は覚えていないが、きっと拳を振り回し「オギャア」と勝利宣言をしたに違いない。
そのまますくすくと僕は成長し、健全な生き方を獲得した。
両親は尋常ではない深い愛で僕を包み、すっぽりと包まれた僕は果てしない星の光りにも愛を吐く良い子になった。
誰にも優しく、平等にという両親の願いを叶えるためにも頑張らなければ、そう思っていた。
この両親はとても偉大な良い人であったが、良い人過ぎると周囲から馬鹿にされていたらしい。
金銭を求められれば即渡し、手伝いを拒まず、言われたことは何でもした。
周囲はそれを見て、こんな時代に馬鹿な奴らだ、よっぽどの物好きなのだろうと体よく使うことを思い付いたのだろう。
裕福ではないが貧しいになり、貧しいが暮らしていけるか分からんになっても両親は止まらず、ただ善行を為した。
僕はそんな両親を見て馬鹿にするわけもなく、ただ美しいと感じていた。
身を粉にする誰にも報われぬ働き、ああ!! これこそは愛!!
そう想ったことで、天啓を得たような強い衝撃が僕の心を打った。
毎秒毎分毎時毎日手伝いをしたいと絶叫する僕を拒んでいる両親をどうにかして説き伏せ参加しなければならない。
ずるい、そんな素晴らしい事をなぜ僕にさせてくれないのか! 非常にずるい!
両親はいつも「私達は病気なのだからこういう事が出来る。お前は助け合いながら生きなければならない。でなければ私達のように先がなくなってしまうのだから」と言って手伝いをさせてくれない。
この鬱屈とした精神は病気などではない。
素晴らしい愛!! を実現するにはどうすればいいんだ!
そうして気が狂い、口の端から血の泡をブクブクとさせ両親を卒倒させるほど悩んだ僕を導いたのは、隣の家(粗末であるが木の板だけで造られた僕の家より立派な)の姉妹だった。
両親にならい姉妹たちに愛を為すため近づく度に、貧乏人の物好きに生まれた馬鹿な息子だと石を投げてくる彼女たちだ。
頭からダクダクと血を流し愛の試練と叫ぶ僕を見て、顔を真っ青にしながら姉妹仲良く駆け出す。
石を仲良く投げ、互いに仲良く駆け出す姿を僕に見せて愛を理解させてくれているのだろう。
心のなかでは両親に次ぐ偉大な先生として呼び敬愛をしている。
駆け出す際に「アイツまた笑ってるよ姉ちゃん!」「き、気持ち悪いわ!」と僕に向かって言うのも、愛に完全に目覚めていない僕を叱咤激励しているに違いない。
そのような偉大な姉妹たちが、毎夜窓から顔を出して(丁度姉妹たちの部屋から見えることを後から知り恥ずかしい限りだ)愛を為したいとすすり泣く僕を見かねたのか、「アイツまた鬼みたいな顔して泣き叫んでるよ姉ちゃん…」「もう私達が悪かったから…許して…許してよぉ」と言って心配してくれているのが聞こえてきた。
許して…何を許せば――――あっ!と僕は思い付いた。
きっと姉妹たちは両親と僕が手伝いをするしないで話し合っているのを目撃し、争っているように見えたに違いない。
そうして偉大な姉妹たちのことだ、必ず心を痛めたのだろう。
両親と子は仲良くすべきなのだと、そう強く想ったのだろう。
愛を為すためとはいえ人を傷つけてしまった。
何という罪な行いか!!
罪の意識に耐えきれず、自身の顔を殴り続けながら姉妹たちに土下座をし続けた。
「アイツ気が狂ってるよ姉ちゃん! 助けて!イヤァー!!」「もう村から出てってよおお! お願いだからあああ!」
え、村から出る? お願いだから?
そうか…僕はここまで姉妹たちを傷つけてしまったのか、そう項垂れる僕だったが、ある閃きが体を支配した。
待てよ僕、傷つけられて怒っているなら姉妹たちは何故あんなにも悲壮な顔をしているのか。
それは、それは即ち愛を為すためには村では両親がいるため足りておりこれからは世界へと羽ばたいて愛を為す必要があると気づきながらも両親と僕を引き離す残酷さに気づいてしまい世界と僕の愛を天秤にかけるという苦しみが偉大な姉妹たちを苛んでいるのでないのだろうか!!
確かに両親と別れる苦しみはある、しかし!愛を為すためと偉大な姉妹たちの美しい心遣いが劣るものではないのだ!
父様、母様、あなた方の元に生まれ、勝利宣言をした日から随分と経ちました。
あなた方の愛で僕が包まれたように、今度は僕が愛で世界ごとあなた方を包みます。
そして帰った際にはあの暖かい水シチューを食べたいです。
また会うその日まで…。
安らかな顔で寝ている両親を起さないようにこっそりと家から出る。
外は薄暗く、吐く息には白いものが見える。
シンと静まった村はそれだけで美しく愛にみちみちている。
さあ、行こうと向きを獣道へと変える直前、聞きなれた偉大な声が聞こえた。
「あ、アイツこんな朝早くから山でも越えて街に行くような格好してるよ姉ちゃん」
「ウソでしょう!? ここから街までは歩いて行くには一ヶ月は掛かるのよ! それをなん…まさかアンタ昨日の聞こえて…」
最後の最後までこの姉妹たちには心配を掛けてしまっている。
けれどお礼をするものは僕の手元には何もない。
申し訳ないと思いつつ何かないかとポケットを漁ると丸い美しい輪のようなものが見つかった。
父様の上着を借りていたが、まさかこのような物があるとは思わず驚いてしまった。(ちなみに上着は必ず返すことを手紙に書いて枕元にへ置いてある)
母がいつも着けているものとは違い、見る角度によって色を変えキラキラと輝いていた。
そうだ、と思いついたら即為す僕はその美しい指輪を握り姉妹たちへ向かった。
僕をいつも励ましてくれた偉大な麗しい姉妹たち。
姉があ、で、妹はい、だ。
二人合わせて愛の体現者である姉妹たちに僕は――
「これを、これを君たちに捧げるよ。いつも励ましてくれてありがとう。君たちはとても美しい。その美しい君たちにはこの指輪がぴったりと似合う。まるで君たちのために造られたように。さあ、どうぞ美しい君たちよ」
「姉ちゃん!何か私達告白通り越して結婚要求されてるよ!よくみたらアイツ結構男前だしどうしよう!てかあの頃指輪スゴッ!え?ウソ!?あんな変な奴にドキドキしてきたんだけど!」
「お、お、落ち着くのののよ。そんな私がいつもアンタを見ていて貧しそうで不憫で心配におもってたけど何か素直になれなくてつい厳しい言葉ばかり掛けてたからこの前つもり積もって気が触れたんじゃないかって内心心配で怖くなって出てってよとか言ったのになんで結婚なんかあばばばば」
「あっ!姉ちゃんずるいよ!今更感がずるいよ!」
「ウルトラうるさいわね!」
ああ、喜んでもらえたみたいだ。
僕も喜んでいてあまり返事を聞いてなかったけど、多分偉大な言葉をくれたんだろう。
聞けなかったことが残念だけど、それはまた村に戻ってきてから恥ずかしながら聞くとしよう。
「って、アンタどこに行くの!? 嫁をほっぽりだして街へ行く気!? 待ちなさいって!」
「姉ちゃん最早嫁気取りだよ。真の嫁はアタシだよ!待ってダーリン!」
その日穏やかな村から子どもが三人居なくなった。
大混乱の村をよそに彼はどこに行くのだろうか。
それは愛のみが知っている。
あ、疲れた