64話
連帯を組んで対峙する四人の戦士に、神は口元を緩ませ、やがて盛大に裂いた。
――フハハ、ハハハハ!
「いずれも見るからに満身創痍! いったい何ができる!? なのになぜ立ち向かう! なぜ解らない無理だと! 儚い夢だ、できっこないと! あがくほどに無駄だ! いい加減神の前に命乞いをしろ! とくと挫け、ここが叶わぬ夢の終着地点だ! フハハハ!」
とつーん、とつーん、と魔力の波紋を宙に描きながら跳び、やがて剣へ続く進路をふさいだ。
すうと前方へ伸ばした指先を光らせて、これも盛大に口を裂いてのたまう。
「お前たちになど、剣は渡さない。何をするでもなく全員ここで死ぬのだ!」
エレニクスの光線がパレオに向けて放たれた。
即座に応じたマーリンが、杖をふりかざす。
――ゴッド・ハンド・ヴィンタ!
現れた巨大な黄金平手が、迫りくる魔弾を見事にビンタしてクリアした。空へはじかれた茫漠たるエネルギーの衝撃が、盛大な音をたてる間にさらに声がとどろく。
「走れ! 剣のもとへ!」
マーリンの獅子吼に、パレオは全力で応えた。かの夢の地へ、白き台座の頂きを目指して一心に走り出す。だが一、二歩を行かんとするその間すら、与えようとせずエレニクスが再び指先を光らせた。やばっ! と身構えれば、今度は豪速で飛んだトランプカードが、神の指先を直撃して標準を僅かにずらした。結果、むかうべき軌道をそれた光線が、新しい道を拓かんばかりに森林を遠くまで穿ち爆ぜた。
なんて威力だ、と足踏みしていれば、力尽きて倒れたトランプスは言った。
「行くのです、剣のもとへ」
そのまま意識の途絶えた戦友が、決死の想いで切り開いてくれた活路へ。
パレオは固くうなずくと再び駆け出した。しかし、みたびこれも長大な魔力砲を指先に充填せしめたエレニクスは、すうとパレオに狙いを定めた。それを放ったが先だったのか、背後から、誰かがぎゅっと抱き付いた。
「とぶよ」
と、水面におちた清水のごとき、耳元でとびきり澄んだ少女の声がした。ほかならぬそれはゼリドだと気付くも、発言の内容までは解せなかった。
「どういう――」
こと? まで言わせる気はさらさらなかったか、パレオはぶっとばされた。元居た場所を、びゅんと光線が通過し、目標を外して漠々と爆ぜた。
剣までの距離を一瞬で詰める俊足の移動に、全身がかつて経験したこともない凄まじき勢いで、気体の壁に叩きつけられる。ゴウ! と空間を切り裂く音がした。世界がすげ替わったと錯覚するほどに景色が変遷し、気付けばすでに到着していた。
足元に純然たる白石の台座。
眼前にしんと佇む伝説の刃は、まさしくエクス・カリバーだ。
あまりの速さに脳みそがシャッフルされて目が眩んだが、あたまをぶんぶん振ってとりなおし、パレオはすぐさま剣に手を伸ばした。
が、同時に神が目の前に現れた。
「未だ完全でないとはいえ、そう易々と突破されてはこれより成らんとする神の面目が失せてしまう」
至近距離で、エレニクスの指先の光がパレオに狙いを定めた。
「――くっ」
避けなければと思考が迸るのを、まるであざ笑うかのように、圧倒的な破壊の光が放たれた。迫りくる爆撃の一筋を、パレオはゆっくり流れる時の中で見つめた。剣を、もうあとほんのわずかにしておきながら、こんなところで、やられるわけにいかない。その想いが肉体に信号を送り、光をなんとしてでも避けなければと動きだす。が、あまりに反応は緩慢で、極近から放たれた魔弾を避けるにはすでに手が遅すぎていた。
――間に合わない。
瞳をすら瞑りかけ、思考が塗りつぶされる一瞬。
体はさらに加速をして横へ動きだしていた。
自分の意思とは別に働く+αの力で始まる回避運動は、明らかに誰かに押されたものだった。
みやればゼリドは、全身をつかってパレオをかばっていた。
すぐそばを横切った爆ぜる魔弾は、身代わりとなったゼリドをとらえ、
「ゼリ――――!」
名を呼ぶ間もなく、轟々と爆ぜる超大な魔力に吹き飛ばされた。
振り返ることもせず、浮かんだ目じりの涙もぶっ飛ばしてパレオは叫んだ。
「うおおぉぉぉぉ――――!」
沸き起こる怒りのすべてを込めて手を伸ばす。
相棒が紡いでくれた最大最後のチャンスを、無駄になどできない。
その一心がパレオに、アーサーの身姿に、光のオーラを迸らせた。エレニクスが次弾を放つより先、台座に収まるエクス・カリバーをつかまんと、全身全霊の力を振り絞る。
「ムダと言ったのだ、人間!」
こちらも剣へ手をかけんと、エレニクスは動いていた。
豪風が狭間を乱れ吹きすさぶ。
両者がほぼ同速で伝説の剣へ向かう。
長く感ぜられる一瞬の間が、刻々流れてゆく。
人か神か。
選ばれし王か。
両者ほぼ同時に触れた、エクス・カリバーの刀身からは、衝撃波が飛んだ。
雌雄を決する、ひかり。
結果は厳然だった。




