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選王の剣  作者: 立花豊実
第九章 ~神と王と人間と~
60/71

60話

「神を相手に打つ手があるというのは絶賛しますね。しかしパレオ氏、懸念せざるを得ない。私の見立てでは、あのバケモノは何らかの方法によってエクス・カリバーからとんでもない魔力を得てしまっている。……主導した黒幕は、相当のやり手だったのではないですか」

 苦々しく肯定して、パレオは答えた。

「帝国が当初から睨んでいたとおり、主犯はレイクン・ゴッドの一味だった。奴らの中心メンバーは人工的に優れた人間を生み出す『ホムン・スミス』の一族だ。古くに帝国から人造人間の製造を虐げられたことを逆恨みし、時を経て、エクス・カリバーから膨大な魔力を得る技術を造っちまったんだ。それでもってあの馬鹿げたスペックのホムンクルス……、ゴッド様を生み出した」

 言いながら、未だにワープ陣を不思議がっているエレニクスをあごで指した。

 聞いて、トランプスは嘆息した。

おおむね、そんな筋書きではないかと思ってましたが……。気になるのは、これから書き加えられるだろう最悪のシナリオです。奴はすでに圧倒的に強い。そこへきて、あの剣から魔力を抽出できる技術ですよ。破壊できた『装置』にだけ備わるものならば、撤退に異論はありません。ですが、もしもですよ、」

 トランプスが、エレニクスにちらりと目線を投げた。

 不穏な意味合いを含むトランプスの発言と所作に、背中が冷たくなる。

「もしも……?」


 くく、くくく、あはは!


 トランプスの危惧するところを証明するかのように、ここが一番の見せ場とでもいうかのように、エレニクスが不敵に笑い出した。

 人工神は、パレオが初めて目にした始動時の幼体から、ずいぶん大人びた体つきに進化している。身長や肢体はすらりと伸びて、顔立ちもきりっと鼻筋も通る。マーリンが言っていたとおり、やはり剣の魔力によって完全体へと着実に近づいているのだ。

 その人造人間がふわりと体を後方へ預け、まるで宙を、水中のごとく泳ぎはじめた。

 向かった先は、白き台座におわす伝説の剣、エクス・カリバーだ。

 ぐるん、と体を回転させて剣の御前に着地したエレニクスは、残る片腕を前方へとのばした。

「なにを今さら焦る必要がある。人間、それがすることすべてはムダであるというのに。お前たちは、どこへ逃げようとも、もうおそすぎる」

 フハハハ! と森じゅうに響き渡る笑い声を飛ばして、エレニクスは、かつてパレオがそうしたように、白き台座に刺さった剣の柄を残る片腕で、


 ぎゅっと握りしめた。


 直後、世界を白に染めあげる光が迸った。

 ズバーン! と激しく音と光を伴って、エレニクスが天を仰いで笑い出す。

「完全なる存在へ」

 露骨に危険な魔力が、轟々とたぎり、のぼって空の色を塗り替えていく。

 両眼を狂ったようにぎゅるぎゅると揺らし、ドでかい魔力で塗り固められたエレニクスの身体が肉付きを増した。余りあるエネルギーが放出され、エレニクスに剣の魔力が充填されていくのがわかる。

 やがて、出来上がってしまった。

 シュー、と煙を巻きながら、度肝を抜く隆々としたマッチョがそこに降臨する。

 完全究極かと見てとれる体つきに、しかしそれでもってしても、エレニクスは未だ不満そうな顔で苦言を呈した。

「足りぬな。まだまだこんなものではない」

 と。

 パレオと、トランプスは同時にごくり、と苦すぎる唾を呑んだ。

「……こ、これで」

「……た、足りないだと?」

 冗談じゃない。

 しかと確認した。

 エレニクスは、自分ひとりでエクス・カリバーから魔力を抽出できてしまうのだ。

 誰人も触れることのできなかった、かの伝説に直触りすることによって。

 甚大かつ無尽蔵な魔力を、あのエクス・カリバーから。

 おもむろに、エレニクスが手のひらを空に向かって突き出した。

 直後、その指先から光線が飛んで、


 ――天空を爆撃した。


 突然の対空砲火が鼓膜をつんざき、パレオは目を丸くして空を見上げた。

 大気の層をけ散らす、神の雷だ。

 轟々と残響音が広がってゆく。

 衝撃が地球の天蓋に放射状の跡をのこすのを見て、もはや「にげる」という選択肢が無意味であることを悟った。空から圧してくる余波に煽られながら思う。エレニクスが為そうとすれば、パレオやトランプスなど容易く、いつでも殺せるのだと。それでも、未だそれをしようとしないのは、おそらくは始動時から言っている、人間を「おもちゃ」、もしくはそれ以下としか見ていないからだろう。

 改めて、現状のヤバさを痛感する。

 荒む天空にひどい耳鳴りがした。

 半ば呆然としつつ、パレオは問うた。

「お前は……、いったい何がしたいんだ」

 一段と成熟した澄み切る声で、神はのたまった。

「我が目的それは我が身を創造せしめた人間どもが置いていったものだ。哀れなる者たちの望みはひとつ。帝国なる者たちの支配をうち滅ぼすこと」

「レイクン・ゴッド、ホムンスミスが言っていたことか。……それをするつもりなのか」

「なんと愚かな」

 神は空を仰いだ。

「崇高なる我が何をゆえに愚かな人間の夢を果たすのだ」

「つまり帝国は襲わないって、そういうことなのか?」

 話が見えず、けれどともすれば話が通ずるチャンスではと思ったパレオは、エレニクスを説得しようとした。

 だが何ら表情を見せなくなったエレニクスは、淡々と答えた。

「我が心の在り様を教えよう。空虚だ。この見果てぬ宇宙そらのように、底なく暗がりが続く空しさだ。おのれが神であると、この世界においてもっとも優れた存在であると知りえておきながら尚、人によって造られたと理解している。派手に飾られた『おもちゃ』と気づいてしまった」

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