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選王の剣  作者: 立花豊実
第六章 ~神エレニクス~
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33/71

33話

 輝く粒子を宙へまき散らしながら、エクスカリバー強奪の首謀者はパレオのもとへ歩いてきた。

「帝国の犬だけはある、ということか。よくやってくれたものだ。まだ惜しい二度目の命だが、お前たちを退けることができるなら喜んでくれてやる。さすがは帝国、と褒めておこう。今一度聞く、名は?」

「……パレオ」

 答えながら、パレオはまだ諦めていなかった。

 言うことを聞かない腕を、手を、ふるわせながら、剣を握りなおそうとする。

 ベルリーテは鼻で笑った。

「聞いた名だな。エクス・カリバーに手を出して呪われた剣士に、たしか『柴腕のパレオ』というのがいた。その両腕の火傷といい、本物のようだ」

 それが言い終わる直前、パレオは剣を持ち上げようとした。が、その瞬間ベルリーテに剣を遠くへ蹴り飛ばされてしまう。宙をまわり、やがて黒刀の乾いた落下音が響いた。

「見あげた根性だ。その様でまだ戦う気があるとは。……言っておくが、もう我々を止めることはできないぞ。お前が目にしたエレニクスの誕生は、これが終わりではない。エクス・カリバーにはまだあり余る巨万の魔力が秘められているのだ。魔力はそれが強ければ強いほど、周囲の魔源をより集めることわりがある。エクス・カリバーはその最たるアイテムとして周囲を常に濃い魔力で満たす『永久機関』だからな。その力を利用すれば、」


 ――エレニクスはさらに進化できる。


 そう誇ったベルリーテの背後で、巨大な円筒容器と周囲に浮かぶ光の球体が、一層つよくバチバチと輝いた。まるで内包するはちきれんばかりの魔力が、留まることをよしとしないかのように。その力の根源である伝説の剣は、台座の中心で凛々しく構え、かつて、パレオがあこがれ見上げた時と変わらず輝き続けている。

「……まだ、進化する、だと?」

「ああ、そうだ。帝国の軍部も聖騎士も、超務庁だろうと敵ではない……あの名高きア・チョウでさえ、超える日は近い。さすれば帝国など、もう潰したも同然だろう」

 ベルリーテの言うことが本当ならば、今ここで阻止しなければ後々大変なことになる。

 魔源を広く寄り集める永久機関エクス・カリバーから、魔力抽出を為す技術が存在している以上、導き出されるのは最悪の結果だ。人間の生命でさえつかさどるバケモノが、更なる強化を得たら帝国の滅亡もジョーダンでは済まない。

 武器も体力も失くして足をふらつかせながら、それでもパレオは再び立ち上がった。全身を痛みが覆って、吐き気がする。よろっと一歩目を踏み出し、戦う意志をみせると、ベルリーテは場違いな笑みを浮かべた。

「……いい眼だ。帝国には惜しい男だが、立ち向かってくるならば容赦できない。覚悟することだ」

 そういう自分は、ゼリドに生命情報を()み砕かれて肉体をパラパラと削り落としているのだ。まるで最後の時を敢然と生き貫こうとしている。その姿に、敵も固い決意で帝国と相対峙しているのだと改めて認識しなおし、パレオはにらみ返した。

「……あのおっさんが、負けるわけ、ないだろう」

「ほう。なぜそうと言い切れる」

「……まっすぐ、あるからだ」

「なんだそれは。何を言っている」

 パレオはかすかな呼吸を整えて、指先から肢体の感覚を確かめた。なんとか、まだ動ける。己が身の、まだ「やれる」ことを信じる。

 頑張っても、果たせないことは確かにあるだろう。だが、できるかできないかの可能性におびえて、それを即座にやるかやらないかの判断に転嫁するのは、ア・チョウが教示してくれた「まっすぐあれ」には反する。

 エクス・カリバーに拒絶されてからここまで、パレオは長らく自分の限界に苦しんできた。何度でも襲いくる「おまえには抜けない」という悪夢に、怖くて、背を向けることしかできず、そうすることでしか生きてこれなかった。

 戦わずに済めば、とても楽だ。その結果は〝できなかった〟ではなくただ〝やらなかった〟になる。肩の荷の重さは、はるかに軽くて済むのだ。だが今ここで、「やらない」の選択肢だけは断じて選ぶわけにはいかない。決意したからだ。


 ――もう一度、あの伝説の剣エクス・カリバーに立ち向かうと。


 ありったけの闘志をみなぎらせて、パレオは走りだした。

 体裁は悪く、何度も足を絡ませて転びそうになりながら、だが決して止まらない。

 ――たった一つだけ、自分にできることを完遂するために。エレニクスには勝てずとも、まだやれることが残っている。エクス・カリバーから魔力を抽出せしめた元凶――神エレニクスを生んだ――製造機をぶっ壊すのだ。……たとえ、命に代えたとしても。

 しかし、同じくその製造に「命を懸けた」男ベルリーテは、潔く「よし」とはしなかった。

 すかさずパレオの前に立ちふさがり、消えゆくその身で魔法を紡いだ。

 ダラウ・メリエに蔓延する濃い魔力の後押しを受けて、どす黒い魔弾が急速に形を成していく。狂気じみた赤黒い双眸が、魔力を帯びて光を灯した。

「覚悟はあるようだな、柴腕のパレオ! 岸壁を前にしてなお怯まぬ戦士だ! 魔道士ベルリーテの最後の華をもって称えようではないか! だが死して恨むな、私もお前と、ここで朽ちる身なのだから!」

 ごう! とその右手が生んだ魔弾がぐんぐん渦を巻いて立ち昇った。

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