33話
輝く粒子を宙へまき散らしながら、エクスカリバー強奪の首謀者はパレオのもとへ歩いてきた。
「帝国の犬だけはある、ということか。よくやってくれたものだ。まだ惜しい二度目の命だが、お前たちを退けることができるなら喜んでくれてやる。さすがは帝国、と褒めておこう。今一度聞く、名は?」
「……パレオ」
答えながら、パレオはまだ諦めていなかった。
言うことを聞かない腕を、手を、ふるわせながら、剣を握りなおそうとする。
ベルリーテは鼻で笑った。
「聞いた名だな。エクス・カリバーに手を出して呪われた剣士に、たしか『柴腕のパレオ』というのがいた。その両腕の火傷といい、本物のようだ」
それが言い終わる直前、パレオは剣を持ち上げようとした。が、その瞬間ベルリーテに剣を遠くへ蹴り飛ばされてしまう。宙をまわり、やがて黒刀の乾いた落下音が響いた。
「見あげた根性だ。その様でまだ戦う気があるとは。……言っておくが、もう我々を止めることはできないぞ。お前が目にしたエレニクスの誕生は、これが終わりではない。エクス・カリバーにはまだあり余る巨万の魔力が秘められているのだ。魔力はそれが強ければ強いほど、周囲の魔源をより集める理がある。エクス・カリバーはその最たるアイテムとして周囲を常に濃い魔力で満たす『永久機関』だからな。その力を利用すれば、」
――エレニクスはさらに進化できる。
そう誇ったベルリーテの背後で、巨大な円筒容器と周囲に浮かぶ光の球体が、一層つよくバチバチと輝いた。まるで内包するはちきれんばかりの魔力が、留まることをよしとしないかのように。その力の根源である伝説の剣は、台座の中心で凛々しく構え、かつて、パレオが憧れ見上げた時と変わらず輝き続けている。
「……まだ、進化する、だと?」
「ああ、そうだ。帝国の軍部も聖騎士も、超務庁だろうと敵ではない……あの名高きア・チョウでさえ、超える日は近い。さすれば帝国など、もう潰したも同然だろう」
ベルリーテの言うことが本当ならば、今ここで阻止しなければ後々大変なことになる。
魔源を広く寄り集める永久機関エクス・カリバーから、魔力抽出を為す技術が存在している以上、導き出されるのは最悪の結果だ。人間の生命でさえ司るバケモノが、更なる強化を得たら帝国の滅亡もジョーダンでは済まない。
武器も体力も失くして足をふらつかせながら、それでもパレオは再び立ち上がった。全身を痛みが覆って、吐き気がする。よろっと一歩目を踏み出し、戦う意志をみせると、ベルリーテは場違いな笑みを浮かべた。
「……いい眼だ。帝国には惜しい男だが、立ち向かってくるならば容赦できない。覚悟することだ」
そういう自分は、ゼリドに生命情報を噛み砕かれて肉体をパラパラと削り落としているのだ。まるで最後の時を敢然と生き貫こうとしている。その姿に、敵も固い決意で帝国と相対峙しているのだと改めて認識しなおし、パレオはにらみ返した。
「……あのおっさんが、負けるわけ、ないだろう」
「ほう。なぜそうと言い切れる」
「……まっすぐ、あるからだ」
「なんだそれは。何を言っている」
パレオはかすかな呼吸を整えて、指先から肢体の感覚を確かめた。なんとか、まだ動ける。己が身の、まだ「やれる」ことを信じる。
頑張っても、果たせないことは確かにあるだろう。だが、できるかできないかの可能性におびえて、それを即座にやるかやらないかの判断に転嫁するのは、ア・チョウが教示してくれた「まっすぐあれ」には反する。
エクス・カリバーに拒絶されてからここまで、パレオは長らく自分の限界に苦しんできた。何度でも襲いくる「おまえには抜けない」という悪夢に、怖くて、背を向けることしかできず、そうすることでしか生きてこれなかった。
戦わずに済めば、とても楽だ。その結果は〝できなかった〟ではなくただ〝やらなかった〟になる。肩の荷の重さは、はるかに軽くて済むのだ。だが今ここで、「やらない」の選択肢だけは断じて選ぶわけにはいかない。決意したからだ。
――もう一度、あの伝説の剣エクス・カリバーに立ち向かうと。
ありったけの闘志をみなぎらせて、パレオは走りだした。
体裁は悪く、何度も足を絡ませて転びそうになりながら、だが決して止まらない。
――たった一つだけ、自分にできることを完遂するために。エレニクスには勝てずとも、まだやれることが残っている。エクス・カリバーから魔力を抽出せしめた元凶――神エレニクスを生んだ――製造機をぶっ壊すのだ。……たとえ、命に代えたとしても。
しかし、同じくその製造に「命を懸けた」男ベルリーテは、潔く「よし」とはしなかった。
すかさずパレオの前に立ちふさがり、消えゆくその身で魔法を紡いだ。
ダラウ・メリエに蔓延する濃い魔力の後押しを受けて、どす黒い魔弾が急速に形を成していく。狂気じみた赤黒い双眸が、魔力を帯びて光を灯した。
「覚悟はあるようだな、柴腕のパレオ! 岸壁を前にしてなお怯まぬ戦士だ! 魔道士ベルリーテの最後の華をもって称えようではないか! だが死して恨むな、私もお前と、ここで朽ちる身なのだから!」
ごう! とその右手が生んだ魔弾がぐんぐん渦を巻いて立ち昇った。




