見間違い?
水元君と付き合い始めて一週間が経った。
朝の電車で会う以外はお互いメールでやり取りするだけ。
忙しいから仕方ない。けど、やっぱり何か寂しいな……。
「何だか付き合ってる実感ないんだよね。 まあ、 お互い大事な時だし仕方ないけど」
学校の中休み、ナミに愚痴を言った。
「仕方ないって分かってるじゃん。 なら我慢しなよ。 受験ひと段落したらベッタリできるんでしょ?」
「うー。 分かんない……」
「何だそれ」
水元君は優しい。電車で会う時もさり気なく気を遣ってくれるって言うか。
でも、何かあんまりベタベタするのは好きじゃないのかな。
ふいに手に触れそうになった時、さっと拒まれたし。
付き合ってるって言っても、メールが主で。
でも大事だって言ってくれたし。
今だけ我慢すれば……。
自分で自分を納得させた。
放課後になり、私は部活指導の為部室へと向かう。
更衣室で防具を付け、指導開始。
「おはようございます。 宜しくお願い致します」
揃って挨拶をした。
部活指導をしている時は、水元君の事は頭から離れる。
公私混同はしない。
だけどやっぱり指導に身が入らない……。
付き合うってこんな感じなのかな。
いやいや。今だけだ。再び自分に言い聞かせた。
学校を出た時は、すっかり夕暮れ時になっていた。
私はメールのチェックをする為、カバンからスマホを取り出す。
「メール、 ない……」
一日一回、必ず水元君からメールがくる。
多い時は三回。
「昨日はこの時間、 メールきたのに」
何だか胸がモヤモヤしてきた。
「忙しいだけだよね……」
小さく言って駅へ向かった。
駅のホームで電車を待つ。
オレンジ色の駅のホームはとてもきれい。
何て見ていたら、電車がホームへすべりこんで来た。
何気無く電車に乗った私は、目の前に飛び込んできた光景にはっとした。
「水元君……?」
水元君が女の子と二人、仲良さそうに座っていて、何やら本を見ているではないか。
寄り添う様にして、座る二人。
私には気がつかない。
衝動的に私はドアが閉まる瞬間、電車を飛び降りた。
「何で? だってこの駅から電車乗るはずだし……」
一瞬の出来事に頭がパニックになる。
メール、しようか……。見間違いかも知れないし。
私はスマホを取り出し、水元君へメールした。
『今部活終わりました。 駅にいるのですが、少し会えますか?』
震える手で文字を打ち送信した。
暫くして返信がきた。
『ごめん。 もう家に帰って勉強中。 またメールするよ』
やっぱり見間違いだった?いや、そんな事はない。
「同んなじ学校の子かぁ。 制服一緒だったし。 参考書見てたのかな。 仲良く……」
会えないだけで寂しいのに、あんな光景を見てしまったら、どうしていいか分からなくなる。
何か理由があるはず。
そう思いたいけど、敢えて嘘をつかれた事に気持ちが落ち込んだ。
「付き合うって、 無理だったのかな」
オレンジ色の駅のホーム。
私は次の電車に乗った。
「ありがちな話だな」
学校の昼休み、ナミに昨日の事を話した。
「ありがちだよね……」
「よくある事だ。 落ち込んでも仕方ない」
「納得いかない……」
「そう言われても、 私は困る」
お弁当、食べられない……。
理由があるなら言って欲しいのに、何で嘘つくのかな。
「片想いよりツライかも。 仲良しな光景みちゃったし……」
「言えないから嘘ついたんでしょ? 余計な詮索は嫌われるよ? まあでもあっちが悪くなるのか」
「ただの友達だと思うけど、 やっぱりやだな」
「モテる彼氏だ。 仕方ないよ」
ナミの軽い慰めさえ、嫌になる。
モヤモヤした気持ちは、ずっと消えない。
仲良く二人で並んで座っていた事もイヤだけど、嘘をつかれた事がもっとイヤだった。
隠す理由があるのかな?言えない事、あるのかな。
トボトボ俯きながら学校を後にした。