Re:Set 〜April Fool's Day〜
四月一日。
卯月四月の始まりを彩る桜の花。
並木道をくぐる少女は、期待に胸を膨らませている。
世間より少し早い入学式。
少女の体躯にしては多少大きいブレザーに身を包み、少し背伸びしているかのような印象を感じる。それが、新入生であることを象徴するような初々しさを演出している。
流行りの歌など何も知らないため、昔から好きな歌を聞きながら、少し早い時間に、目的地に辿り着く。
少女がこれから三年間通う学校に。
「──草鹿芙来乃、行きまーす!」
* * *
流石に早すぎた。
逸る気持ちを抑えられずに家を飛び出してきたため、少し……見栄を張るのはやめよう。
とっても早い時間に着いてしまった。
事前に通知されていた教室に辿り着き、教卓に置かれた席早見表を頼りに自分の席に着く。
ふむ、何をしようか。
あ、そうだ。
いつも暇潰しに使っているノートを取り出した。
このノートに書き込むこと、それは。
「さって、どんな物語を書こうかな?」
自作の物語を書き綴ることであった。
その時その時の暇潰しなので、毎回書くものは違ってくる。
ここ最近は、日常のゲームを、少し捻ったルールで登場人物たちにプレイしてもらう物語にハマっている。
例えば。
最初は鬼ごっこだった。
少しファンタジーっぽく、本物の鬼を使ってやってみたらどうか。
試しに書いてみたら中々、ファンタジーから遠ざかって結構血生臭いモノになった。が、これはこれで面白い。
その次はババ抜き。
普通は、最後にジョーカーを持っていた人の負けだが、その逆はどうだろうか。
最後にジョーカーを持っていた人の勝ち。それ以外は負け。
また試しに書いてみたら、今度は特に血を見るような物語にはならなかったのだが……満足行かなくて、結局、負けたらトランプの絵柄が実体化して殺される。というルールを追加して書き直した。結果、鬼ごっこに並び血生臭いモノになった。
その他にも、ドッジボール、ジャンケン、椅子取りゲームと書いてみた。その全てが血生臭くなったのは、まあ、うん。
血生臭いモノでないと満足できなかったのだから仕方ない。うん。
一端の女子中学生(今日から)としてこれは如何なものか、などというツッコミは受け付けておりませぬ。悪しからず。
そうだ。今日は初心に帰って、また鬼ごっこを題材にして書いてみよう。今度は一対一で、とかどうだろうか。……なんか味気ないなー。あ、鬼も混ぜた一対一なら!
思い付いてからまとまるまでが早い私は、即座にアイディアを書き出し、早速本文に取り掛かる。
今回もまた、血生臭い話になるのだろう。
* * *
気付けば入学式開始の時間の五分前になっていた。
「あれ、五分前なのに誰も来てない?」
キョロキョロ見渡すが、少女一人にとってはかなり広めの教室内には、私以外の人はいない。
ふむ。
……あ、普通入学式って……。
私は即座にノートを鞄に入れ、教室から飛び出した。
* * *
『──起立。礼』
息を荒くしながら静かに腰を折る少女は傍目に見なくても異質であろう。なにせ、私自身が異質であると確信しているのだから。
着席の号令がかかり、ようやっと私は一息吐く。
ふぃー……。……おっと、オジサンっぽかったか。気を付けねば。
私は今日から華の女子中学生。気合い──ではなく、本腰入れ──なんかどれも女子中学生っぽくない。女子中学生っぽいのが何かなんて考えたこともないが。ふんす。
* * *
八時半から十時半の二時間で入学式は閉式となった。
ここから先は、各教室に分かれ、中学初のホームルームとなる。
自己紹介や今後の予定、この学校の案内などで終了し、下校となる。
テンプレート。だがまあ、テンプレートでないモノなんかこの世にはありはしないから、今更感満載である。
そして、ぼんやり過ごす内にホームルームは終わっていた。
* * *
さあ下校だ。同じ小学校から来たのであろう幾つかのグループは、キャッキャ言いながらいち早く教室から姿を消して行った。
その背中を眺め、思う。
ガキかよ。
……ああ、ガキだったわ。
と。
そんなどうでもいいことは頭の隅に追いやり、朝書きかけだった物語の続きを頭の中で思い浮かべる。うん、これを早く文章にしたい。家に帰ろう。
と、席を立った時だった。
「──ちょっとこっち来ようか?ん?」
* * *
──めんどくさいなぁ。
体育館裏なんて実在するんだなぁ、なんて思いながら連れてこられた体育館裏。
先ほど私の席を訪ねてきた男女五人組。確か同じクラスの奴だったと思う。
自己紹介の内容は憶えていないが、目立つような者はいなかったと脳内メモ帳には記されている。
つまり、表立って悪いことする奴らはいなかったってことだ。
じゃあこいつらは?
「お前さァ、朝体育館に走って入って来た奴だよなァ?」
どこぞの一方通行さんの口調でも真似てんのかと言いたくなるような、妙に間延びした口調て話しかけてくる男子。ヤバい、笑える。私今、ちゃんと笑い堪えられているだろうか。
「そんでさァ。オレ達としちゃァお前みたいな奴は許せないわけよ。真面目だからさァ?」
後ろの四人も、この一方通行(笑)と似たような目をしている。……ふむ、なるほど。
新しい居城となるクラスを、手っ取り早く締めたいってところか。不良モドキが。
そのための方法が、クラスに一人いじめられっ子を作る。
一人いじめられっ子を作ってそいつをいじめれば、他のクラスの奴らも下手に手出しができなくなるから。
止めようものなら同様にいじめられる。それが嫌なら、手を出さず、大人しくいじめている奴らの言うことを聞くしかない。
あったま良いねえ。えらいえらい。
んでま、朝目立っていた私を標的に選んだと。
先生にバレないように、目立たないように務めているところを見ると、社会的には真面目で通りたいらしい。
ご都合主義、乙。
さて、いじられっ子認定されそうな私よ。どうする?
一度こいつらに屈せば、それが卒業するまで続く。いや、もしかしたら社会に出たあとも、何かしらの弊害が残るかも。
三年間、こいつらの餌になり続けるか。
今ここで歯向かい、こいつらの恨みを買うか。
とりあえず私は、朝の間抜けな己を恨むことにした。
場所間違えるなよアホぉ……。
よし、恨み終わり。
次は目の前の障害について。
……ああ~いいっすね^~。
その愚図っぷり。
いつまで経っても何も言わない私に対し業を煮やした一方通行(笑)は、私から鞄を奪い取った。
……あ、その中には……。
「ンだよ、財布とか持って来てねェの?……んァ、ンだこれ」
取り出されたのは──私の、物語が綴られているノート。
「鬼ごっこ……ブフォwwwなにこれ、自作の小説www?」
「え、なにさなにさ、見せろよ~」
次々と回される私のノート。それを眺めながら私は──私は?
何も感じていなかった。いや違う。感じていないのは嫌悪感。
代わりに──高揚感を感じていた。……え?
え、ちょ、ヤバい。待って待ってヤバい。
自作の物語を見られ笑われ回され。
どこからどう見てもイジメにしか見えないこの状況で。
私は。
興奮していた。
もっとハッキリ言おう。
悦んでいた。
ははは、そんなわけあるか。イジメられて悦ぶとかどんな変態──え、変態なのか?私は?
事実私は、この状況を受け入れ、むしろ悦んですらいる。
なるほど、私はイジメられて悦ぶ変態だったのか!
言ってる場合か。
衝撃驚愕唖然な事実にちぃーっとばかしショックを受けながら冷静さを鳥もドブ。……おっと失礼、脳内変換までもが取り乱していたようだ。鳥もドブてはなく、取り戻す。
さて、どうするか。
ノートを取り戻さねば。
未だゲラゲラ笑いこける五人を見やる。
「ハハハ!笑えるわ~。……あ、そうだ、これ燃やしちまおうぜ?」
……HA?
一方通行(笑)は、ブレザーの内ポケットから、どこで買ったのか、はたまた万引きでもしてきたのか、ライターを取り出し──私のノートに火をつけた。
『────────』
私の感情を、私の感情ではない何かが埋め尽くして行く。
気付いた時には、目の前に五人の姿はなく、ただ、辛うじて燃え残った一冊のノートだけが残った。
* * *
四月一日。
私の退屈な中学校生活の始まりの日。
エイプリルフールだと言う今日。
私は屋上で、この学校を中心に拡がる大きな街を見渡す。
風が、私の中途半端に伸びた髪をなびかせる。
左手には焼け焦げたノート。
右手にはお気に入りのシャープペン。
私は今日、嘘を吐く。
言葉にしながら、ノートに書き込んでいく。
『今日は四月一日。エイプリルフール。四月の愚者……だっけ?なるほど、その通りだ。
四月の始まりは、どうしようもない愚か者が街を支配する。
そんな街には、たくさんの希望が溢れかえっている。
私もその、溢れんばかりの希望を一つ、左手に掴み。
明るい未来に向かって歩き出す。
さあ、今日もまた、楽しい遊戯で遊ぼうか。
──こんな世界、なくなっちゃえ。
……なんて、思ってないよ?』
それから一年と四ヶ月後、少女──草鹿芙来乃の下に、招待状が届く。
楽しい"リセットゲーム"の、始まり始まり────
多分、"リセットゲーム"はここから始まったんだと思います。
四月一日、エイプリルフール用の短編を……と思って書いたら、あらまあ。思いっきり本編に関係する話になっちゃったという。
そんなテケトーでできた話が結構重要?な話になっちゃって行き当たりばったり感パないの。
……これ本編でやれば良かったな。と思いながら今回はさようなら。




