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八鬼  作者: 城谷結季
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能力

説明ばかりです。


「低属だけど逃げ脚だけは速いから厄介だな」

「もちろん仕掛けはあるんでしょうね!?」

「ぬかりないさ」


 息を切らせながら走る二人はそれでも笑みを浮かべそんなことを話している。

 どんな仕掛けがあるのかは知らないが、退治屋は自信満々のように親指を立てウインクをした。


「気持ち悪いからやめてよっ!」

「ひっどいなぁ。じゃあここから分かれよう。夕香はそこの小道。入ってすぐ右に行って。綾乃ちゃんは僕と一緒についてきて」

「宗谷をよろしくね、綾乃ちゃん」


 同じウインクでも華麗な夕香は颯爽と消えていく。

 商店街だからこそ見つけづらい道は、きっと奥深いつくりになっているのだろうことを想像させる。


「ここはね、表通りからは見えない中通りという道があるんだ。そういう狭いところ、あいつらは好きだからねぇ……夕香なら大丈夫だよ」


 最後の言葉は綾乃のために言われたものだったらしく、見上げれば退治屋が微笑んでいた。


 「お、あっちの方が早かったか」


 何メートルか先に赤い服の女性が立っている。夕香だ。そしてその前に苔が生えたみたいな丸い生き物――ロモモが集まっていた。だが動きはなく、固まっている。そしてあちこちの店や抜け道からロモモが慌てるように飛び出しては、夕香の前で動きを止めた。

 あれが仕掛けらしい。


「綾ちゃん、後ろ!」


 前のロモモ達に気を取られ気付かなかった気配。ロモモかと振り向いた先には、退治屋。だが様子がおかしい。鼻息が荒く、目が血走っている。


「僕はこっちだ、綾乃ちゃん!」


 左側からの声で視線だけ動かせば、たしかに退治屋だった。必死に叫んでいる。だがこっちに来ようとはしない。

 瞬時に、試されているのだとわかった。

 視線を定め、飛び蹴りをくらわす。相手が怯んだ隙に深く息を吸い、心の中で唱える。

 あの時から何度も唱えてきた言葉。瞼をうっすら開いた先に、退治屋の偽物の立ち上がる姿が見えた。

 溢れ出る力を手足に集中させ、瞬間意識を手放す。

 それは一瞬のようで、けれど深い奥底の海を眺めるようだった。

 逆廻る景色がしだいに元に戻っていく。

 妖の気配が弱まる。

 そしてそれは終わりの合図。

 一瞬の風が吹き、目を開ければどこからか拍手が聞こえた。


「お見事。じゃあ僕たちも片付けようか」


 何事もなかったように退治屋と夕香は仕掛けておいた札でロモモをまとめて浄化した。

 青い光が辺りを包み、そして静寂が残った。




「つまり君は能力者なわけだね。だから今まで生き残れたわけだ」


 軽く溜息を吐きながら退治屋は綾乃の前の席に座る。


 夕香は気にした様子もなく、冷蔵庫からペットボトルを取り出し飲んでいた。


「困るねぇ、そういうことは早く言ってもらわなきゃ」

「すみません」

「ちょっと宗谷、あんたもあんたで悪いわ。あの状況、普通の人なら死んでるもの。解決できたし、能力者がいれば退治も早いから問題ないじゃない。何を怒る必要があるのよ。綾ちゃん、気にしないでね。それよりすごかったわ。能力はひとつ? いつ鬼に会ったの?」

「おい、夕香。あのスボルノは結界張ってて僕が何しても侵入できなかったの知ってるよな?計算外だったってわかってるよな?」

「計算外で死人が出るようじゃなんで退治屋やってるかわからないわね」

「そもそもあのスボルノは気配がなかったんだ……」

「言い訳は結構。役に立たない屁理屈宗谷より、瞬間技で妖を倒した綾ちゃんの方が立派よ。ささ、乾杯」


 そう言って夕香は黒い液体の入ったペットボトルを退治屋と綾乃、そして隅でわからないという顔をしている朝子に渡した。


「何はともあれ、綾ちゃんの武功と仲間が増えたことを祝して」

「なんでドク×なんだ。ここはビールだろ」

「一回死ね!」

「だめですだめです!宗谷さん死んじゃったら私は……」

「いいからほら、宗谷」

「はいはい、じゃあ乾杯」

「かんぱーい!」


 仁王立ちで豪快に飲む夕香を見て、朝子は苦笑しながら綾乃のペットボトルと自分のを軽く触れさせると、眉を寄せながら飲む。退治屋も朝子と同じように綾乃のペットボトルと自分のを軽く合わせ、やれやれと飲む。仕方なく、ピリリとくる炭酸に耐え一口だけ口にした。


「うえー、何度飲んでも悲惨な味」

「どこがよ!あんたの飲んでるお酒なんかより断然良いわ!飲み物の中の王よ!」

「朝子は苦手です……」

「綾ちゃん、美味しいでしょ?」

「……斬新です」

「まずいってさ」

「言ってないわよ、馬鹿宗谷。美味しいわよね?」

「……わかりません」

「ほら」


 ヤサグレたようにまたドク×を飲み干す夕香。苦笑していた朝子は理解ができないという顔で、退治屋に向き直った。


「さっきの話の続きですけど、能力って何ですか? 妖を退治するのに能力を使うなんて聞いたことがないです」


 朝子はちらりと綾乃を見る。ペットボトルを眺めていた綾乃はその視線で退治屋に目を向けた。彼はそうだなぁと呟きながら、背もたれに体を預ける。


「まぁ真実かどうかはともかく、妖を退治するために鬼が人に力を分け与えることがあるらしいね」

「鬼? 昔話に出てくる鬼ですか?」

「それとはちょっと違うかな……神に近いってところ。まぁぶっちゃけ、神も鬼も同じものさ。人に害があれば鬼でその逆が神。同じ力を持っていても違いはそこでしょ、人の判断なんて。そもそも妖を退治していた鬼を見て人は自分達の住処を荒らす奴らがいるって思った。人知を超えた力を使う彼らを“鬼”と呼んだんだろう。まぁ僕の想像」


 そこまで一気に話すと、退治屋はドク×を飲む。割と減っていた。


「じゃあどうして鬼は退治を辞めちゃったんですか」

「辞めたっていうより……時代の移り変わりでできなくなったんじゃないかなぁと思う。あとは力が弱ってるとかね。そこらへんは不明。ただ、その代わりに人に自らの力を与え、妖退治をさせるらしい」

「そんなことができるんですか……でも、その力を与えられた人は大丈夫なんですか? だって神様の力と同じなんでしょう?」

「本人に聞いてみる? どこか不便なところがあるかい、綾乃ちゃん」

「いいえ、特には」


 首を振る綾乃を見て、朝子は安心したような表情をする。


「そもそも妖っていうのはね、無念を引きずる人や物の思いが形をとって現世に留まっている状態なんだ。悪い奴らばかりじゃない。でも彼らのためには浄化が必要なんだ。霊と似て非なる存在さ」

「除霊とも、違うんですね?」

「同じだよ、基本的に。見分けは難しいけど。僕は妖は見えるけど幽霊なんて見えないし。あ、ちなみに妖にもレベルがあって、ロモモは個体数は多いけど殴るだけで消える下位な妖。今日対峙した人にも化けられるのがスボルノ、巨体で力も強いガナベはかなり希少種だよ。どうやら人の言葉も操れるらしいね」

「わかんないです……」


 机に突っ伏しダウンした朝子を夕香が優しく頭を撫でる。


「わからなくて当然。私もよくわからないもの。でも倒すべき相手なのは変わらないわ」


 「ね」と同意を求めてきたので綾乃は頷き、ペットボトルの中身を少し口に含む。独特の香料が広がり、むせそうになるのをこらえた。

「ただ、妖の方が人より先に生まれたって説もあるけどね」

「どういうことなんですか? だって妖は思いの塊じゃ……」

「うん、一説ではね。ただ、それほどの力を持つにはそれなりに土台やエネルギーの源が必要なはずなんだ。つまり、妖は昔から住んでいて、言い方は悪いけど劣化していったんじゃないかな。一種の退廃だね」

「あら、人間も同じ末路を辿るかもしれないってわけね」


 やけに愉快そうに夕香が退治屋の隣に座った。それに退治屋は溜息だけで応じ、続きを話しだす。


「生まれ変わりを信じるかい? 生まれ変わりとは言わずとも、魂は輪廻するんだ。それなのに還らない魂があればいつしか現世は妖で溢れ返り純粋な生き物はいなくなるだろう。理を乱さない為に僕らは妖と戦い彼らを還さなければならない。弱れば自然に還っていくしね」

「別にそれはそれでいいと思うけど?つまりその神様が世界の管理を怠ったってわけだものねぇ。悪いのはか・み・さ・ま。私達はなーんにも心配しなくていい!」


 ソファの背もたれに寄りかかり万歳をした夕香の片手からドクぺがこぼれる。朝子が「あっ」と叫び、退治屋は溜息を吐く。


「なぁ、酔ってるのか?」

「宗谷さん……夕香さん、いつお酒飲んだんでしょう? 流しにチューハイの缶が……」

「飲めないくせに飲んだのか……」


 その後眠ってしまった夕香に朝子が毛布をかけ、後片付けをしながら夕香はお酒とタバコが大嫌いで、でもごく稀に度数の低いお酒を飲んで酔っ払ってしまうことを説明してくれた。


「ところで、アビツグリの他に隠してる能力があったりするのかな、綾乃ちゃん」

 ポケットから青い携帯を取り出し、操作しながら退治屋が尋ねてきた。

「シノツグリと……シリンツグリです」

「それだけ?」

「それだけです」


 携帯を耳に当てながら、視線だけをこちらに向け疑うように退治屋は綾乃を見る。負けじと綾乃も見つめ返すが、よほどこわかったのか朝子が口を挟む。


「そ、宗谷さん……夕香さんのお宅につながりました?」

「うーん…だめかなこれは。留守電にいれとこう」


 慣れているらしく退治屋は留守電に吹きこんでいるようだった。


「どうぞ」


 朝子が微笑んでカップを机に置く。透き通るような赤茶。ほのかに湯気が漂う。


「紅茶です。お口直しに」


 ぺこりと頭を下げると、「朝子ちゃん、僕コーヒー」と叫ぶ退治屋の声が届く。

 「はーい」と元気の良い返事をし、コーヒーを淹れに台所へ戻る。


「なぜ……あれがアビツグリだとわかったのですか」

「え? だって一瞬で倒しただろ? それもスボルノを。能力者じゃなきゃまず無理だし、もし能力者ならアビツグリが妥当かなと思っただけさ。まさか他にも能力持ってるとは思わなかったけどね」

「そう、ですか」

「どのような能力なんですか?」


 コーヒーの香ばしいかおりと共に朝子が現れ、そっとカップを退治屋の前に置く。そして綾乃の隣に座り可愛らしい小花の散る湯呑みを目の前に置いた。中身は緑茶だった。


「んー……なんていうかなぁ、いわゆる打撃系統の技ではあるんだけど、実際に手足が出るんじゃなくて、思念のようなものを相手にぶつけるってかんじかなぁ。エネルギー波っていったほうがわかる? だから連続的に多方向で繰り出すことができるね。ただ、かなり力は消耗するし妖の種類によってはそういうの、防御できる奴もいるから完璧ではないかな」

「エネルギー波をぶつけて倒すんですね! ただ、効かない妖がいるしリスクを伴う」

「そうそう。で、シノツグリはシノツツグリともいわれていて一突きで相手にダメージを与えることができるんだけど、これも体力消耗が激しいんだ。アビツグリよりもね」

「どちらにしても、代償があるということですね……」

「うん、聡いね朝子ちゃんは。そしてシリンツグリというのは爪や髪などが針状に尖るらしい。頑丈だけど固い妖もいるからどうなんだろうね。効かない奴っていた? 綾乃ちゃん」


 テンポ良く二人が話していたのでいきなり話を振られて一瞬理解できなかった綾乃は、飲んでいた紅茶で少しむせながら思い出す。無理に掘り返さなくてもすぐに引き出せる。


「はい、いました」

「どうやって倒したの?」


 綾乃は一瞬顔を強張らせたが、懐からひとつのお札を取り出す。日本語とは違う、不可思議な文字が書かれている。


「お札?」

「これは……その通りお札だよ。それも渾身の力を込めて作り上げる。たいていの妖には効くはずさ。そうか、この札が効いてる間ならどんな技でも倒せるか……なぜ君がこれを?」

「祖父から護身用にといくつかいただきました」

「そうか……鳴海家はそっちだったか……なるほど」


 一人うんうんと頷く退治屋を不思議そうな目で見つめながら、朝子は湯呑みを片づけに台所へ行き、帰ってくると鞄を肩にかけた。


「それじゃあ私、帰りますね」

「今日はもう遅いから送ってくよ。綾乃ちゃんも」

「はい」

「でも夕香さんが…」

「あいつなら大丈夫。酔っ払っても危険察知能力は高いから」

「前にもあったんですか?」

「いや、実験しただけさ」

「それ以上は大人の事情だから」と眉間に指を当て質問を拒絶された。




妖は強くなるにつれ存在する数も少なくなります。


ロモモ:弱いが数は多い。集団で行動することはなく、ロモモ同士で争うことも。ただし自分より強い妖にはたてつかない。


スボルノ:ロモモより数は少ないが変化の特異な種類で、妖によって特性がある。


ガナベ:大型の妖で通常はおとなしく縄張りに生息している。何かしらかの理由で怒らせると襲ってくる。個体数はかなり少なく、確認されているのは三体。



*能力*

①アビツグリ(阿鼻継ぐり)

→瞬間的に相手に打撃技を繰り返す目に見えない思念力。(効かない妖もいる)


②シノツツグリ/シノツグリ(篠突継ぐり)

→一突きで相手にかなりのダメージを与える力(体力消耗が激しい)


③シリンツグリ(刺針継ぐり)

→爪・髪・歯・骨などが針状になる力(使った歯や骨などは復活しない)



後でまとめておきます。


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