表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八鬼  作者: 城谷結季
1/13

退治屋

ブログからの転載ですが、よろしくお願いします!

 ゆらゆらとのぼる一筋の白煙。煙草を吹かす男は三十代前半頃。

 短髪の頭をぼりぼり掻きながらフケを撒き散らし、机と向かい合って苦悶の表情を浮かべている。

 背後の窓から射し込む日射しはほとんどなく、それは向かいの高層ビルで遮られていた。だから机の上の明かりはいつも灯されていた。

 対して金茶の長髪を緩やかに垂らした赤いスカートの女は、男の方へ小型の扇風機をこれ見よがしに向けて苦い表情。開け放した窓に腰をのせ、組んだ足が滑らかに光っている。

 彼女自慢の髪が爽やかな風で波打った。


「何度言ったらわかるのよ。煙草はやめろって、散々言ってきたでしょ。吸うんだったらどっかに消えてこのカス」


 柔らかそうで整った唇から発せられた声は怒りをにじませた低音。それでも男は鬱陶しげに目を合わせただけで、また机と対峙する。


「全世界の喫煙者に君は同じことがいえるのかい? なぜ煙草を吸うのか、それはこのストレス社会の賜物だろう? 君だって、ストレスがたまれば発散するだろ? それがたまたま僕は煙草だっただけ。そして君が来たとき僕はたまたま煙草を吸っていた。もう一度聞こう、君は先程の言葉を世界中の喫煙者に対して言えるのかな?」

「あーいえばこーいう!その屁理屈ほんとどうにかしてよね!」

「これが僕の性格なんでね。長年のスタイルはそう簡単に変えられないよ」

「じゃあそのぺらぺらよく喋る口、塞いであげるわ!」

「これだから女は……自分のことを棚に上げて人ばっかり気にする。高血圧になるよ」

「あんたのせいじゃないの!」

「ここは僕の部屋だから僕がどう使おうと別に勝手だろ?嫌なら君が出て行くべきじゃないのかい」


 してやったり、にやりと笑い顔を上げた男を見て、女はぐっと拳を押さえた。

 数秒後、派手な打音が響いた。


「いったいなぁ」


 のらくらと起きあがった男は、机のあった場所から一メールほど先の壁にもたれかかっていた。頬にはくっきりと拳の跡が残っており、すりすりと擦っていた。かけていた眼鏡は顎までずれ下がっている。


「とっさに袋技使わなきゃ病院送りだったよ」

「送れなくて残念だわ」


 ふんと鼻を鳴らし振り返って髪を翻した女は、ドア前に立つ女性にあっと声を上げた。そしてひきつった笑みを見せながら「今の見た?」と問う。

 女性は無表情で、でも少し腰を引かせながら「はい」と答えたのだった。




「さてさて、みっともないところを見せてしまって悪かったね。えーと……名前は?」


 男は再び机を前に座ると、目の前のソファに腰掛けるよう女性に促し、話を始めた。

 その傍でぱたぱたと動き回るもう一人の少女は、二人の喧嘩らしきことが終わって少し後に来た。

 どうやら二人とは知り合いらしく、お茶を入れたり傷の手当をしたり大変そうだった。中学生くらいであまり見かけない制服を着ていた。


「もう大丈夫だよ、朝子ともこちゃん」

「何言ってるんですー! こんなに腫れてるじゃないですかー。しばらくこうやっててくださいねっ」


 朝子という少女は氷水を入れた袋をタオルで巻き、男の頬に押し当てた。一瞬叫んだものの男もおとなしくそれを持つ。それに女は呆れたとでもいうように首を横に振った。


「それで、お名前は何ていうのかしら、お嬢さん」


 男の机に腰掛け足を組んだ格好の女は、興味が無さそうに男の後方の窓を見やっている。


鳴海綾乃なるみあやのといいます。突然お邪魔して申し訳ありません」


 女子大生くらいのショートカットの女性――綾乃は、顔を俯き加減にしながら定例文を述べる。


「ここに退治屋があると」

「誰から聞いたの?」

「張り紙がありましたけど」


 綾乃の言葉に女は「はい?」と間抜けな反応を示してしまい、慌てて咳払いしながら男の方をじろりと睨む。

 男は男で、冷や汗を流しながら笑顔で頭をぼりぼろと掻く。ふけが飛び散りそうな勢いだった。


「そうだったそうだった。え、じゃあもしかして一緒に妖を退治してくれるのかなぁ?」

「はい」


 綾乃の義務的な簡潔即答に女は溜息を吐き、目の前にある机にどんと両手をついて綾乃をじっと見つめた。引けずに綾乃も女の目を見る。美しい翡翠の瞳は吸いこまれそうだった。


「生半可な気持ちならお断りよ。死なれても後片付けに困るし。もちろん、妖のことは知ってるんでしょうね?」

「過去に何度か遭遇してきました」

「経験者?」

「幾度か」

「技は?」

「打撃系と殺傷系」

「誰から?」

「独学ですが」

「レベルは?」

「ロモモ七体、スボルノ四体、ガナベ一体」

「一人で?」

「ガナベのときはもう一人と」

「何歳」

「十九です」

「大学生?」

「いえ」

「紅茶とドク×どちらがお好き?」

「水です」

「だってよ、宗谷そうや


 打っては返すような綾乃と女性の会話に、頷きながら宗谷は腕を組んだ。


「まぁ何はともあれ、まずは実力を見せてもらわなきゃだね。よし、退治に行くか」


 宗谷は朝子に氷水の袋を預け、肩をこきこきと鳴らす。大きく伸びをすると顔だけ綾乃に向け笑った。


「僕は宗谷直そうやなお。この退治屋の主」

「私は夕香ゆうか。私も妖を退治してるの」

「あ、あたしは浪花朝子なにわともこといいますー。“朝”に子供の“子”と書きますが、“ともこ”ですからねっ! 私は退治屋さんのお世話をさせていただいております」

「ほとんど宗谷の世話ばっかだけどねー」


 一人一人の名前を呟きながら頭に叩き込む。

 これが鳴海綾乃と退治屋に属する者達との、最初の出会いだった。




 夕時の空に浮かぶ雲は仄かな茜色。ゆっくりと漂う様はまるで自分のようだと思うが、今の状況は少し違うかなと否定した。

 文字通り引きずられるようにして辿り着いたのは、寂れた商店街だった。

 今でも数店舗が営業しているようだが、閑散としていて見る影もない。まだ母もいた頃、この商店街にある映画館によく通っていた。それはまだ父が自分たちを見ていてくれたときの話。あのときの面影はここにはない。それは綾乃自身も同じだった。

 時と共に移りゆく景色に重ねた心情は、どことなく心許ないままゆらゆら揺れる。やることはひとつ、「妖を倒す」だけなのに揺さぶられる。


「ここは前から目をつけていてね、最近見かけるようになったんだ。ロモモだけどね」

「一体?」

「それが不思議なことに六体さ。集団行動が嫌いで殺し合う奴らに何があったんだろうね」


 話しながら夕香が白い紙のようなものに息を吹きかけると、紙はひらひらと舞って商店街へ消えていった。


「どっちにしろ良いことじゃないわよ。さ、行くわよ。準備はいい? 綾乃ちゃん」

「問題ありません」


 目の前のことに集中しようと顎を引いた時だった。

 右端の隅に気になるものを見かけた気がして振り向けば、走り去っていく“何か”がいた。


「見たかい? 目が良いね、間違いないよ。僕も見た……行くよ」


 退治屋の低い合図に夕香と頷き、駆け出した。




ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ