表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

二十章■色を与える者

 閉じた瞼から急速に光りが失われていく。ボクが再び目を開いた時、そこはあの闇の中だった。

「シュナ……」

 ボクは無性に小さな友人に会いたくなった。呼んでも聞こえるはずもないけど、ボクは呼ばずにはいられなかった。

「シュナ――――!!」

 目を閉じたまま叫ぶ。喉を枯らして叫ぶ。

 本当は後悔していたんだ。祖父に「夢を追いかけるよ」と言えなかったことを。

 涙で瞼が熱い。零れ落ちる雫が顔を濡らしていく。

 なぜだろう……誰にも言えなかった後悔の心。シュナになら、ヨドウさんになら言える気がした。会ったばかりだと言うのに。

 今、置かれている現状を忘れてしまうくらい、夢中でふたりの名を叫んでいた。頭のなかで繰り返えされる記憶、この世界に来た時からの出来事すべて。

 瞼が柔らかな光りを透過した。

 シュナの放つあの暖かな光を――。


 ゆっくりと目を開けた。

 立っているのか、落ちているのか――それさえも分からなかった自分の存在。両の足がしっかりと地面を掴み、力強く立っていることに、ボクはようやく気が付いた。

 淡い光が灯る。シュナの放つ光……痛くて凝視することができなかった。光の中にあるはずの小さな体。なかなか見えて来ない。ボクはもう一度目を閉じた。

「チチッ」

 鳴き声とともに、足先に感じるわずかな重み。そして、服を通してさえ伝わる暖かな体温。肩にちょこんと座ったシュナをそっと手の平に乗せた。

「シュナ……」

 見えた。白と茶の淡いコントラスト。体全体から光を放っている以外に何も変わらない小さな友人。ボクは手の平でそっと抱きしめた。

「君が忘れていたものが、分かったかい?」

「ヨドウさん!!」

 振り向くと、胡麻塩頭とサンダル。あの柔和な笑顔を浮かべている氏の姿だった。


 ほんの短い時間だったのかもしれない。夢を見ていたのかもしれない。現実だったのかもしれない。様々な可能性の音。ボクは自分が涙をまだ流していることに気づいた。帽子を脱ぐ。落下してもなお、頭に乗っていたのかと思うと可笑しくもあった。

 再び出会えたことへの安堵と、忘れていたモノへの謝罪。すべての要素を含み、胸の中へと帰ってくる。

「分かったと思いたいです」

「そう……か」

 より一層柔らかい表情になって、氏が頷いた。

 シュナがそっとボクのポケットに入ってくる。今まで住んでいた町。時間軸。そして、この世界で出会い、共に進んできた友人。どちらが本物だというのだろうか。

 ずっと胸の中に仕舞っていた疑問。ボクは零れ落ちる涙と一緒に、ようやく言葉にした。

「ヨドウさん……あなたは何者、なんですか…」

 ボクの声に、氏はゆっくりと天井を見上げた。吸い込まれそうなほど真っ暗な闇。氏の唇が動いた。


「私はヨドウ――夜を導き、道を与える者」


 柔和な表情は変わらず、シュナの放つ光に揺れている。ボクは知っていたんだろうか……。

 彼がどんな人物であるか。

「私は君を連れて行かねばならない」

「……どこへ…?」

 夜を導くヨドウ。道を与えるヨドウ。彼の名は彼自身の名前ではなく、役目としての名前だったというのだろうか。ヨドウ――の名が示す本当の意味を知りたいと思った。

「まぁ、そんなに緊張しなさんな」

 口の端でニヤリと笑うと、勢いよくボクの背中を叩く。

「ヨ、ヨドウさん!」

「私は、私。ずっと一緒にいた、ただの中年に過ぎんよ」

 顎で方向を指し示すと、氏はゆっくりと歩き始めた。暗闇の更に奥へと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ