見えない影を自転車で追って
学校帰り、少しぼーっとしながら自転車置き場に行こうとしたら
見覚えのある顔がそこから出てくるのが見えた。
はっとして、急いで自転車を取りに行く。
少しおなかがすいていたのも忘れて、小走りで自転車を探した。
いつもなら何も思わないような、自分の自転車を見つけるまでのほんのわずかな時間が
今は、とても惜しかったから。
鍵を外して自転車に飛び乗って、もうとっくに走り去ったあの顔を追いかけた。
はっきりとは見えなかったけど、きっとあれは“君”だったって、そう思って。
走りながら考える。
『君とは途中から帰り道が違うから、多分もう追い付けない』
でも、こうも思う。
『君とは途中まで帰り道が同じだから、だから、きっとどこかで追い付ける』
どっちを信じたいかなんて意識するまでもない。
君に会えるって信じたくて、本当に君なのかもわからない影を、君だって決めつけて
途中まで同じ帰り道を、ひたすら全力で走った。
でも、結局君には会えなくて。
じゃああれは君じゃなかった? そんなことない。
君はもう行ってしまっていたけれど、あそこにいたのは確かに君だった。そう思う。
だって、そっちの方が、多分幸せだから。
今日は君の顔が見られたから、明日は……、
……ちゃんと会って、話ができたらいいな。
皆さん読んでいただいてありがとうございます。藤桐と申します。
特別後書に書くようなことはありませんが、ポイントとか感想とかいただけると非常に喜びます。