理容店の赤・青・白のクルクルは動脈・静脈・包帯を表してるって知ってた?
過去、理容技術は医療行為と分類された為、それを一目で分かる様にあのクルクルが作られた。実際に人に刃物を向ける理容・美容・医療は国家資格とされる。
[Act.0-プロゴレス-]
魔女。
カバラの数秘術主義の元に生まれたネオ・プラトニズムの結晶である崇高な存在。広義では黒魔術を扱う女の魔術師を指す事が多いが、狭義では魔術師が扱う魔術と、魔女が扱う魔女術というのは厳密な意味を以て違う。
魔女と魔術師が同一視される様になったのは、一四世紀後半。イギリス十字教の誇る異端審問の狩りの対象が、魔女に矛先を向けた、俗に言う魔女狩りが行われてからだ。異端審問官は異教徒のみならず、魔術師や魔女をも殲滅の対象とした為に生まれた、一種の殺しの文化が混同させて同一視される様になった。
話は変わるが、現代では魔女そのものの固着したイメージは取り払われようとしている。システムに準えられた魔術ではなく、自然すらも超越した『魔法』を扱う存在と昇華した、魔女。
即ち、情報世界により生み出された最先端の戦略物資により、従来のイメージを払拭した『魔女っ娘モノ』アニメーション。魔法のステッキを振るう事で自然すら操る、それは果たして、どれ程世界を超越した存在であろうか――。
というお馬鹿な妄想の元、ちょっと考えてみた。
[Act.1-通学路-]
「ち、遅刻遅刻〜!」
食パンを口にくわえ、インラインブレードを滑らせて朝の通学路を走る少女が一人。右のサイドで束ねた茶色の髪を風になびかせる様は、まるで風の様に軽快な印象を与える。
――私の名前は癸 千鳥。学校での成績はクラスでも上の中で、得意科目は古典と日本史ですが、それ以外はごく普通の女子高校生!現在ただいま登校時間がやや遅れて遅刻寸前で学校に向かってダッシュダッシュでちょいピンチ気味。
「って、あたかも私が喋っているかの様なこの独白文章は何ですか!?あまりにもキャラが違いすぎて気持ち悪いですよ!」
叫びながら、チドリはインラインブレードをアスファルトで鳴らしながら曲がり角のポールを掴み、決して力に逆らう事なくクルリと踊る様に曲がる。坂道なのでスピードは出ているが、通い慣れた通学路で事故に遭う事はない。
(……何やら釈然としませんが……まぁ、今はとにかく遅刻しない事を考えねば)
最後の角を曲がると、見えてくる校舎。レンガ調のレトロなミッションスクールはいつも通り見慣れたものだ。
何か世界観が丸ごと切り取られた様に違う気がする、とチドリはどこかに違和感を抱きつつ、その違和感が果たして何なのかは分からない。何故なら『この世界は何もおかしくないのでそこに違和感がある筈がない』のだ。
校門をくぐり、ジャカッとブレーキ音を荒げて立ち止まるチドリ。どうやら急ぎすぎたせいで、逆に時間の余裕を持って仕舞ったようだ。
レンガ調のレトロな趣の、大きな校舎。そこから汲み取れる事はようするに、俗に言う十字教のミッションスクールというものだ。
(こういう話でいつも思うのですが……果たして旧教か新教かハッキリして欲しいですよね。他にも分岐宗派はアリウス派、アタナシウス派、ネストリウス派、マラバル派、ヤーコプ派、ペンテコステ派、リベラル派、カリスマ派、ジェズイット派、ユニテリオン派……それこそ星の様に数え切れない程ありますが、ハッキリして欲しいものですね。まぁグノーシス派という事はないでしょうが。あれは十字教ではなくユダヤ主義ですし)
何故に、ただの女子高生であるチドリがそんな事を知っているのかは甚だ疑問だが、とりあえずその辺の諸々の事情はスルーしておく。というか何か描写するのがスゲェめんどい。……今更そんな事とか言った奴、表出ろや。
学校はインラインブレードなどでの登校は禁止なので、教師連中に見つからないうちに雑木林に入り込み、そこに存在する古びた十字架のかかった大きな建物……大聖堂の影でインラインブレードを脱いで、鞄に入れていた靴に履き替える。
「これでよし、と」
「ふふン。なぁにがこれでよしなのかしラ?」
突然の声に、チドリはギクリと肩を竦めた。ギギギと錆び付いた機械の様な音を立てながら、首だけで振り返ると、そこにはシスターがいた。実妹ではない。修道女である。
ざんばらに切られた短い金の髪は、しかし右の前髪のみが青く染められている。顔の輪郭や一七〇半ばはありそうな長身、そして何より鮮やかなライトブルーの双眸から分かる通り、日本人ではない。
「あぁ、びっくりしました。レミーナでしたか」
「うン、正解。でもまァ一応私は『ここ』では先生なんだかラ、せめてさんくらいは付けなさイ?」
「……何やら『ここ』という表現に含みがありますね」
「気のせいなんじゃなぁイ?くふフ、まぁインラインブレードについては黙っててあげるわヨ。ホラ、早く行かないと遅刻になるんじゃないかしラ?私は先生なんだかラ、遅刻者を出す訳にはいかないのヨ」
シスターの格好をしたレミーナは、シスターらしくない態度で手を叩きながらチドリを急かした。釈然としない何かを感じながらも、チドリは教会に背を向けて歩き出す。
が、ふと立ち止まり、レミーナに振り返って一言。
「ちなみに。貴方の出番はもうないそうですよ?」
「……本気デ?」
「えぇ。それではさようなら。あらゆる意味で」
「ちょッ、待って待って待ったお嬢ちゃン!?やっぱりもう少しお話しなイ!?セ、せめて最後くらいはイイ感じのキャラで終わりたイ!」
助けを求める避難民の様に手を差し伸べるレミーナだが、チドリはどこか冷めた目つきで一瞥し、ハン、と鼻を鳴らしてニヤリと笑う。
やがて予鈴が鳴り、「遅刻するといけませんので」と無碍に告げ、チドリは早足で去っていく。
「お慈悲をォォォおおオ!」
後ろから何か悲痛な叫び声が聞こえてきた気がしたがチドリの知った事ではないので気にせず全力でダッシュダッシュ。繰り返しお伝えしますが気にしません。金輪際レミーナの出番はありませんので悪しからず。
[Act.2-教室-]
「『It's near impossibility to reject chase of a red shell.』。にゃはは〜。それじゃ、この一文を誰かに読んでもらおっかなぁ?」
茶色のセミロングの髪を揺らしながら、英語教師である水鳥シズカは教科書を読み上げる。どう見ても二十歳前の筈なのだが何で教師役なの、とは誰もツッコまない。
「う〜ん、誰も分からないのかな〜?よしそれじゃ、チドリちゃんいってみようか〜。にゃは、はいスタンダッ」
「何故にそんなピンポイントで!?」
「うっさいなぁ。次のテストで五点減点されたくなきゃさっさと立ち上がって読みなさい」
「Are you RIFUJIN!?」
有無を言わさない強制力という教師の特権に負けたチドリは、渋々と立ち上がる。
「……It's near impossibility to reject chase of a red shell.」
「はい座ってよし」
「何故……貴女がそこで冷めるんですか!?」
「……にゃは〜ん。んじゃここの訳を、カナタくんにお願いしようかなぁ?」
どきーん!
マンガみたいなデカい文字がチドリの頭の上に現れる。離れた席に座る、呼ばれた少年・時津カナタは眠たそうに目を擦りつつ立ち上がり、寝癖の様にボサボサの黒髪をいじりながら、教科書に目をやる。チドリはその一連の動作を見つめていた。
「あ〜……(今、どこ読んでたの?)」
欠伸を神殺s……もとい噛み殺しながら、カナタは隣に座る金髪少女に訊ねる。小声で聞いているが、クラス中に聞こえている為にあちこちからクスクスと笑い声があがる。本人は気にした様子はないが。
(……シズカぁ!)
チドリは眼帯をつけた隻眼でシズカを睨み付けるが、シズカは不敵な笑みを浮かべている。やはりワザとか!とチドリは叫びだしたい気持ちを抑えつつ、再びカナタに向き直る。
「(え、えと、ささ三五ページの……こ、ここです。ィい、It's near impossibility〜ってトコですよ)」
ウェーブのかかった長い金髪、しかし前髪だけは額をさらけ出す様に短く切った留学生の少女・ルネィス=マクスレツィアは、カナタに身体を寄せながら教科書を指さしている。我知らずムッと表情をしかめるチドリと、そんなチドリを見てシズカは何やら笑いを堪えている。
「あ〜……えっと、『赤い甲羅を振り切る事はほぼ不可能に近い』かな」
「はい良く出来ました〜、座っていいよん。にゃはっ、それじゃ次は『It's possible to shake a purple shell with a prickle off by a drift. But, it's quite difficult.』。ここの訳はルネィスよろしく〜」
「ぇ、えっとぉ……と、『トゲの付いた紫の甲羅はドリフトで振り切る事が出来る。しかし、かなり難しいだろう』……な、何なんでしょうこの訳は?」
ルネィスは眉をひそめ、『日本語って奥が深いですね……』とかなんとか呟きながら着席した。カナタは再び死んだ様に机に突っ伏して眠り、チドリはシズカの授業を真面目にノートに書き写していた。
何というか、違和感だらけの一日ではある気がするが、そんな事を考えるのが億劫になる程、快晴の空は澄み切った様に青かった。
[Act.3ー魔法ー]
物語の途中ですが、ここで業務連絡をお伝えします。
昼休みのカナ×チドによるドキドキお弁当イベント(CG回収ポイント)や放課後のチドVSルネによるカナタ総取り下校バトルイベント(CG回収ポイント)は、文字数の都合でカットされます。物語はチドリが『いつもの』公園を通過しようとしている場面から始まります。
これにて業務連絡を終わります。
「何なんでしょうか、この時間を超越した気分は……」
理不尽で異次元的な展開についていけないチドリは、眉間を摘みながらインラインブレードで走っていた。何というか、ニュアンス的には初めて満員電車に乗って疲弊したサラリーマンの様だ。
チドリは通い慣れた『いつもの』公園を、インラインブレードでゆっくりと走りながら帰路についている。流れる景色を眺めつつ、頬をなでる風に目を細めつつ髪を押さえる姿は、まさに美少女さながらだ。
が、もう少し描写したいのは山々なのだがページ数の問題により不意に強烈な風が吹き荒れまるで大型動物の様に猛々しい慟哭が耳をつんざいたって事にして頂きたい。
「な、(色んな意味で)何なんですかコレは!?」
ヴぉぉォォゴゴゴゴゴゴ!!
地獄の底から猛る雄叫びという表現がまさに当てはまる慟哭が今一度、空気を裂いて轟く。同時に辺りの雑木林から鳥の群が飛び出し、住処にしていたのだろう野良猫や野良犬も一斉に逃げていく。
大震災前の動物の奇行、というイメージがチドリの脳裏を掠めた瞬間、目の前に<それ>が現れた。
まず初めに目がいったのは、鷹や鷲の様に大きな嘴に鶏冠にも似た灼熱色の鬣。虎やライオンを彷彿とさせる雄々しい身体は黄金の羽毛に覆われ、片方二メートル、開けば四メートル強はあろう幅広い翼と、蛇の頭の尾をデロリと垂らした四本の鳥の足を持つ、絵本からそっくりそのまま出てきた様な化け物。
ギョロリと鳥の様な鋭い眼光と視線が絡み合う前に、チドリは思わず目を逸らした。その姿を直視してはいけない気がしたからだ。そしてその判断は、何よりも正しい。
地域や地方によっては名を変えて伝承されている、『小さき王』。バジリスクとはギリシア語で、イタリア語ではコッカトライスとも言う。アルゼンチンの作家ホルス著作の『幻獣辞典』によれば大きさは僅か一フィート(三〇センチ)程度だと言う話だが、これは三メートルは優に越えてそうだ。
『小さき王』は再び嘶き、チドリに狙いを定める。大きな両翼を広げ、一気に駆け出すと同時にチドリは弾かれた様に一目散にインラインブレードを蹴りあげて逃げ出した。
(ころ、殺され!駄目っ、『喰われる』!)
恐怖が全身を支配し、足に力が入らない。普段なら簡単にとれるバランス感覚さえも麻痺したのか、グラリと身体が傾き、地面を転がった。ローラーで一気に加速した運動エネルギーをそっくりそのまま、地面剥き出しの遊歩道に激突したせいで、全身に鋭い痛み(ダメージ)が襲いかかる。とてもじゃないが動けない。
倒れ伏せたまま、不意に気付く。今、自分に何か大きな『影』が差している事に。ここは屋外だし遊歩道で、太陽の光が木々に遮られる筈がない。空と自分との間に遮蔽物は何もない筈だ。
では、果たして。
自分だけを覆い隠す様なこの『影』は、一体何なのか。
グォォゴゲゲゲゲゲゲェェェ!!
上空から『影』となった何者かが飛来し、自らの死を覚悟した瞬間――、
「ちョッと待ッたァァァああア!」
横合いから、一閃。ズゴギンという鈍い音を響かせ、衝撃を受けた『小さき王』が吹き飛ばされる。
「コイツ喰ッたら話が終わるッつゥの分かッてんのかこの化け鶏テメェだよテメェ聞いてンのかブッ殺すぞ」
……という、シリアスを根底からブチ壊す様なブッ飛んだ喋りが頭上から聞こえ、チドリは声の方に見上げてみた。
そこには、真っ黒な服を着た、肩まで掛かる長い銀髪の、
何か、一五センチぐらいの人形みたいなのが中空に浮かんでいた。
「あ……アレ?小っさ、小っさァァァああア!」
チドリの、あまりの驚愕にキャラが崩れた様な叫び声に、人形みたいなそれは声を荒げた。
「だ、誰が小ッさいだ俺だッて好きで小ッせェ訳じャねェンだよイヤだッたさこンな役だからこの件に触れンなテメェから先にブッ殺してやろォかァア!?」
本人は本気で凄んでいるつもりだろうが、その姿からではどんな迫力も生み出されない。銀の髪をかきむしりながら絶叫する姿さえも、可愛らしく映る。
「……ッと、そンな事ァどォだッてイインだよ。それよかテメェ、名前は何つゥンだァ?」
「あからさまに話を逸らしましたね。……チドリです。癸チドリ」
「チドリ、ね。俺はランスロット。好きに呼ンで構わねェが、第一希望はランス。ンで――」
ランスは小さな指をビッと『小さき王』に向け、
「お前には今から、あの『小さき王』を封印してもらう。拒否権はナシ、質問は受け付けねェ」
「えっ、ちょっ、」
「契約の儀を取り仕切りしは白銀の鬼神ランスロット。契約の儀を承り頂きしは癸チドリ。ここに約を結びて主従を刻む。……ッたく堅ッ苦しいなだから契約の儀は嫌いなンだよ」
詳細説明を求めて差し伸べたチドリの手に、ランスは軽くタッチする。瞬間、触れた部分を中心に辺り一面が目映く輝き、チドリは反対の手で目を覆いながら、『何か』を掴んだ。
やがて光が収まり、何かを掴んだ手を開いてみると、そこには見知らぬ七角形の紫水晶があった。
「……すいません。相当、とてつもなく、壮大に、凄まじく、良心的に解釈しても、どうしても嫌な予感しかしないのですが?」
「オメデトウ。これでお前ェは今を以て魔女になッた訳だ。鬼神と契約を交わしてな」
「オイ」
スパシィン!とチドリは、蠅を叩く様な勢いでランスを叩き落とした。何というか、加減した様子はどこにもない感じで。
「な、何しやがンだッつのテメェ!危うく魔女ッ子の使い魔が頚骨損傷で死ぬところだッたじャねェか!」
「何しやがんだはこっちの台詞です!何を勝手に人を魔女にしくさってんですか!しかも貴方、そのブッ飛んだ喋りでマスコット気取りは甚だしすぎますよ!?」
ギャアギャアと、『小さき王』をそっちのけで叫び散らす二人だが、ページ数の事情により省略。先程までのシリアスは欠片もなく消し飛んでいた。
「ハァ、ハァ……。分かりました。了解しました。魔女になる事は百万歩譲って承諾しましょう……」
「ゼェ、ゼェ……。お、おう。そォしてくれッとこッちも助かるッつかこの身体で叫ぶのはかなりツラい……」
「承諾はしました。……が、問題はここで一つ。
……魔女の力を行使する為には、……その、……やはり、」
「ン?あァ、変身してもらわねェとな」
「コラ」
スパシィン!と再び蠅叩き。ランスはスパイクを受けたバレーボールの如き速度で地面に飛来し、ゴゲフゥ!とやたら生々しい悲鳴をあげながらバウンドした。
「だッから、……さッきからテメェは何してくれてンだよ喧嘩売ッてンのか今なら高額買い取りだぞゴルァ!」
「だ、だって!変身ですよ!?変身シーンと言ったら一瞬裸になるアレ的な奴ですよ!?高校生にもなって魔女っ子というだけでも計り知れない精神的負荷があるというのに、その上裸になれと!?」
「そりゃ何だ、アレだ。ようするに、
(´・ω・`) n GJ
⌒`γ´⌒`ヽ( E)
( ★ 人 ★人γ ノ
ミ(こノこノ `´
)にノこ (
あ、ちなみにこのAAはケータイで見た方がくッきり写るぞ?」
「ブッ飛ばすぞコノヤロウ!(泣)」
「あァもう、イイからとッとと変身しろッて『小さき王』の奴が欠伸して待ッてンだからこの際諦めろ!」
「グクッ……分かりましたよ変身すりゃいいんでしょ変身すりゃ!」
半ば自棄気味に叫ぶチドリは、肩を怒らせて雑木林の方にインラインブレードを全力で走らせる。
「オイ、どこ行ッてンだテメェ?」
「変身するんですよ!」
「なッ、お前まさか、雑木林に隠れて着替える訳じャねェだろォな!?」
「決まってるじゃないですか!」
「ちョッ、おまッ、雑木林に隠れて変身する魔女ッ子なンて前代未聞だぞ!?」
「うるさいうるさいうるさい!これが最低限の譲歩です!それが叶わぬのであれば契約を破棄させて頂きますよ!?」
「どこぞの炎髪灼眼の口癖みてェな事を安易に叫ぶな反感買うから絶対ェ!」
やたら追い詰められた感じでチドリは雑木林に入っていき、姿が完全に見えなくなったと同時に目映い閃光が奥から迸り、ツカツカとインラインブレードではなく戦闘靴の足音を鳴らしながら戻ってきた。
フワフワヒラヒラのやたら目に痛い蛍光ピンクの衣装に着替えたチドリは、手にしたピンクの棍棒みたいな杖をじっと見つめる。
「何なんですか、コレは?」
「ン?あァ、魔法の杖だよ。火、風(気体)、水(液体)、土(個体)、エーテル(魂)の五大要素の全ての属性を担う唯一の神聖霊装、『蓮の杖』を複合素材で精密に再現した上に鉄より硬い灰白合金でコーティングした、な。強力な魔法を撃つ事も出来るし、強力な打撃だッて可能だ」
ちなみに、とランスは説明を続ける。
「その服は高機動型電磁骨格だ。着ているだけで通常より遙かに優れた動作が可能になるし、アメリカ陸軍のS2025という試作型戦闘服と同繊維を使ッているから防御力が高い。対NBC(化学・生物・核)防護や対気温気圧防護能力も兼ね備えているから、中性子爆弾でも使わない限りは完全にガード出来る訳だ。尤も、間近で爆弾が爆発したら流石に死ンじまうけどな」
「もう、魔法なのか科学なのかハッキリしやがれコンチキショウって感じですね」
「神さンの趣味なンだろ、放ッとけ。……さて、準備はイイみてェだな。これから俺が、あの『小さき王(クソ野郎)』をブッ飛ばす最高の呪文を教えてやッから、思いッ切り叫びながら力の限り杖を振れ」
『ようやく終わったのかやれやれ長かったぜ』とでも言わんばかりに大きな身体を震わせ、『小さき王』は改めて、ランスに何かを耳打ちされているチドリを見やる。一方のチドリはと言うと、ランスの言う『最高の呪文』を聞いて、ツラそうに眉間を摘んだ。
「えっと……それを、言うのですか?」
「当たり前だろ」
「ハァ……分かりました、もうとっとと終わらせて帰りたいし……」
グッ、と。チドリは短い杖を両手で握り締め、剣道の面打ちの様に頭上に高々と掲げ、
「……行きます」
大きく息を吸い込み、
「ジェェェェェッノッサァァァァァイドッ(何もかも死にさらせ)!」
思い切り叫び、力の限り杖を振るった。
大凡、魔女っ子らしからぬ凶悪に強烈に凶暴に強大に放たれた魔法現象は、『小さき王』のみならず雑木林の一部をも凄まじい勢いで薙ぎ払い、摂氏三〇〇〇という鉄すらも一瞬で溶かす高熱により全てが蒸発していった。
〜fin〜
「っていうかコレ、魔法少女じゃなくて変身ヒロインですよね?(チドリ)」
「まぁ、そんな細かい事を気にすんなよ(ランス)」