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ORDER_X.[プロローグ]

[Fab-10.Fri/23:55]


目映いばかりに輝く宵のネオンに灯され、灰色に染まる空に星灯りは見えない。街を歩いている人々は誰もが、その事について深く考えてはおらず、その女性は誰にも気付かないくらい小さく舌打ちした。

身長は一七〇半ば、金の髪はベリィショートで、前髪の右側だけを青に染めている。服はタートルネックのセーターにデニム生地のスカート、上には上質な毛皮のコートを羽織っている。コート越しでも分かる程にふくよかなボディラインは、まるでモデルの様に整っている。

歩く度に、ジャラジャラと身に着けたシルバーアクセサリーが鳴る。ピアスにネックレス、ブレスレットにリングと、数え切れない程のそれは、合計すれば一キロは優に越えているだろう。

ただ、唯一場違いに映るのは、彼女が背負っているリュックだ。使い古された黒いリュックを右肩にかけている。高価そうな服飾に対し、このリュックだけが明らかに安物である為に、どこか浮いて仕舞っている。

しかし彼女は、そんな事を気にも留めずに人混みを歩み続ける。

(……全ク、この国の人間は星占いとかどうやってんのかしらネ?)

こんな極東の島国にだって、星占いの魔術はある筈だ。それなのに、今や空は濁った様に霞み、星なんかとてもじゃないが見えやしない。

(……それニ、空気も汚いシ。居心地の悪い国だわ本当ニ)

それは、苛々する。

とても、苛々する。

仕事の為とは言え、こんな場所に来る事になった自分の運のなさに落胆する。一刻も早く取引を終わらせて緑豊かな祖国に帰りたい。考える事はそんな事ばかりだ。

(……さテ。そろそろ日付も変わるシ、取引の準備でも始めましょうかネ)

時刻は、日本(こちら)に入国した際に正確にキッチリと合わせた。とは言っても、彼女は隣国の精巧時計(ビッグベン)に合わせた懐中時計と、仕事で他国に行った際に使う腕時計の二つを常に持っている。淑女としての嗜み、と彼女はほくそ笑む。

時刻は二三時五九分四八秒。日付が変わるまで、あと一二秒。

(この国にモ、私を追った敵が派遣されたって話だシ。フフフ、果たして私を捕まえる事は出来るかしラ?)

心中で呟いた瞬間、カチリと、短針も長針も秒針も、全て等しく上を向いた。彼女は空を見上げる。

空は相変わらず灰色に濁り、星なんかとてもじゃないが見えやしない。そんな、つまらない空。変わり映えしない世界。

だが、それでも。

変わり映えしないだけで、確かに世界は新たに切り替わっていた。

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