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「今月の冒険者ジャーナルの記事、どうします?」
街の中心地にある小さな新聞社『アドベンチャータイムズ』の編集部にて、今まさに会議が行われていた。
その内容はアドベンチャータイムズが刊行している冒険者専門の新聞記事についてである。
ここタンレイテンの街に数多く在籍する冒険者に向けた新聞ということもあり、刊行当初は順調に部数を伸ばしていったが、最近では記事内容にマンネリが生じ始め、売上が右肩下がりとなっている。
このままではライバル新聞社との生存競争に敗北しかねない。しかねないが、だからといって適当に記事を乱発したところで焼け石に水だ。
そのため扱うネタには慎重にならざるを得ない。
しかしここいらで一つ賭けに出なければジリ貧になるのもまた事実だった。
「なにか他社に引けを取らないような大きなネタはないものか……」
マンネリ打開策に頭を悩ませる編集長がぼやくと同時、ある若手記者が「それなら」と口を開く。
「ちょっと小耳に挟んだんですけど、なんでも最近冒険者ギルドに新規登録された冒険者集団の一つに爪弾き者同士で組んだのがあるそうです」
大したことのないような口ぶりで話し始めるが、若手記者にとってこれはかなりのネタである。
「爪弾き者、つまり嫌われ者ってことか。うーん、それだけじゃインパクトは薄いな」
「いえ、面白いのはここからですよ」
仕事帰りに酒場へと立ち寄る冒険者を捕まえては財布の紐よりなお固い彼らの口に酒を奢ったりしてなんとか得たネタだ、ここで流されてなるものかと食いつきの悪い編集長に追加情報を提供する。
「その爪弾き者達で構成されたパーティーですが、リーダーの男はつい先日までなんと草むしりの依頼しか請け負っていなかったそうです」
「草むしり? おいおい、よくそんなので冒険者を名乗れるな。――ああなるほど、だから他の冒険者から爪弾きにされてるってわけか。そりゃ彼らにもプライドがあるだろうし、同じ冒険者として一括にされたくないわな」
冒険者が請け負う依頼といえばモンスター退治が一般的だ。もちろんダンジョンの実地調査や要人の護衛のように、単にモンスターを倒せばいいのとは違う、やや変則的な依頼も存在する。
一応どぶさらいやゴミ拾いといったボランティアじみた依頼もあるにはあるが、頼み手からの需要はあれど受け手の需要が少ないのが現状だ。
特に草むしりなんてわざわざ冒険者に頼むまでもない作業内容であるからして、そういった依頼のみを選別して請け負うようでは冒険者としての力量は推して知るべし、……と思うのが普通だろう。
しかし件の男は違った。
「その草むしり冒険者のパーティーは結成して以来モンスター討伐の依頼にも積極的に手を出すようになったらしくて。しかもこれまで達成した討伐依頼の難易度ランクはどれもC以上、いずれも失敗なく完遂しているみたいですね」
「なんだと?」
熟練パーティーともなれば依頼の成功率は九割を超えるとよく言われる。一方で、新米パーティーの依頼失敗率は七割を超えるとも。
そんな急ごしらえの新米パーティーが、果たして首尾よく成功を積み重ねていくなんてことはあるのだろうか。
なにより、気になることが一つ。
「それまでモンスター討伐をしてこなかったような奴がいきなりそんな大躍進を遂げるか? おおかた一緒にパーティーを組んだ仲間が強かっただけとかいうオチじゃないか? あるいは単純にデマだったとか」
「だからそれら噂の真偽も含めて彼らの密着取材をしてみてはどうでしょうか。もし噂通りだとしたらなかなかいい記事になると思うんです。彼らに目をつけ始めた冒険者もぽつぽつといるみたいですし、上手くいけば売上部数も回復するかもしれません」
「ふむ……」
熱心に弁舌を振るわれ、編集長はわさわさと顎に蓄えたヒゲを触りながら思案する。
確かに若手記者が言うように、その冒険者一行の密着記事を書くのも面白いかもしれない。
なにより新人がこうもやる気を見せているのだ、それをむざむざ却下するのも如何なものか。
いずれ賭けに打って出ないといけなかったのだ、ちょうど今が勝負時なのだろう。
『草むしり冒険者と呼ばれた男の逆転劇』、記事の見出しとしてはインパクト抜群。
底辺からの成り上がり体験記は読者ウケもいい。
ついでに独占インタビューもすれば完璧だ。
「もしかするとそのパーティーが我が社の起死回生の一手になるかもしれないな。……よし分かった、密着取材を敢行しよう。内容その他は君に任せる。やってくれるな?」
「はい、ありがとうございます! 必ずいい記事に仕上がるよう精一杯頑張ります!」
こうして、今月の冒険者ジャーナルの特集記事が決まったのだった。