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海純2

「ねぇ、今日も蒼彼の家行っていい?」


私たちの関係は高校生になっても変わっていなかった。小さい頃のように気兼ねなく蒼彼の家に遊びに行ける。私はその時間が好きだったし他のどんな友達と遊ぶよりも蒼彼と遊んでいる時の方が楽しかった。


私は今日も当たり前のように蒼彼の家に遊びに行くものだと思っていた。蒼彼がいつものように快く承諾してくれるものだと思っていた。


「…なぁ」


でも今日はそうじゃなかった。蒼彼はどこか思い詰めたような表情で私の事を見つめてきた。


「何?」


私は蒼彼が何を思っているのか分からなかった。だからそう返すことしか出来なかった。確かに蒼彼が何かを考えているのは明白だったし、それが言い難い事だとは察せた。でもそんな大した話じゃない。そうタカをくくっていた。


「前々からおもってたんだけどさ、その、大丈夫なのか?」


「何が?」


「いや、なんて言うか…」


「なーにー」


私はなかなか煮え切らない蒼彼にその先を話すように促す。


「海純ってさ、モテるだろ」


蒼彼からいきなりそんなことを言われて少し面食らってしまう。


「え?まぁ、うん」


「そんな奴が男の家に行ってるなんて知られたら…都合悪んじゃないのか?」


あぁ、なるほど。つまり蒼彼はモテる私が自分の家に来ているということがバレて私が噂されるかもしれないという事を懸念しているのか。


「えー、なにそれー。私たちただの幼馴染でしょ?そんなの気にしなくて大丈夫だよー」


だから私は蒼彼を安心させるようにそう言った。でもその私の言葉は蒼彼を安心させる言葉ではなかったようだ。


「…俺が海純のことを好きでもか?」


「え?」


少し低くなった蒼彼の声が私にそう告げる。私は意識外からの言葉に直ぐに言葉が出てこなかった。


「な、なにそれー。もー、そんな冗談よしてよー」


私は辛うじてそう言葉を返す。


「…」


でも蒼彼は私から目を離すことが無かった。その目はどこまでも真剣で発した言葉が嘘でないと言うことの真実味を極限まで高めていた。


「え、ほ、本気なの?」


私は再度確認するように蒼彼にそう聞く。もしかしたら私の聞き間違いかもしれない。だって、そうじゃないと…蒼彼が私の前から居なくなってしまう。そんなの…


「冗談でそんなこと言わない」


でも蒼彼はそれが嘘でないと、そう決意を込めて私を見てきた。私の胸に動揺が走る。何を言えばいいか分からない。どんな顔をすればいいか分からない。


「…」


「…」


嫌な沈黙が私たちを支配する。まるでこの世界で2人きりしか居ないような錯覚に陥る。


「…い、いやー、この前も言ったけどさ、私恋愛とかよくわかんないからさー」


長い沈黙の末、私はそう言った。これまで私は告白されたら曲がりなりにもきちんと断ってきた。でも蒼彼だけにはハッキリと断ることが出来なかった。濁して、逃げた。


蒼彼との関係が壊れるのが怖かった。蒼彼との時間が無くなることが嫌だった。だから逃げた。


私は蒼彼の顔を見ていられなくて目を逸らす。


「…そうか。変なこと言って悪かったな」


蒼彼は顔に影を落としながらそう言った。


「ううん、気にしないで?」


今の私にはそう言うことしか出来なかった。


「…」


「…」


また私たちの間に重たい沈黙が流れる。あぁ、私は蒼彼とこんな関係になりたかったわけじゃない。どこまでも気の置けない友人として隣に居たかっただけなのに。


「わ、私、今日は先に帰るね。また明日」


私はどうしてもこの場の雰囲気に耐えきれずそう言って走り出してしまった。


「…あぁ」


蒼彼には元気が無かった。こんなことになるなら誰からも好かれたく無かった。


こんな気分に似合わない最近で一番天気のいい空が恨めしかった。

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