どうしたんだ?
教室の前につき扉を開ける。すると中に居た人達が一斉に俺の方を向く。…な、なんだ?
いつもなら誰が入ってきたか確認すると皆興味を失って目を逸らす。だが今日はいくら待っても誰一人として俺から目を離さない。やっぱり見られてるじゃないか…海純のやつ嘘ついたのか?
俺は心の中で海純に恨み言を言いながらもいつまでも突っ立っている訳にはいかないので自分の席に歩き出す。
「え、あんな人クラスにいた?」
「しらねぇ…誰なんだ?」
俺の事を見ながらヒソヒソと遠巻きに何かを話している。この距離ではその内容までは聞き取れない。悪口じゃなかったらいいな…
そんなことを思いながら自分の席についた。
「…は?」
「え?あ、あの席ってさ…」
「あ、あぁ、あの陰キャの席だよな?」
「変わりすぎでしょ…」
俺は向けられる視線から逃れたくてカバンから本を取り出す。そして栞を挟んでおいた場所を開き文字を読み始める。
この本はなかなか面白い。主人公だけでなく登場する人物全てに心情描写がある。初めは読みにくいと思っていたが慣れれば登場人物が何故その行動をしたのか、何を考えているのかが全て分かるため物語を細部まで理解出来る。
いい本を紹介してもらった。実はこの本は並柳に勧められて読み始めた。並柳が勧めてくれる本はハズレがなく全て楽しく読める。流石は並柳だ。面白くない本は読まないと言うわけか。
そんなことを考えながらも本を読んでいると数人の女子が俺の元にやってきた。
その女子はみんなギャルのような容貌だった。
え、俺今からカツアゲされんの?そんな持ってないんだけど…
「ねぇ、伽誌御君だっけ?」
「え?あ、あぁ、そうだけど…何か用?」
三人のうちリーダー的な女子が俺の名前を確認してきた。
「うちらと連絡先交換しない?」
「え?」
いきなりのことで頭が追いついていない。どうしていきなり俺と連絡先を交換したいなんて言い出したんだ?
「別にいいっしょ?」
「あー…」
既に三人の手にはメッセージアプリの画面が開かれたスマホが握られていた。正直この手の人達は苦手だったりする。どうやって断ろうかと考えていると助け舟が出された。
「蒼彼、どうしたの?」
声のする方に目を向けるとそこには海純が立っていた。
「み、海純…」
海純は俺の前に立っている三人の手元を見て状況を把握したようだ。
「あー、蒼彼ってそのメッセージアプリやってないから交換できないよー」
「え?まじ?今どきこのアプリ入れてないやつとかいるの?まじウケる」
「遅れすぎー」
三人のギャルはそう言って笑いながら自分たちの席に戻って行った。
「た、助かったよ、海純」
「ううん、大したことしてないから気にしないでいいよ」
ちなみに俺がメッセージアプリを入れていないと言うのは嘘だ。海純の咄嗟の機転で助かった。
「…蒼彼はもっと自分のことに興味を持ったほうがいいよ」
何故か海純はブスっとした顔をしながらそう言った。
「海純?どうしたんだ?」
「…」
読んでも反応しない。
「おーい、海純?」
「ふんっ!」
「あ…」
海純は俺の方を見ることなくスタスタと歩いていってしまった。
一体どうしたんだ?
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