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本音

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


普段激しく動くこの無い俺が汗を滝のように流しながら息を切らしている。


もう逃げない。逃げたくないと思った。だがら俺は幼馴染に会いに行く。


あたりは既に暗くなってきていた。今から家を尋ねても迷惑になるかもしれない。けど、それでも俺は幼馴染に…海純と話さなければならない。もう迷惑をかけるのはこれっきりだ。これで嫌われたのならこれ以上は関わらない。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


ようやく海純の家についた。素早く脈打つ心臓と荒れに荒れた息を落ち着かせる。数秒経つと息は正常な呼吸へと変化した。だが早鐘を打っている心臓はいつまで経っても治まらない。実際は小さな音なはずなのに心臓の音がうるさい。


この場から逃げてしまいたい衝動に駆られる。だがここで逃げてしまえばまた嫌な自分に戻ってしまう。


だから俺は海純の家のインターフォンを押した。


しばらくするとピッという音と共に海純の声が聞こえてきた。


「はい、どちら様でしょうか?」


「…」


「…あのー?」


俺は一度大きく深呼吸してから口を開いた。


「海純、俺だ。蒼彼だ。今時間あるか?」


「…」


インターフォンの向こうでは海純が戸惑っていることが伝わってくる。


「…うん。ちょっと待ってね。今行くから」


海純はどこか覚悟を決めたような声でそう言った。もう逃げられない。今俺が抱いている気持ち、これをどうやって言葉にするかなんて全く考えていない。でも今海純と話をしなければいけない。なんだかそんな気がする。


海純の家の玄関が開く音が聞こえた。俺が玄関に目を向けるとそこにはどこか居心地の悪そうな顔をした海純が立っていた。


「えっと、どうしたの?」


海純は俺と目を合わせない。それでもいい。今はただ俺の思っていることを素直に伝えよう。


「海純、俺は海純が好きだ。子供の頃からずっと変わらず俺と接してくれる優しい海純が好きだ」


「…」


きっとこんな恥ずかしいセリフ、これから先二度と言うことなんてないだろう。


「周りが俺の事を根暗だとバカにした時だって海純は一度も俺の事をバカにしなかった。それどころかバカにしてきたやつらに対して本気で怒ってくれた。俺はそれが嬉しかった」


「…」


海純は黙って俺の言葉を聞いている。


「今までの俺は嫌なことがあれば直ぐに逃げ出していた。目を逸らして、耳を塞いで、それでやり過ごしてきた」


きっと並柳の言葉がなければ俺はこのことに気付けなかっただろう。今度ちゃんとお礼言っとかないとな。


「でももうそんなことしたくない。だがら本気で伝える。俺は幼馴染の朔原 海純が好きだ。大好きだ。俺と付き合ってください」


いつしか俺の方を見ていた海純の目を真っ直ぐ見据えてそう言った。


海純は何故か目に大粒の涙を溜めていた。決して泣かないようにと嗚咽を堪え顔を仰向ける。それでも収まらないのか両腕で目を擦りようやく俺の方を向く。その目は赤く腫れていた。


「ありがとう。蒼彼が私の事、そんなふうに思ってたなんて知らなかった。ほんとに嬉しい。…でもやっぱりごめん。私はまだ誰かと付き合ったりなんて考えられない。だがら…ほんとに…ごめん…」


そう言い終えた海純は再び涙を流してしまった。


「…ぷっ、はははっ、なんで振った海純が泣いてるんだよ」


そう言いながら俺は海純の近くに寄り頭を乱暴に撫でた。


「だ、だってぇ…」


何故か振られた俺が振った海純を慰めるという謎の構図が出来上がってしまった。


でも俺の心はどこか晴れやかな気持ちだった。今までこんなに真っ直ぐ何かを伝えたことが無かった。いつも逃げて傷つかないようにしていた。


でも今日、初めて自分の気持ちを一切隠すことなく伝えた。結果はやっぱりダメだった。でも俺は後悔していない。きっと海純のことを好きだという気持ちは簡単にはなくならない。でも俺は変われそうな気がする。


結局海純が泣き止むまでずっと慰めていた。ようやく泣き止んだ海純が恥ずかしそうに顔を上げる。


「…」


だがその目には申し訳なさそうな色が見える。それを見て俺は笑った。


「明日からも幼馴染としてよろしくな」


そう言った。


「っ!うん!」


そう言うとようやく海純は笑顔になった。

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