デレヴォーン・ゼロ―ンの秘密 ~ちょっと文学~
それはあんまりだとぼくが何か言おうとすると、先にライオンマンが口を開いた。
「さすがはシャーマン博士、『デレヴォーン・ゼロ―ン』の最高幹部だった男だけある。味方をこうも都合よく切り捨てるとは」
「ねえ、デレヴォーン・ゼロ―ンって何? ダサくない」
帰ってから、博士が説明してくれた。
「ジェイムス・ジョイス(1882~1941)というアイルランド人の作家が書いた短編集に『ダブリンの市民』というのがあるんじゃ。その内の一編に「イーブリン」という作品があっての、そこに出てくる言葉が『デレヴォーン・ゼロ―ン』なのじゃよ。ところでこのデレヴォーン・ゼロ―ンという言葉じゃが、そんな意味の言葉は存在しないんじゃ」
「じゃあなんで、そんな言葉を組織の名前にしたのさ?」
「それはこの『デレヴォーン・ゼロ―ン』という名前が、狂気を象徴しておるからかのう?」
博士はつづけた。
「……武夫くん、わしが科学のお話なんかをしているのは、大人に要らん武器を与えて分断を加速させるためではないんじゃ。未来ある子供に選択肢を広げてほしいと思ってのことなのじゃよ。デレヴォーン・ゼロ―ンは大人の組織じゃった。わしの科学力を騒乱と議論に費やす馬鹿どもの集まりじゃった……だからわしは組織を抜けて、今がほんとうに幸せなんじゃよ」
「ぼくも博士と一緒にいれて幸せだよ」
それを聞いた博士は、ひどく照れているようだった。