紙飛行機を飛ばす ~準備②~
金にいは大して驚きもせず、無表情に、
「そうなのか」
「博士には内緒だよ」
「わかったわかった。なあ、武坊」
「ン何?」
「お前、大分こまっしゃくれてきたな……あんまし賢い子供は、俺、好きじゃないぞ」
「金にいの好みなんか、ぼく、知らないよ」
けれど窓の外ではざあざあ雨が降っていて、明日、外で仕事がある金にいは、この雨に多少がっかりしているようだった
「……まだ救いようがあるな」
「どういうこと?」
「1㎜なら大丈夫。3㎜なら外作業がきつい。7㎜なら地獄。10㎜なら俺は帰る。明日はなんとか行ける」
「一時間の降水量が50㎜以上の発生件数は増えてるんだって」
「しってるよ」
「でも、日降水量が1・0㎜以上の年間日数は減ってるんだ」
「どういうこと?」
「降るところでは雨が局地的にざっと降って、降らないところでは以前よりも降らなくなったってことじゃないかな。だからゲリラ豪雨が激しいからといって、一概に降水量が増えたとは言えないんだ」
金にいは窓から空を見あげ、
「久しぶりに雨が降ると、何だか懐かしいにおいがするよな。いやな臭いじゃなくって、落ち着くような……あれ、なんだろな?」
ぼくは窓から外を見た。
今、博士のラボには博士の姿はない。岩と石に囲まれた山間に建つ博士のラボにしとしとと雨が降る。辺りに転がる石や岩の表面が濡れ、懐かしい、あの独特の匂いがする。
雨の日の岩山のかおりだ。昔、東北旅行に出たとき、金朗も嗅いだことがある……。
その時。