赤札 ~四十億年ときょう一日~
今日は博士とぼくは初夏の太陽が躍る中、電車に乗って、カワサキ大師までやってきていた。ウン十年に一度ご開帳する赤札という御利益のあるお札を貰いに行くためだ。
博士の友人が脳の血管かなんかが破れて今、病院に入院しているのだ。それで今日、電車の乗ったぼくたちはふと思いつき、カワサキ大師まで足を運んだということ。
「暑いね、博士……」
「汗でぐじょぐじょじゃよ……あと何時間待てばいいんじゃ?」
博士は白衣を汗でびっしょり濡らしながら、そう答えた。脱げばいいのに。
「こんなに暑いと今年の夏もどうなるか心配じゃナ」
「博士には危機意識がないよ……いつもクーラーの効いた部屋にこもってるんだから」
「わしのラボはクーラー未完備じゃよ、武夫くん」
「マジで?」
「武夫くん、太陽は46億年前に誕生した。始めは宇宙空間に浮かぶチリとガスの巨大な雲のようなものじゃったが、はるか遠くの宇宙で一つの巨大な星が終焉を迎え、超新星爆発が起こった。その衝撃波がチリとガスに作用し、チリとガスはかき回されて収縮し、原始の太陽が出来上がったのじゃ」
「地球は?」
「ウム。太陽になれなかったチリとガスや岩石がやがて太陽を中心に公転する。それが太陽系の元じゃ。太陽はこれまで46億年生きておる。星としては壮年期じゃ。その長い太陽系の歴史の中、36億年前には地球で何らかの生物によって有機物が作られていたと言われておる。そして、これから30億年後ごろには太陽は膨張して、衰えていく。そして最後には死んでしまう」
「怖いね、博士」
「だけど宇宙にとって40億年ときょう一日、この一瞬という瞬間は大した違いはない。その心だけはわしも忘れないようにしたい……そう思っておるよ、武夫くん、ここで君に言っておきたいことがある」
「えっ、なんだよ……」
「わしが言うことを君がどう受け取るかは自由じゃが、もしわしの言葉が気になったのなら、一度図書館かどこかに確かめに向かってほしいんじゃよ。というのも、わしがもしそれっぽく歴史上の人物の名前など引き、偽って、武夫くんをだまそうとすればそれは容易なことじゃからナ。だからわしは情報の参考文献を、先に君に例示しておく。もし興味があったら、その文献かそれに類する本でわしの言ってることを調べてみてほしいのじゃよ。知っておるか、武夫くん。アメリカではネットのニセ科学が幅を利かせて、陰謀論やQアノンといった、なんだかわからないものがすでに力をもちはじめておる。怖いじゃろう?」
「うん、恐ろしいね……」
「だから何でも自分の足で調べてみて、そして目で見るまでは、それに承服しては駄目なのじゃよ……武夫くん」
「なに、博士」
「本当を言うと、わしにはわからないことの方が多いのじゃ。わからないことばかりなのじゃよ」
それからぼくたちは赤札をもらって、帰途の電車に乗った。背景の山は青く、線路わきの雑草は生命を爆発させている。博士はキヌガサで降りた。
その翌日。