食器洗剤のはなし ~博士の台所③~
「わしの出身は工業系の高校だったんじゃがナ。そこでは石鹸を作る授業があるんじゃ。けどそこで作った石鹸は石油を原料としたものじゃなくって、植物の油から作るものじゃったのう。わしが授業で習った中では、豚の油とかを使った動物系の石鹸と、ヤシなどの植物油から作る植物系の石鹸があった気がするが、いまいち、よく覚えておらん」
博士は握っていた「ギュギュット」を流しのへりに置くと、また話し出した。
「この「ギュギュット」にも、石油から精製された高級アルコールが含まれておるらしい」
「え、どこに書いてあるの?」
「裏面の成分表示に「高級アルコール」と書かれておる。これは石油から精整された『ナフサ』から作られる成分じゃ。
石油工業の躍進はアメリカのスタンダード・オイル社がプロピエレンからイソプロパノールの合成に成功した1920年が端緒と言われておるよ。創業者は、石油王ジョン・ロックフェラー(1839~1937)、ロックフェラー財団と言えば、どこかで聞いたことがあるじゃろ?」
「いや、知らないよ!」
「この事業の発展には立役者がおる。それがエドウィン・ドレーク(1819~1880)じゃ。かれは貧しい農家の生まれで生活のために職を転々としたのち、激しい労働で体を壊したドレークは、38歳の時に石油会社に勤めたんじゃ。
当時の石油採掘は採掘と呼べるような代物ではなかった。井戸の表面に浮いた油を掬い取るようなもので、今よりもずっと高価で、効率もすこぶる悪かった。ドレークは人々のあざけりの中、努力と工夫を重ね、鉄のパイプを打ち込む方法を考えたんじゃよ。
それから彼が掘った初の油田(ドレーク油田)は、アメリカの歴史に深くかかわったものとしてアメリカの史跡にも認定されておるぞ。「ドレーク油田」で検索すると、とてもすてきな建物が出てくるから、一度調べてみるとよい」
「すごい人なんだね」
「そうじゃ。けどのう、この話には続きがある。ドレークはその方法の特許を取らず誰でも使えるようにした。特別の料金も取らず、会社からの給金をもらうだけじゃった。石油産業はそれから目覚ましい発展を遂げたが、その後ドレークは事業に失敗して、一晩にして財産を失ってしまうんじゃよ。
その後、病気になったドレークは、わずかな州からの年金や、業界からの見舞金を貰いながら、さびしく62歳で亡くなってしまうんじゃよ」