食器洗剤のはなし ~博士の台所②~
「ところで、石鹸がどうやって汚れを落とすかは先週言ってしまったが、考えてみれば不思議なことではないかのう。どうして固形物を塗り込むだけで汚れが落ちるんじゃ?」
「種明かしは昨日したじゃないか」
「そうじゃの。だが、ほかの固形物でも汚れは落ちると仮定してみよう。色々試してみる価値はあるんじゃないかな?」
「うーん……何をするの?」
「うむ、まず皿を汚してみよう。これからスパゲティでも作ろうか、武夫くん。食べ終えたら食器の上から石鹸以外のものをぬったくって、水で洗い流してみるのじゃ。わしはアルコールは、汚れを落とせるんじゃないかと踏んでいる」
「どうして?」
「FOOKOFFのシールをライターオイルではがせるからじゃよ」
博士はそう言ってまたアレを取り出した。
「トリスじゃ」
「正気ですか⁈」
それから僕たちはスパゲティを作る工程に取り掛かった。拭き洗いした鍋に水を入れてざっとこぼすだけで、ずいぶん洗剤がなくなったように感じられる。今までやったことがなかったから気づかなかったが、この点は拭き洗いのいいところだと思う。スペースを取らず、便利で、なにより身軽だ。最後のコップ一杯の水だけで流し洗いと同じ「やった感」が得られる。
作ったのはたらこスパゲティだった。さっそく食べ、食べ終えた食器にウイスキーを上からかけ、あることに気づく。
「洗剤と違って泡立たないから、汚れをあまり保持してくれんのう」
「『泡が汚れを包み込む』ってのは、こういうことだったんですね」
水でさっと流してみる。
「分かってはいたが、酒臭い……それに、あんまし汚れも落ちてない気がする……」
「でも、ライターオイルは偉大なのじゃよ。シールははがせるし、本の表紙も汚れも落とせる。あれで磨くとピカピカになるのじゃ」
ぼくは置いてあったライターオイルの成分を見た。
「ライターオイルは石油なんですね。第四類第一石油類って缶に書いてあります。というかオイルなんだから、アルコールじゃありませんよ」
「うむ、そういえば洗剤にも『石油系洗剤』というのがあるの。だからかナ?」