ギリシャのはなし ~自然哲学の発祥~
5がつ。
きょうも外は雨だ。気分は憂鬱でちょっとブルーな気持ちだ。ぼくが窓から外を眺めていると「こんこん」と、ドアをノックする音がした。
やって来たのは博士だった。
「憂鬱そうじゃな」
「うん」
「小説でも読んだらどうじゃの? 本は、ほれ、そこに沢山あるぞ」
「そんな気分じゃないよ……」
博士は悩んだそぶりをして腕を組んだが、ふと、懐から何かを取り出して言った。
「ほれ」
「やっぱり本じゃないか」
「これは科学の本じゃ」
「勉強は嫌いだよ」
「武夫くん。化学はいつ起こったかご存じかナ?」
「それくらい知ってるよ、錬金術でしょ」
「いかにも。今から、2600年から2300年ほど前の古代ギリシャでは、哲学者がそれぞれ科学を考えていた。自然哲学というやつじゃな。タレスは『万物の根源は水』と考えていた。アナクシメネスは『万物は空気+プネウマ(気息)』と捉え、ヘラクレイトスは『万物は流転している』と考えた。エンペドクレスは『四元素説』、つまり『万物は火、水、土、空気』と提唱した。科学の歴史は古いんじゃ。もっとも初めに人が科学に触れたのは、火山噴火や雷などによる山火事だったと言われておるよ。150万年前にはもう、そうしたものを利用した痕跡があったのじゃな」
「ギリシャの人は、どうしてこんなことを考えたんだろう? よく考えてみると、当たり前のようなことなのに」
「武夫くん。哲学の基本は『観察すること』だと言われておる。きっとギリシャの哲学者たちはものをよく見て、観察しておったのじゃないかナ? 今では当たり前のように感じられることも、過去からの積み重ねの知識の上に成り立っておるんじゃ。
それに、古代ギリシャの自然哲学は他にもあるぞ。たとえばデモクリトスの原子論。そして万学の祖と呼ばれたアリストテレスの登場じゃ。かれは人間は『知を愛するもの』だと言い残しておるぞ。彼はさっきの四元素説をもう一つ先に推し進めた。その話はあとでしようか」
「むつかしいよ!!」
「いいんじゃよ理解しなくて。歴史があるんだな、雄大だなあ、と少しでも感じてもらえたら、わしはそれで満足じゃ。雨がやんだようだぞ、武夫くん」
「野球にいこ、博士!」
「それでは、わしの火の玉ボールを見せてやるかナ」