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第三話「人はその制服どおりの人間になる」その1

 ツイルリー宮殿での騒ぎの翌日。カロリーナは住み込んでいるアパートの前にやってきた、ペリゴーヌ伯爵の馬車に乗っていた。


  家主は白馬が曳く豪華な四頭立ての馬車がカロリーナを迎えに来たので白目をむいて驚いた。そして馬車から降りて来た御者がカロリーナが滞納している家賃と称して金貨の詰まった袋を差し出したのでもう一度驚いた。


 ◆


「わたくし、御者が付いた馬車に乗るのは久しぶりですわ!」


 着古してあちこち擦り切れた服の裾を握りしめてカロリーナははしゃぐ。コルスカの首都、アジャオクの大通りを馬車で行くのは革命以来だった。


「ソワン伯。昨日は驚きましたよ本当に」


「閣下は恩人ですわ。どうぞカロリーナとお呼びくださいませ」


 カロリーナはにこりと笑顔を見せた。


「それではカロリーナさん。私のこともどうぞ、シャルルとお呼びください」


「わかりました。シャルル様」


 シャルル・デ・ペリゴールは歳を数えれば四十手前になろうかというのだが、青年のような爽やかさと、成熟した男の醸し出す色香を自在に使い分けることができるような男だった。


「今から私の屋敷に来て、まあ、いろいろと連隊長になるにあたって必要な準備をしようと思うのですが、よろしいですかな」


「勿論ですわ。立派な軍人になって、我が伯爵家をなんとしても復興して、あのおバカ者を見返してやります」


「結構なことです」


「それにしても、シャルル様はどうしてわたくしにこんなに良くしてくださるのでしょうか?」


「それに、先代のソワン伯、あなたのお父君と私の父は友人同士でもありました。そのよしみと言ったところでしょうか。ご両親はお気の毒でした」


「いえ……」


 カロリーナの両親は革命に積極的に関わろうとはしなかった。嵐が収まるのを待つように屋敷で大人しくしていたのだが、革命政府の命令で逮捕され、そのまま断頭台に送られてしまった。


「それに、私のように政治の世界に身を置いていますと、あなたのような、草原を吹き抜ける突風のような人がひときわ輝いて見えるものです。あなたのような、突風を私はもう一人知っていますが」


「……?」


 首をかしげるカロリーナに、ペリゴーヌはニコニコと人懐こい笑みを浮かべた。


「屋敷に向かう前にもう一人、ある男を迎えに行きます。これからあなたが軍人としてやっていくために必要な知識を補うための、アドバイザーと言いますか、まあ、専門家を」


 ◆


 馬車が止まる。カロリーナの住んでいたアパートと似たり寄ったりのボロアパートで、従者が呼び出しに行くと、ドタバタと慌ただしい音が響いて、若者が一人出て来た。両手いっぱいに何やら書類を抱えている。


「ああ、ペリゴーヌさん。時間通りですね。こちらの方が、その、噂の。やあ、どうも初めまして。私はアントン・ジョミニと言いまして、ええーっと。私の事はご存じですか?ご存じないですよね。ああ、当然です。何と言いましょうか。私は、ティアフェルベ共和国の、コルスカの南にある国の。で、軍事研究をやってましたんで……あー……えと、ソワン伯爵様のお役に立つだろうと、ペリゴーヌさんの、ああ、そうそう。私はペリゴーヌさんとサロンで知り合ってですね、だから、そのツテで。伯爵のお役に立てると推薦いただきまして……」


 馬車に乗るなり、アントン・ジョミニと名乗るその若者はもじゃもじゃ伸びた癖のある黒髪をごしごしとかき回し、掛けていた眼鏡を外しては拭き、拭いてはかけてと忙しく動きながら喋り散らした。


「ソ、ソワン伯カロリーナですわ。よろしくお願いします。ジョミニさん……?」


「こ、こちらこそ宜しくお願いします。ソワン伯、あー……すみません。美しい女性と話すのは久しぶりなので緊張してしまって」


 カロリーナが若干ひきつった笑顔を見せると、ジョミニはゴホン、と咳払いを一つした。


「伯爵は戦場をご存じですか」

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