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巡羅のカタルシス  作者: xfolm
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久しぶりの依頼

初投稿記念パピコ


更新は暇だったら

「黒い猫、ですか?」

恰幅が良く、ところどころに宝石を散りばめ着飾った女依頼人の言った内容を念のため復唱した。

甘ったるい香水の臭さが放たれる依頼人からすぐに「はい、その通りです」と食い気味の返事が返される。

物とかじゃなくて生き物か。これは探すのに骨が折れそうだと心の中でつぶやく。

「そのー、他に特徴みたいのはありませんか?」

「名前はミー、ミーちゃんといって・・・」

黒猫のミーちゃんね、詳細な情報を聞き内にメモしながら、ふと左を見ると帳簿管理の貞義さんがPCに指を走らせていた。

依頼人の言葉からの情報を書き留めているのだろうか、カタカタと音を立てながらときどきこちらに目配せをしてくる。肩より伸ばした髪と眼窩の深い目は、より一層死相の表情を際立たせ、暗がりで見たとしたらお化けに見間違われることは必須だろう。そんな恐怖の面立ちからの目配せの意味はもちろん、依頼を引き受けろ、絶対に断るなとかだろう。

我々の今日日この頃の出費には頭が痛くなるのは知っていたが、一週間前の華怜さんの建築物破壊で金の貯えが尽き、生活すべてが崩壊した。これまでが羽振りが良かっただけで、ビック案件や恒常的な仕事が入ってくるわけがない弱小偵魔事務所いつもの自転車操業に戻っただけだ。なんてことはない、はずだ。

続いて右を見ると、華怜さんが依頼人のカップへ視線を固定してコーヒーポット片手に直立不動だった。

カップの中が空になるやいなやすぐに対応できるよう備えているのだろうが、いつもの無表情も相まって完全に人の形をした機械のようだった。彼女も前の一件でバツが悪いのだろう、仕事を見つけるためにここ最近は必至だった。顔も体格も妙齢で悪い人ではないので関係者からの受けはいいのだが、仕事を得るには彼女の特性が足を引っ張るのだろう。


さてそろそろだろうか。依頼人の顔が高揚し、熱い猫語りに差し掛かろうとする。一通り、ミーちゃんのいそうな巡回ルートや白いスカーフを巻いているといったちゃんとした情報を得た後、こちらから話のボールを投げる。

「―――てことがあってからね、ミーちゃんは小さい頃か怪我や病気がちでね、それはもう心配で心配で――」

「ちょっと質問いいでしょうか?どうしてうちのような小さな偵魔事務所なんかにいらしたんですか?」

暗に警察や探偵事務所に行けばいいじゃないか、といった意図を含ませた質問を投げる。

依頼人は猫について喋りすぎて乾いた喉を潤すため、事務所に来た際に出されたコーヒーを口に含み、まずそうに歪んだ顔のまま語る。

「だって、最近行方不明事件とかニュースですごいじゃない。普通の人だとこんなときに頼りないし。」

それとこの事務所へ行けって夫から推薦があったのよ、と依頼人は言葉を付け足した。

華怜さんが依頼人のまだ半分しか減っていないカップにコーヒーを注ぐ間、思案する。

確かに、依頼人の苗字は過去に引き受けた警察関係者と同一だった。

また、ニュースでは夜中の失踪事件のニュースが連日取り上げられており、一般人は暗がりを避けできるだけ夜の街を出歩かないようにしているらしい。

「なるほど。となると、我々偵魔師が普通よりも割高―――」

右を見ると華怜さんが無表情で押せ押せとジェスチャーをしている。

「―――ということはご存じですよね?それで物とかではなくて、生き物の捜索となると人海戦術も選択肢になりますので最低でも―――」

左を見ると貞義さんが人差し指を立てている。

「―――100万ぐらいになりますが、よろしいでしょうか?」

「…大切なミーちゃんのためですから、お金は惜しみません!」

言質はとった。

待ってましたと言わんばかりに貞義さんがPCを持って席を立ちあがり、契約の手続きのため依頼人に声をかけ別の部屋へ案内する。

「では、詳細な見積もりを作成しますので、こちらにどうぞ。」

はい、と依頼人が言って、貞義さんの後に続き部屋を出る。

バタンと扉がしまると華怜さんが両手を上にまっすぐ伸ばし、ガッツポーズをとる。

俺の方はというとしてやったりといった顔つきで自分のカップに注がれたコーヒーをすする。

「…普通だな」

今日のコーヒーは達成感に満ちており割増しでおいしかった。


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