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古(いにしえ)の最強魔導人形となった僕  作者: ユウヒ シンジ
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追撃 5

よろしくお願いいたします。

僕は更に奥に進む。

ブルタブル宰相が居た1階ではなく、それより更に階段で下に向かって降りていた。

結構、長く歩いているけど、相当深い。


『ノール様、最下層が見えてきました。そこに膨大な魔力量を感知できます』


ミネルヴァさんの言葉に僕も頷く。

こうして歩いているだけで、その足取りが次第に重く感じるからだ。


「物凄い、圧力・・・もしかしたらイチゴとかいたら潰されてる?」

『潰れはしませんが、身動きはほぼ取れないでしょう』


ミネルヴァさんの回答がこの状況がどれほどの物か、的確に判断出来た。

確かに異常な圧迫感を感じる。

それでも僕は慎重に歩みを進め、階段が終わる階へと降り立った。


「あそこだね、入り口は?」

『はい、ただこれだけ大きな魔力が放出されてると感知が上手く出来ませんので中の様子は分かりません。申し訳ありません』

「良いよ、それは仕方ないから。それにここまで来たら入るしかないんだから」

『ただ、向こうはこちらに気付いているとお考えください』


そりゃそうだろね。

地の利はあちらにあるんだから。


スゥウウウウウウウ・・・・・


『ノール様』

「うん、見えてる。扉が開いた」


不意に殆ど音も無く、人の背丈倍くらいある高さの扉が開いた。


「ようこそ、待っていたよ。ノール君」

「名前知っていたんだ」

「それぐらいは当然だ。それより先程は色々と私の邪魔をしてくれて、とてもウザかったよ」


そこは、見栄でもはっておけば良いのに、案外素直だな、この王子様は。


「それで、そのウザイ僕に何かしてくれるの?」

「ああ、お前、魔導人形だろ? まさかフィリアが魔導人形を隠し持っていたとわな。私も騙されたよ。おかげで計画が台無しだ」


ん? 別に計画を知っていたわけじゃないし、姫様は僕の事を魔導人形なんて毛ほども思ってないよ。

それにたまたま出くわしたから止めただけなんだよね。

完全に殿下の思い込みだよね?


「普段は王国の在り方など無関心を装っていたくせに、完全に騙されたよ。さすがと言っておこう」


ま、勝手に解釈して姫様の株が上がるなら黙っておこう。


「だがそれもここまでだ。最後に笑うのはこの私だ!」


胸に手を当て、どこか遠くを見つめながら叫ぶロドエル殿下。

演技掛かってるなぁ。


「なんだ、その馬鹿にしたような顔は?」

「あ、分かります? いい加減一人芝居は良いですから本題にもどりません?」


あ、怒った。


「キサマ!! それが王族のしかも王太子に対しての態度か!! たかがノージュエルの魔導人形の分際で控えよ!!」

「あ、それですけど、王妃様を代表とした各国との会談で、ロドエル殿下の王太子の地位を剥奪、王族からの除籍が決まったようですよ。なのであなたは一平民、しかも国家への反逆の罪を背負う罪人となるようですよ」


あ、顔が鬼の様に赤くなった。


「なんだと!! そんな事、誰が認めるか!!」

「こうなったらプラハロンド王国を力づくで私の物に今すぐしてやる!! エルダ!!」


激高しエルダさんの名前を読み上げるロドエル殿下。

すると部屋の奥、大きな机? いやベッドか、そこに人影が持ち上がり始めたのが見えた。


「さあ! 生まれ変わったエルダよ! お前の力を見せつけてやれ!」


『ノール様』

「ああ、さっき感じた圧迫感の正体だ」


それは、少し前に相対したサードジュエルの魔導人形のエルダさんだった。

けどその姿はそれほど変わらないものの、雰囲気が全然違っていた。

表情は固まり、目は冷ややかな、でも底なしの漆黒の瞳が印象的で、背筋がビリビリと騒ぎだす程の恐怖感を醸し出していた。


「これが禁呪を使用した結果だというの?」

「ほう、誰に聞いた? ふむブルタブル宰相あたりか。あ奴も敵なのか味方なのかよく分からん奴だがもうそれもいらん!」


いらん! って完全に独裁者気取りだな。


「先ずは手始めに、この目の前の魔導人形を破壊するんだ!」


僕を大きく指差し怒鳴りつける。

するとその言葉を理解したのか、ゆっくりと僕の方に顔を向け始めるエルダさん。


『ノール様。術式禁呪を確認。解析に入りますが、1時間は必要と推測されます』


それまでは待てないだろうな。

だってロドエル殿下はやる気満々だし、エルダさんも僕をジーっと見つめて離さないもの。


「仕方ない、真っ向勝負で力づくで押さえつけよう」

「ほう、エルダを前にしてその胆力、ノージュエルなのに褒めてつかわすぞ」

「褒めてもらって嬉しいけど、ちょっとその高飛車な感じは気持ち悪いよ」

「くそ! このガキが! エルダ! 早く壊してしまうんだ!」


更に声を荒げエルダさんに命令するロドエル殿下だった・・・が?


「どうした? 何故動かない?!」


異変に気付いたロドエル殿下がエルダの近寄り、更に命令を続けた。

すると、エルダさんがようやくベッドから降り、僕に対して身構え始めた。


「そうだ、初めからそうすれば良いのだ! 行け! エルダ!」


その命令と同時に僕に固定した視線をそのままに、腰を低くし力を貯め始めた。


ん? おかしいよね。


『異常を感知。エルダ機の体全体に震えを感知、涙腺が開き始めています。心臓部の魔核にも異常振動を感知・・・・・推測、禁呪の力を受けそれに反発するエルダ機の脳内支配領域のせめぎ合いが発生、このままだと精神崩壊しかねません』


そんな、禁呪ってそんなにやばい術式なのか?!


『呪詛よりもより強靭な運動能力、魔法能力を得られる代わりに、精神支配を受けるようです』


つまりどう言う事になるの?


『今まで蓄積された情報は全て封印され、ただ戦力として攻撃に特化するためだけの脳支配を受けるのが禁呪なのでしょう』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『ノール様?』


ミネルヴァさんの声が遠くで聞こえる。

なんでそんな酷い事ができるの?

人形だからと言って、イチゴやマイを見ていると人と何が変わるって言うんだ。

彼女達は立派にこの世で生きている生き物のうちの一つである事に変わりないだろう!

人の手で作り上げたからと言ってもその心の記憶は人と同じ様に積み重ねて出来た大切なものなんだぞ。

それを強制的に排除・・・・・なんでそんな事が・・・・・・・・・・


「出来るんだよ!!!」


僕が先だったのか、エルダさんが先だったのか、それは今となっては分からない。

でも、僕とエルダさんの10メートルあった距離は一瞬で無くなっていた。


「早い! 今までのエルダさんとは段違いだ」


エルダさんの拳の一撃を僕も同じ体勢になり拳で受け止める。

重い一撃だった。

自分の拳にも痛みを感じる。

でもそれよりももっと心が痛くなった。


「・・・・た・・す・・けて」


ほんの、本当に僅かで消えかかった様なか細い声で、僕に耳にエルダさんの言葉が聞こえた。


「・・・・・・・・・エルダさん、絶対に助けるから。でもちょっと痛くするけど我慢してね」

「・・・は・・・・・は・・い」


次の瞬間には左の腕が下から僕の死角を突いて振り上げられ、それを体をほんの少しずらして避ける。

でもそれを予想していたかのように、僕の体が流れた方の横から右足に踵が振り回されてくる。

エルダは瞬時に体を捻り僕の動く方に回し蹴りを入れてきたんだ。

でもこれも右手で軽く押さえながら体ごと乗せながら後ろに勢いよく飛び退いた。

大きく後方に吹き飛ばされた格好になった僕。

その様子をその場で次の体勢に構え直したエルダがじっと見つめていた。

そして僕とエルダの間には僕達が動いたであろう痕跡に合わせて一筋の煙が漂っている。


『あまりの早さに空気が熱せられ水蒸気が発生しております』


エルダさん凄い。


「な、な、何故だ! 何故! 立っている? 何故破壊されていない!」


激しい動きが見えていたわけでないロドエル殿下が、一旦動きを止めたエルダの先に僕が平然と立っている事が信じられなかったようだ。


「そんなに驚くなよ。今からお前をぶちのめすんだから、エルダさんの気持ちのぶんだけぶん殴ってやる!」


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