王太子と皇太子 1
「げ、ガラン?!」
姫様の顔が心底嫌そうな表情に変わった。
ガラン? 誰?
「あら、ガラン・グリアノール皇太子殿下、御着きになるのは明日ではなかったのですか?」
王妃様が不思議そうにしながらも、特に慌てる事もなくその筋肉男性に質問をされていた。
「これは、これは、母上様。ご無沙汰しておりました」
大広間の中央に赤い絨毯が王様達が居る上座まで伸びる通路を二人のメイドを従えゆっくりと進んで行く。
その姿は当たり前の様に堂々と歩き進めていた。
「こら! ガラン! お前にお母様の事を母上と呼ばないでもらいたい!」
姫様本気で怒ってない?
『はい。心拍数の急激な上昇。血圧も急上昇しております』
うん、見れば分かる。
顔が真っ赤になって目が怖いもの。
「何を言っているんだ、フィー。俺にとって君の母上は僕の母上でもあるのだから、仕方ない事なんだよ」
姫様の目の前まで歩いてきた筋肉・・・あ、ガラン殿下だった。
そのガラン殿下がくどくなりそうな程のイケメン顔を姫様の顔に近づけ囁くように話している様は、ちょっと寒気がした。
この世界の男性って普通の人は居ないの?
それに、フィーってなれなれしくないか? この殿下?
「あなたにフィーとも呼ばれたくはないのですけど?」
あくまでも冷静に対応しようとしている姫様だけど、拳が震えている。
今にも拳骨が殿下の顔に飛んでいきそうな雰囲気だ。
「照れるな、フィー。俺達は許嫁同士なのだから何をはばかる事があるのだ?」
「え!? 姫様の許嫁?! この筋肉・・・殿下が?! あ、ですか?」
あまりの二人の関係に思わず声が出てしまったよ!
「なんです、このお子様は?」
そう言って僕の事を上から見下ろすようにしてくるガラン殿下。
しかし、こうして近くで見ると、結構筋肉の露出が多めの服装だな。そんなに筋肉アピールしたいのだろうか?
「この子は私が先日保護した者です。今は私の保護下にありますのでガランには関係ありません!」
キッとした表情で言い返す姫様。
僕の事をギュッと抱きしめながら言われるからちょっと嬉し恥ずかしかった。
「そうか、それは大変だったな、少女よ。この俺も君の力になれる事があれば何でも言ってくれ。フィーの願いは俺の願いでもあるからな」
あれ? 見た目ほど変な人じゃないのかも?
意外と優しいのだろうか・・・・時々胸の筋肉がピクピク動いて気持ち悪いけど・・・。
僕がジーっと見つめていたら、ニィーとか白い歯を見せて笑いかけて来た。
・・・悪い人じゃないみたいだけど暑苦しいのは確かだ。
「そのむさ苦しい筋肉と異様に白い歯をしまいなさい!」
姫様も同じこと考えていた様だ。
「そんな無体な事言うなよ、フィー。この筋肉は俺が努力して得た、成長の軌跡なんだぞ!」
胸を突き出し踏ん反り返るガラン殿下。
なんだか、僕が会った男性って変なのばかりだな・・・
・・・あ、最初にあったブルタブル宰相さんだったかな?
あの人はちょっと怖そうだったけど、変態とかじゃない一番真面だったかも。
「フィリア、ガラン殿下をそんなに無下にするものではありません。せっかくこうして来て下さったのですから、お相手して差し上げなさい」
姫様とガラン殿下の押し問答が続く中、王妃様が話に割り込んで来られた。
「わ、私がですか!?」
「当然でしょう。あなたの将来の旦那様になるお方なのですから」
「私は断ったはずです!」
「そんな我儘がいつまでも通るものではありませんよ?」
「しかし・・・」
姫様の気持ち分かるよ、うん、うん。
「レリフェエール王妃様、お心遣い感謝いたします。けれど今日はご挨拶だけのつもりでございますので明日改めてフィーにお相手していただきます」
ゆっくりとした優雅な礼を王妃様に向けるガラン殿下。
「それではこれにて・・・フィーまた明日」
礼をしたままの体勢で顔だけを姫様にちょっと傾けウインクをして来た殿下に、ベーっと下を出す姫様だった。
それをクスリと笑いながら、踵を返し二人のメイドと共にこの場を去ろうとした時だった。
「おい! ガラン殿下!! 私には挨拶はないのか!!」
今まで黙っていたロドエル殿下がいきなり怒鳴り出した。
あ、そうか。
ロドエル殿下の王太子即位の式に参加する為にガラン殿下も国の代表として来られたのだから、その主賓に挨拶をするのは当たり前だよね?
まあ、怒るのは無理ないけど、僕もすっかりロドエル殿下の事忘れていたよ。
「おお、これはすみません。ご挨拶が遅れて申し訳ない」
特に悪びれた様子もなく、小さく会釈するガラン殿下。
その態度に余計に激高するロドエル殿下。
あ、この二人姫様とは違う本当の意味で仲が悪いのかも。
「今まで私の存在を無視していただろう!!」
「いえ、決してそのような・・・ただ、覇気が全く感じられなかったので居られないのかと思いまして・・・本当にすまない」
あくまでも冷静に話すガラン殿下に対して、感情のまま話すロドエル殿下。
「くっそ!! この無礼な輩に一撃を!!」
ロドエル殿下が激高のあまり出た言葉に、その場にいる全ての人が凍りついた。
一国の王子が、一国の皇子に向ける言葉ではなかったからだ。
タン!!
何かが床を蹴る音が一瞬した。
『ノール様』
どうしたの? ミネルヴァさん。
『緊急事態でしたので、勝手に思考加速と反応加速を発動させました』
思考加速? 反応加速?
『今、ノール様は通常の2000倍の速さで思考し反応できる状態になっております』
え? それってどういうこと?
『ロドエル殿下の方をご覧ください』
ミネルヴァさんが言うので何の躊躇いもなく視線を変えてみた。
「お!??」
それは考えてもいなかった状態だった。
ロドエル殿下の方から一人のメイド服を着た女性が僕の方に向かって飛んできています、という態勢で空中に止まっていたからだ。
ロドエル殿下と僕の間は15メートルくらいあるだろうか?
そのちょうど半分くらいの所でその女性は空中で止まっていた。
今回も読んでいただきありがとうございます。




