王侯貴族の思惑 5
来てくださりありがとうございます。
申し訳ありません。王侯貴族の思惑4と被ってました。
王侯貴族の思惑5を修正しましたので、引き続きご覧ください。
大広間。
お城の中でも特に大きな部屋、謁見の間とも言われているそうだ。
その大広間の両側を、幾人かの貴族が立ち、中央に膝まずいている姫様と僕の方を注視している。
そして大広間の最奥、それほど高くは無いけど1段程高い場所に設けられた大きな椅子が3脚あり、それぞれに座っている人がいた。
左側の席には、全体が青色の綺麗なドレスを身に着けた女性が座り、右側の席には少し小太りな若い男性が座っていた。
今、僕は膝を付き頭を下げているからはっきりとは見えないけど、この大広間に入ってきた時、一瞬見えたその男の視線がとても気色悪いものだったのはハッキリとわかった。
『完全にゼロ様に向けられた視線でございました』
ミネルヴァさんも感じていた様だ。
そして中央の椅子に座っているのが金色の王冠を頭に乗せているのが、王様なのだろうけど・・・・
『はい、覇気の無い穏やかな顔をされております』
そう! ミネルヴァさんの言った通り、最初に見た王様の顔はハッキリ言ってそこら辺のただのオッサン! 下手すれば縁側でボケーッとしているお爺ちゃん的な雰囲気を醸し出している何とも良く言えば可愛らしい、悪く言えば平凡な人だった。
王冠が無ければ、下働きの下人と言われても分からないかも?
「おお、よくぞ戻ってくれたフィリア!」
そんな王様が王様らしく大袈裟な態度で言葉を発したから一瞬笑いがこみ上げそうになった。
でも、ちゃんと我慢したよ。
「は、自分の心にそむく事になりましたが、此度は諸事情により残念ながら戻ってまいりました」
姫様、の言葉に今ここにいる全ての人間が一瞬固まった様に僕は感じた。
姫様の本音なのだろうけど、それを真っ正直に言ってしまうとは・・・姫様の人柄? でもこれって・・・
『はい、敵、味方がはっきりと分かれるでしょう。と、いうよりここに参列している王侯貴族の殆どの者には受け入れがたい人物だと思われていると思われます』
ミネルヴァさんの考えは僕も同じだった。
実際、参列する貴族の大半から騒めき声が聞こえていた。
貴族からの姫様の見る目が何となく分かった気がする。
逆にそれ以外の人、特に平民は姫様の事に対して好感を持つだろうね
『はい』
「はは、相変わらずじゃの。しかし王太子即位の大事な式前に城を出るのは良くない事じゃぞ?」
「いえ、この時の方が私目に向けられる監視が手薄になると思いましたので」
はは、本当にこの姫様は、
「そうか、まあ、こうして帰って来てくれたのだ。良しとしようかの。で、その・・・」
それでも怒る訳でもなくニコニコした穏やかな顔で姫様に話しかける王様の言葉を遮る様に言葉が重ねられた。
「その者が、フィリアが拾って来た鼠か?」
それは王様の右横に座っていた男性からの声だった。
僕は顔を上げずにその声を聞いただけだけど、あの顔で口に何かを含ませたような声で言われていると思うと背筋がヒヤッとした。
『ゼロ様の各種耐性をも上回るとは、この男性の不快攻撃には注意が必要です』
ミネルヴァさんのいつもと変わらない抑揚の無い声だったけど、何故かもの凄く敵視しているように思えた。
確かにすっごく気色悪いと感じた。
「お言葉ではございますがロドエル兄様、この子は人であって鼠ではありませんが?」
「は、ダンジョンの奥で見つけてきた薄汚れた生き物は鼠以外に何がいると言うのだ?」
この人、姫様のお兄さんなのか。
つまり王子様?
なんだか理想と現実がかけ離れ過ぎて受け入れるのに時間が掛かりそうな人だけど、その王子・・・いや王子様なんてどうしても思えないから、せめてロドエル殿下という事にしよう。
・・・・それもなんだか嫌だけど。
「ロドエル兄様、この子は私が見つけ保護した者で人以外の何者でもないです。それ以上侮辱されるのであれば容赦はいたしませんが、宜しいか?」
姫様から激しい気が噴き出した。
それは目に見えるものではなかったけど、周りの居る人にもはっきりと分かるくらいの激しいものだった。
当然、姫様の視線を目の当たりにしているロドエル殿下はそれ以上に感じている様だ。
だって、額から大粒の汗をかき出し始め足が震え始めたからだ。
「は・・は! は・・わ、私に向かって、そ、その様な言葉を向けてただで終わると思うのか?!!」
声を震わせながらそれでも何とか絞り出すロドエル殿下。
「別に何が問題なのです? ただの兄妹喧嘩ですよ? 他の者から何か干渉される覚えはございませんが?」
「は! わ、私は! 王太子なのだぞ! 次期王位を継ぐ者に対してその様な言動が許されると思うのか!!」
「は? 王太子即位は4日後ですよ? お兄様はまだ一王子殿下であり、同じ王位継承者の一人ではございませんか。何を寝ぼけたことを」
「く! 私が王太子になる事は国内外に知らせているのだ! 今の時点で王太子であると言って何が悪い!」
「・・・即位までの間に何があるとも限りませんが?」
!? 大広間の雰囲気が急におかしくなった。
騒めきが止まらない。
貴族か高官か、この場に居る人から色々な言葉が、小さいけどハッキリと聞こえて来る。
『今の発言は王位継承権にある者としては些か不用意ではないでしょうか?』
さすがのミネルヴァさんも気になるみたい。
隣に一緒に座っている僕の方が気が気じゃなくなっているけどね。
何て事を言う、姫様なのだろうと。
「まぁ、まぁ、それ以上はお止め下さい。両殿下とも」
そこに優しそうな、でもはっきり耳に届く女性の声が二人の間に割り込んできた。
「母上?」
「お母様?」
ん? お母様? 姫様の?
あ、あの王様の横に座っていた優しそうな女性、あの人がこの国の王妃様、姫様のお母さんなのか?
「ここは私に免じて双方、言葉の矛を収めなさい。王太子即位の儀式に集まって下さる諸外国の方々がお城に居られ始めていますのよ。この様な醜態を見られたらプラハロンド王国の恥ですよ? それにほらフィリアさんの横にいる女の子が震えているわよ?」
二人にあくまでも優しく語りかえる様に諭す王妃様。
その言葉に二人共が小さく頷いた。
「分かりました、母上」
「私も、言い過ぎましたお母様」
「うん、分かってくれて嬉しいわ」
な、なんだこの威圧は?
あの優しい瞳からは想像つかないほどの説得力というか圧力というか、オーラが凄い。
横に座る王様が小さく見えてしまうほど王妃様の存在感が凄かった。
『ゼロ様、この方・・・』
ミネルヴァさんが何か僕に言いかけてたみたいだけど・・
どうしたのミネルヴァさん?
『いえ、私の勘違いだと思いますので・・・』
いったい何だったんだろう?
「それでフィリアさん、その子はどうするの?」
王妃様が、大広間の雰囲気が落ちつたところで、僕の事を聞いてきた。
「はい。いつもの様に孤児院に引き取ってもらい、この子を貰ってくれる人を探すつもりです」
「そうですか。いつもの事ですが猫や犬を拾ってくるわけではないのですよ? それは分かっているのですか?」
王妃様の口調が少し強くなった。
「はい、ですからこの子も含めて私が連れて来た子は、新しい家族が見つかるまで責任をもって保護いたします」
そうか。
姫様、僕以外にもこうして両親のいない子、いなくなった子を見つけては保護してくれたいたんだ。
「そうですか。でしたらこれ以上言う事はありません。でも王族を抜けるとそう言った子供達の面倒をみる施設の運営費に問題が出るのではありませんか?」
「いえ、王家の予算から捻出している現状では、王家が何か言い出せば孤児院も従うしかありません。けど私が王族を抜け一平民として稼いだお金で運用すれば王家のからの干渉はありませんから」
「あら、王家は干渉するつもりはありませんよ?」
「いえ、将来無いとは限りませんから」
そういう姫様の視線の先にはさっきまで罵り合っていた相手に向けられていた。
それに気付いたロドエル殿下の表情が強張ったのはいうまでもない。
また喧嘩が始まるのか?
「もういいですよ。ロドエル殿下もそれ以上言わないでください?」
「は、はい・・・ちっ・・・」
舌打ちが聞こえていますよ。
先に牽制されてきっかけを失ったみたい。
「とにかく、その子の事は分かりました。それでちゃんと調べたのですね?」
「はい、いたって普通の女の子でございました」
あ、今、あの時のメイドさんとのお風呂場でのやり取りが蘇ってきた・・・うぅうう。
『ゼロ様、体内温度が少し上昇いたしました』
言わないでミネルヴァさん。
余計に思い出すから。
「そう、なら私達からは何もありませんわ。ね? あなた?」
「ん? ああ」
なんだかフィリア姫様の王族の位置関係が少し分かった気がする。
「ロドエル殿下もこれ以上あの子にちょっかいを出さないで下さいね?」
「・・・・は、」
あの傲慢そうなロドエル殿下が何も言わずに引き下がるとは、王妃様何か皆さんの弱みでも握っているのだろうか?
「あ、そうそう、この子の名前は分かっているの?」
「いえ、それが覚えていない様でして、どうも怖い思いをしたせいで記憶に混乱が見られます」
「そう・・・可哀想に」
いえ、ですからそれって姫様の勝手な勘違いですから。
「じゃあ、私が名前を付けてあげても良いかしら?」
突然王妃様がそんな事を言い出してきた。
「それは有り難いです。どうにも私はそう言った感性が無いのか思い浮かびませんので」
少し照れた素振りの姫様。
つまり僕のこれからの名前はこの王妃様しだいという事か。
姫様と同じ感性で無い事を祈ろう。
「そうね・・・この子は自分の名前も憶えてないくらいだし、昔の悪い事は忘れて何も無かったとしてここから始めれば良い・・・そうだわ! この王国より海を渡った東南の島国の古い言葉で、何も無い、ゼロと言う意味の言葉でノールと言う言葉があるの。ノールから始めなさい、あなたの人生を」
僕に向けて王妃様が優しく微笑みながら名前をくれた。
偶然だろうか?
ゼロという意味の言葉、ノールが僕の新たな名前となった。
『ノール様、ですか・・・偶然にも同じ意味の名前ですね』
そうだね。
ちょっとびっくりしたよ。
『偶然・・・なのでしょうか?』
なんだかさっきからミネルヴァさんの様子がおかしい様な?
言葉に抑揚がないからはっきりとは分からないけど。
どうかした? ミネルヴァさん。
『いえ、問題ありません。この名前なら違和感がございませんのでこれからは、ノール様とお呼びいたします』
ミネルヴァさん何か気になる事でもあるのかと思ったけど・・・・
ま、ノールならゼロと呼ばれるよりは名前らしい名前だから良かったよ。
「君・・いえ、ノール。お母様にお礼を」
「は、はい・・・王妃様、ノール・・大事にいたします」
「はい。気に入ってくれて嬉しいわ」
姫様といい、王妃様といいこの国の女性は良い人ばかりだ。
それに引き替え王様とロドエル殿下の情けなさが際立つ。
今も僕を変な視線で見つめてくるのだもん。
絶対なにか企んでいる。
「それではこれで解散いたしましょうか? ね? あなた」
「は、はい!」
王様、本当に情けなさ過ぎます。
「お、お控え下さい!!!」
ようやく終わったと思った瞬間、大広間の入り口である大きな扉の外から大きな声がし出した。
何やら声酒でなく大勢の人の足音や声が混ざって聞こえてく。
「無茶をなさらないで下さい!!」
「問題無い!! そこを開けろ!」
その騒動に、大広間に居る人々が扉の方に集中し始めた。
すると、人の三倍はある大きな扉がかなりの勢いで開かれ始め、人の影が幾つも見えた。
「フィリア姫!! お会いしに来ましたぞ!!!」
そこには、扉を開いた二人のメイド服姿の女性とその中心に筋肉質で大柄な男性が腕を組み仁王立ちの姿で現れた。
また来てください。




