王侯貴族の思惑 1
「おお! よくぞお戻りになられましたフィリア姫殿下!!」
姫様に大仰な仕草で出迎えたのは、背が高く線の細い男性だった。
「ブルダブル宰相、あまり思ってもいないことを言うものではないわよ」
そのブルタブ宰相と呼ばれた男性に姫様は皮肉たっぷりな視線を送りながら言葉を返していた。
見る限り仲が良さそう・・・とは思えない。
「その様なことをおっしゃらずに。今回姫様がお城を出られて国王様も殿下らも大変お困りでございましたので、これで安心してロドエル殿下の王太子即位の令を行うがができまする」
「別に私が居なくても問題ないでしょ?」
「そういきません。フィリア殿下には王太子即位の祝賀パーティーにお招きしている諸外国の方々にお披露目されるという重大なお役目がございますゆえ」
「お披露目? あのトゥーアレンフィス帝国の馬鹿皇子だけのでしょ?」
「お分かりなら問題ございません」
「それが嫌で私、城を抜け出したのだけど、他に重要な事が出来たので帰ったまでよ。用事が済んだら今度こそ城を出ますから」
二人の会話、見た感じはお互い穏やかに話している様に見えるけど、その内容はどう聞いても穏やかとは思えないな。
『ゼロ様、推測ですが、フィリア様はそのトゥーアレンフィス帝国の皇子との婚約が嫌で逃げ出していたのではないかと』
ん?
そうなの?
『推測ですが』
それって僕のせいでせっかく城を抜け出して来たのに戻ってこないと、いけなくなったってこと?
『可能性はあります』
それは・・・・・
「それは困ります。国王様もロドエル殿下も大変お困りになられますのでご自重ください」
「兄は困るでしょうけどお父様は困らないと思いますけど?」
「そのような事。可愛い娘を世俗に染めさせる事を良しとは思われませんぞ?」
「・・・・まあ良いです。それは直接お伺いしますから。それより法務局次長はどちらにおられるかご存じなら教えてもらえます?」
「はて、私は存じませんが?」
「そうですか?」
「何かご用ですかな? 私が代わりにお伺いしてもよろしいですが?」
「いや、この子の身元・・・・いやいい。次長に直接話すことにします」
「そうですか?」
ブルタブル宰相さんが僕の事をじっと見つめて来た。
「その下賤な者は何ですかな? 見たところ姫様の外套の下は裸ではないですか? 何処で拾われたのか・・・まさか? その者の事で法務局次長に話があると言うのですかな?」
「あなたには関係ないことよ」
「・・・左様でございますか」
ブルタブル宰相はもう一度僕を睨むように見てから、姫様に頭を下げると静かに歩きだし去って行った。
「姫様・・・」
「なあに?」
さっきまでの嫌な雰囲気が一変して、優しい笑顔を見せてくれる姫様。
「もしかして、僕のせい?」
「君は、そんな事を気にしなくていいの。私がしたい事をしてるだけなんだからね」
そうは言っても気になるよ。
「大丈夫。必ずまた城を抜け出し、王族の地位から離脱してやるんだから。ただその前に君の家族を探したいしね」
やっぱり僕の為に戻ったんだ。
僕は大きく首を横に振った。
「どうしたの」
「僕には、両親いない。この国の人でもない。だから姫様が気にする必要ないよ」
ミネルヴァさんの言うには僕はそれなりに強い魔導人形らしいし、数日飲み食いしなくても魔力を取り込んで稼働エネルギーを体内精製できるから簡単には飢え死にしそうにないし、とにかく姫様にあまり迷惑はかけられないよ。
「え?!」
ガバッ!!!
と言う音が聞こえそうな勢いで姫様が僕の事を力強く抱きしめてきた。
「ひ、姫様! ど、どうしたの?!」
「どうもこうも・・ごめんね。ご両親ゴブリンに殺されたのね」
え?
「しかもこのブラハロンド王国以外の所からつれて来られたなんて・・お国の名前分かる? それに自分の名前は言える?」
「え? えっと・・・・・・・」
「分からないのね・・・そう言う事も気付くべきだったわ。ごめんね、私がもっと君の状況を考えてあげなきゃいけなかったのに・・・」
僕を抱きしめながら姫様が泣いている?
ちょっと、何だか大きく違った解釈してない姫様?
「あ、あのね、姫様・・・」
「いいの! もうこれ以上言わなくて良いから! 大丈夫! 私に全てを任せて! 悪いようにはしないから!」
「え、いえ、だから・・」
「レイ! レイ! 居る!?」
「はい。ここに」
「私はこの子を連れて直ぐに法務省に行くわ! 新しいブラハロンドの戸籍をこの子に取らせる手続きをするわよ。レイはこの子の着替えとかを用意して持ってきて! それが終ったら、お父様からの呼び出しに遅れることを報告して!」
「え、あ、はい・・しかし国王様への謁見の方が優先されるべきでは?」
「それこそ二の次よ! 今はこの子の事が優先よ!」
「わかりました」
レイさん、やれやれといった感じに肩を窄めながらも、それほど嫌な顔をされずに一礼をして去っていかれた。
「さあ、まずは着替えましょう! レイが可愛い服を見繕って持ってきてくれるからね」
そう言うと姫様は僕の手をギュッと掴んで、城の奥へと向かい始めた。
僕は、呆気に取られ姫様の行動にただ従うだけになっていた。
また言いそびれたけど良いのかな?
『よろしいのでは? ゼロ様なら人と見分けは付きませんし、下手にエストラーダ様謹製の魔導人形と知られたら大事になるかもしれません』
そう? あの変態魔導士がそんなに有名だとは思えないけど。
それに300年くらい経っているのでしょ?
今の時代の魔導人形技術の方が絶対良くなっているだろうから僕なんか平凡かもしれないよ?
『それでも、今の時代の状況は分かりませんから下手に本当の事を言わない方が何かと都合が良いと考えます』
そんなもんだろうか?
『そんなもんです』
・・・まあいいか。
戸籍貰えたらこれから行動するのに確かに便利だろうし、僕としても魔導人形として戦闘とかするつもりはないから人として暮らせるならそれも良いかも。
ここは少し黙っておこうかな。
『はい。その方がよろしいかと』
どこか心に引っ掛かる様な気持ちになりながらも、当分の間状況に身を任せる事にした。
次話もよろしくお願いします。




