第6話『ARナビゲーション』
殴った拳が熱い。
でも、それ以上に心が熱い。
36年間生きた俺だけど、人を殴った記憶なんてほとんどない。
その理由は喧嘩が苦手だから。
パワハラ上司ともそうだったけど、なるべく衝突しないように生きてきた。
……だけど、今回だけは別だ。
幸せな親子を引き裂いた奴ら。
その上、母様の心を蹂躙しようとする。
仮に母様を見捨てて逃げていたら、後悔の念を抱いて生きることになっただろう。
全力で生きると誓った以上、もう自分の気持ちに嘘はつけない。
転生前のように心に蓋をして、死んだように生きるなんて絶対に嫌だ!
俺はコイツらが許せない!!!
「ンな……!」
「こ、このガキ……」
「化け物みたいにやりやがったぜェ!?」
口から血を吐きながらよろめく刀傷の男。
リーダー格であるその男がやられ、仲間たちはどよめいている。
俺はそれをまとめて睨みつけた。
黙れ、外道ども!
渾身の力で殴ったんだ、頭と首が繋がっているだけでも幸運だと思え!
さぁ、次はどいつだ!?
殺られたいヤツから前に出ろっ!!!!!
……とか思っていたら、刀傷の男が床にベッと唾を吐いた。
手の甲で口を拭くと、すでに出血は収まっている。
どうやら唇が切れただけだったみたい。
くーっ、5歳児って非力!!!
「ガキが、やってくれんじゃねぇか!!!」
刀傷が殺意むき出しの目で睨む。
負けるものかと俺も睨み返す。
感情の高まりと共に、移植された左眼が激しく熱を持ってゆく。
炎の魔眼が反応してる!?
「なんだテメェ、左だけ赤い眼をしやがって。なら、その顔全て血で赤く染めてやんよ……なあっ!!!」
振り上げられる右拳。
その瞬間――。
――なんだこれ!?
その拳にマークと数字が浮かびあがった。
戦闘機のロックオンマーカーみたいなそれだ。
更にはそこからラインが走って、刀傷の拳と俺の頬が一本の線で繋がった。
え、これって……?
「くたばりやがれ!」
怒声と共に繰り出された拳は、スローモーションで示されたラインをなぞってくる。
それと同時に、表示された数字がカウントダウンを始める。
3……2……1……。
俺は、ラインから外れるよう首をひねった。
ゼロの瞬間、拳が頬をかすめて通過してゆく。
次いで左拳にマーカーが浮かぶ。
そのラインは俺のアゴに繋がっている。
そして始まるカウントダウン。
俺は一歩下がってラインから外れた。
大振りのアッパーカットが目の前を通り抜けてゆく。
こ、これは間違いない!
炎の魔眼には、攻撃が予め視えるんだ!
実際の風景にバーチャルの視覚情報を重ねる拡張現実というものがある。
俺も生前やっていた、ナニモンGOとか、ナニクエウォークとかで有名なアレだ。
例えるなら、それでカーナビを作り上げたかのような。
攻撃の軌道と到達秒数がわかるから、あとはそれに合わせてタイミング良くラインから外れればいい。
ただそれだけで、拳は面白いように空を切る。
3発、4発、5発……。
動体視力も上がっているのかな?
相手の拳がゆっくりに見える。
6発、7発、8発……。
しつこく続く攻撃を、全て見切り躱してみせた。
「ンお、おい……手加減してるワケじゃねぇよなァ!?」
「なんで一発も当たらねぇんだ!?」
「ヒャァア! このガキ、化け物かよォ!」
「ぐ……ぐぐっ!」
どよめく仲間たち。
刀傷の顔はもう真っ赤だ。
しかし、この状況で1つだけ問題がある。
それは俺の攻撃力のこと。
先程の渾身の一撃は、大したダメージにもなってない。
さすがは5歳児の体といったところ。
どうしたものか……。
と思っていたら、視界に文字が浮かんだ。
『我が魂は炎。力を欲すれば唱えよ、〈炎の矢〉』
おおっ、これは魔法攻撃のナビゲーション!
日本語ではない文字、おそらくこの世界の文字だけど、難なく読めてしまうところも含めて、さすがは炎の魔眼!
敬愛の意を込めて、この力を“ARナビ”と名付けよう。
俺は大きく飛びのくと、刀傷に向かって右手を突き出した。
母様が、固唾を呑んで見つめているのが背中越しに感じる。
見てて母様。
今、あなたの敵を取るから!
「ハァハァ……な……なんの真似だ? 伸ばしたその腕……へし折って……ほしいのか!? ……なあっ!」
この男……空振りし続けて肩を上下するほど息も切れてるのに、まだそんな口がきけるのか。
だけど、それもここまでだ!!
これまでの非道、その身をもって償え!!!
「〈炎の矢〉ッッッ!!!!」
瞬間、視界いっぱいに浮かび上がる文字の羅列。
『我が息吹は荒ぶる炎』
『天をも穿つ紅蓮の矢』
『我の前に収束せよ』
『敵を滅する力となれ!』
俺の中の何かが吸い出されるような感覚。
それは手先に集まって、燃え盛る炎の矢となった。
「はあああああああああああっっっっ!!!!!!」
放たれた矢は、紅い閃光となって刀傷へと突き進む。
ズガアアアアアアアアアアン!!!!!!
耳をつんざく爆音が響き渡った。
……くっ、狙いが甘かったか。
〈炎の矢〉は刀傷をわずかに外れ、背後の石壁を吹き飛ばしていた。
外はどうやら夜らしい。
大きく空いた穴からは、綺麗な満月が顔を見せている。
月明かりに照らされた刀傷は、顔を引きつらせて硬直していた。
「ンちょ……な、なんだァその威力!?」
「お、おい、〈炎の矢〉って初球魔法だろ!? こんな凄ぇの見たことねぇよ!!」
「しかも無詠唱でってェ……! ひ、ヒィッ、このガキ、化け物だぜェ!!!」
情けない叫び声をあげているのは、スキンヘッド、モヒカン、ネズミ顔だ。
3人とも顔面蒼白で、ガタガタと震え上がっている。
恐れろ!
そして、自分たちがしたことを後悔すればいい!
だけど、謝っても許さないけどな!
鋭い瞳で男たちを睨む。
3人の悲鳴が、ますます大きくなる。
「次は外さない!」
俺は右手を突き出したまま、一歩前へと踏み出した。
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