表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/27

第5話『母様と呼んだとき』

「母親は死んでんのか?」

「ンー? ガキも殺したはずなんだがなァ」

「ガハハ、構いやしねぇ。また殺せばいいだけのことだろうよ」

「ヒャッハー! その考え、化け物だぜェ!」


 そう言ってゲハハと笑う不逞(ふてい)(やから)

 頬に刀傷のある男。

 無精髭(ぶしょうひげ)のスキンヘッド男。

 マッチョのモヒカン男。

 いやらしく笑うネズミ顔の男の4人組。


 顔つき、そしてその会話から極悪人は決定だ。

 それどころか、こいつらが幸せな親子を引き裂いた犯人で間違いない!


 湧き上がる怒りの感情。

 俺は拳を強く握り締めた。

 子供の柔らかい皮膚に爪が痛いほど食い込む。


「なんで、こんなことを……」

「アァン?」


 押し殺すような俺の声に、男たちは顔を見合わせた。

 次いで浴びせられる笑い声。

 刀傷の男が、顔を近付けてくる。

 コイツがリーダーだろうか。


 って、うっぷ!

 激しく口が臭い!

 何を食べたら、こんな生まれたての汚物みたいな臭いが出せるんだ!


「なんでなんて決まってんじゃねーか、なぁ! 金だよ金! テメェらを殺せば、ボスからたんまり報酬がもらえんだよ!」


 自分の口臭を物ともせず、男は大口を開けて笑った。

 仲間たちも一緒に笑っている。

 嗅覚が死んでるのか、こいつらは。


 下品に笑う男たちを前に、拳が怒りで震えだす。

 それを自分の体に強く押し付けた。

 今、感情のままに暴れても無駄死にをするだけだ。

 (こら)えろ、堪えるんだと、何度も自分に言い聞かせる。


 そんな俺の姿を、恐怖に震えているとでも思ったのだろうか。

 男たちは黄色い歯を見せてニヤリと笑う。

 続く言葉に俺は耳を疑った。


「あとは、単純に面白ぇからだな!」

「なっ……!?」


 面白いだと!?

 こいつらは楽しむために人を殺すのか!?


「お前の母親は、自分はどうなってもいいから子供の命だけは助けてくれって(すが)りついてきたのさ。泣ける話じゃねぇか」


 刀傷の男はそこで言葉を切ると腰の片手剣を引き抜いた。

 長さ40センチ程の刃。

 ゲームでもおなじみの小 剣(ショートソード)だ。

 見るからに手入れの悪いそれが、魔法陣の光を浴びて鈍く光る。


「……だからな、コイツでお前の胸を刺してやった。そのときの絶望に満ちた顔、今思い出しても笑いが止まらねぇぜ!」


 ヒャハハと笑う刀傷。

 そのくすんだ刀身には、まだ血の跡が残っていた。


「血まみれのお前を抱き締めて泣き叫ぶ姿、ありゃあ爆笑ものだったぜ! なぁ!」

「ンー……まァ、途中で面倒くさくなって背中をバッサリやっちまったんだがなァ」

「なのに、ちょっと目を離した隙に隠し扉から逃げやがってよ」

「この部屋を探すのは、化け物的に苦労したぜェ!」


 目の前で男たちの心無い言葉が飛び交う。


 ……ぐっ!

 ダメだ落ち着け、落ち着くんだ!

 今はこの場を乗り切ることだけを考えろ!


「だが、俺たちも今回の件は失敗だったと後悔してるんだぜ?」

「……後悔!?」


 予想外のその言葉。

 男は剣を(さや)に戻すと、思わず顔を上げた俺の髪を強く掴んだ。

 そして、無理やり自分に引き寄せる。


「ああ、後悔だ。お前の母ちゃんは、なかなかの上玉だったからな。生かしときゃ高値で売れたろうよ」


 視界いっぱいに広がる顔。

 外道極まりない男。


「仕方ねぇから、剥製(はくせい)にでもしてやるよ。案外、好色家にゃ人気が出るかもしれねぇからな!」

「人を……なんだと思ってるんだ!」

他人(ひと)の不幸は蜜の味ってな、昔から相場が決まってんだよ!」


 そう言って、俺を荒々しく床に叩き付ける。

 聞こえてくる、下品な男たちの笑い声。


 ふざけんなよ!!

 こんなやつのせいで、セナは命を落としたというのか!!!


 怒りの感情が炎のように渦を巻く。

 噛み締めた奥歯が、ギリっと音を立てた。


「……セナ、こんな者たちの言葉に……耳を貸すことはありません」


 そのとき、不意に背後から声が聞こえた。

 凛と響く澄んだ声。

 俺は、この声の持ち主を知っている。


 振り返った俺に、その人は優しく微笑んだ。


 そう、それはフローラだった。

 彼女は無理やりに立ち上がると、俺と男たちの間に両手を広げて立ち塞がる。


「この子には……手を出させません!」


 荒い息遣い。

 背中の傷からは、いまだに血が流れている。

 さぞ痛いだろう、苦しいだろう。

 それでも気丈に相手を(にらむ)む姿に、熱いものが込み上げてくる。


「ヒャハハ、泣かせるねぇ。親子だって、所詮(しょせん)は他人なのによ」


 手を叩いて笑う刀傷。

 その口が、不意にニヤリと歪んだ。


「なぁ……この女、せっかく生きてたんだし俺たちで楽しんでみねぇか?」


 振り返る刀傷に、仲間たちはため息をつく。


「ンー、まァた悪い癖が始まりやがったなァ」

「おいおい、ガキが逃げちまうぞ?」

「困ったもんだぜェ、性欲の化け物かよォ!」


 だが、刀傷の男はそんなことを気にする様子もない。

 舌なめずりをしながら、フローラを上から下までねっとりと眺めた。


「ガキの足じゃ、逃げるったってたかが知れてんだろ。だが、こんないい女は、そうそうお目にかかれるモンじゃねぇからな」


 下劣な笑み。

 控えめに言って虫唾(むしず)が走る!


 そのとき、フローラが静かに口を開いた。


「……セナ、逃げなさい」

「えっ!? で、でも!」


 俺を逃がすため、犠牲になろうというのか!?


「母様は大丈夫。あなたは少しでも遠くへ」


 フローラは、開け放たれたままの扉を指差す。


 大丈夫じゃないだろ!

 伸ばした指が震えてるじゃないか!

 俺を見つめる瞳に涙が(にじ)んでるじゃないか!


 なのに……。

 なのに、どうして微笑むんだよ!

 なんで、そんな優しい顔ができるんだよ!


「ハハッ、そういうわけだ。母ちゃんと遊び終わったら、また鬼ごっこをしようなぁ!」


 嘲笑(あざわら)う刀傷。

 その目はもう俺を見ていない。

 この場の男たちの意識は、全てフローラに向いている。


「へへ……そそる体をしてやがるぜ!」


 下卑(げび)た横顔が、目の前を通過してゆく。

 ゴクリとツバを呑んだのが聞こえた。


 彼女の想いに応えるなら、俺は逃げなくちゃいけない。

 生きてここから脱出しなくちゃいけない。

 我が子を生かすこと、それがこの人の願いだから。


 思わず涙が込み上げる。

 だけど、それをこらえて唇を強く噛んだ。


「なぁ、なぁ、貴族はみんな好き者なんだろ? なら、お互い楽しもうぜ!」


 いやらしい声、卑猥(ひわい)な言葉、醜悪(しゅうあく)な笑み。

 刀傷の手が、ゆっくりと伸びてゆく。


「行きなさい、セナ! 早くっ!」


 ……ごめん、フローラ!

 俺は力いっぱい床を蹴った。


「ヒャハハ! いい声で鳴いてくれよ、なぁ! な――!?」


 ――次の瞬間、響き渡る鈍い音。

 飛び散る鮮血。

 俺の拳は、刀傷の頬を力いっぱい殴り飛ばしていた。


「セナ……どうして!?」

「ごめんなさい、逃げられませんでした」


 そう答え、俺は彼女を守るように前に立った。


 親子なんて所詮(しょせん)は他人、刀傷はそう言っていた。

 彼女はセナの母親だが、俺にとってはなんの面識もない人物。

 それこそ本当に他人だ。


 ――だけど!


 俺は、この人の想いを知っている!

 この人の愛を知っている!

 この人の心を知っている!

 人が人を守る理由なんて、それだけで十分だ!

 それを踏み(にじ)るヤツらは絶対に許せない!!


「お前らが母様(かあさま)を語るなーっ!!!!!」


 激高(げきこう)する声。

 それは、紛れもなく俺の本心だった。


 チリリ……。

 左眼の魔眼から、炎が燃える音が聞こえた。



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い」

「続きが読みたい」

「更新が楽しみ」


 と、少しでも思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 分かりやすく下衆が下衆で良かったです。彼らが死ぬ場面はさぞや爽快だろうと思えました。 [一言] 主人公の左眼が強力なようですね。彼らに下る報いが楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ