第23話『決着! そして……』
ウチの名は瑠璃。
鬼族の国、サイギョクの第二姫じゃ。
現在、人生最大のピンチを迎えておるっ!
理由は明白。
ミノタウロスに掴まったウチは、これからその口の中に放り込まれるところなのじゃ。
ううっ、ウチの人生もこれまでか。
若干ハタチのうら若き乙女じゃというのに……。
思えば、祖国では姉様に虐げられ。
気晴らしにと遊びに来たブレイブリー領では、ヒキガエル男にミノタウロスをけしかけられてこの始末じゃ。
侍従のコハクは瓦礫の中。
すまぬな、ウチに仕えておったばっかりに。
お前は最高の侍従じゃった。
ちぃと性格には問題ありじゃったが。
ウチに言い寄る男は、全てお前に蹴散らされておったな。
すまぬフェルド。
フローラの痛みを返すことはかなわんかった。
じゃが、セナを逃がすことはできたぞ。
それで許してほしいのじゃ。
そしてセナよ。
突然の求婚は本当に驚いたぞ。
じゃが、それ以上に嬉しかったのじゃ。
お前様がウチと同じくらいの背丈になったら結婚してもよいと、本気で思っておったのじゃぞ。
まぁ……その歳の差は15歳。
姉様にはショタコンと罵られておったろうな。
姫として生まれたウチにとって、結婚は政治のためにあった。
そこに恋などない、ただの政略の一つ。
幼い頃からそう教えられ、疑問を持つことは許されなかった。
じゃが、セナはウチの本当の心に気付かせてくれた。
ウチは恋する気持ちがないのではない、恋を知らなかったのじゃ。
――ミノタウロスは眼前で手を止めると、じぃっとウチを見詰めおる。
その長い舌が伸びてきて、顔をベロリと舐めおった。
く、くっさー!!
めっちゃ臭いのじゃー!
それに、べちゃべちゃで気持ち悪いのぅ!!
味見なのか?
イヤらしいやつめ!
ニヤリと笑ったミノタウロスが、大きく口を開く。
黄色い歯、真っ赤な口の中、プルプルのノドチンコが見える。
これで本当に終わりじゃな。
ああ、死ぬ前に“キス”というものを体験してみたかった。
恋の先にあるという、甘く切ない魅惑のトキメキを……。
迫る死を前に、ウチは強く目を閉じた。
――次の瞬間!
ザン!!!
と響く切断音。
鼻をつく肉の焼け焦げる匂い。
ミノタウロスの腕が、不意に下へと落っこちた。
「いたーい!」
お尻をしたたか打ち付けたウチは、その衝撃で床に放り出される。
「うううっ……いったい何が起きたのじゃ」
お尻をさするウチの目に映るもの。
それは、床に落ちたミノタウロスの腕。
そして……。
「大丈夫ですか、ルリ様」
燃え盛る炎を纏ったセナの姿じゃった。
* * *
「大丈夫ですか、ルリ様」
そう尋ねる俺に「う、うむ」と答えるルリ様。
その顔は驚きでいっぱいだ。
でも、それも仕方ないだろう。
今の俺は、紅蓮の炎を身に纏っているのだから。
炎は力の象徴。
小さな体から溢れて天へと立ち昇る。
感覚も鋭くなっているのだろう。
「ま、まさかセナ、魔眼を!?」
エマさんに助け起こされた父様が息を呑んだのがわかった。
「な、な、な、なんなのさ、それは!?!?!?」
オイルギッシュが悲鳴のような声を上げた。
それを睨みつけ、ミノタウロスに向かって歩を進める。
「オイルギッシュ……あなたは魔眼の力を知らないと言ってましたね?」
「それが、なんなんだよねぇ!」
「大丈夫、見せてあげますよ。炎の精霊王の力を!!!」
体から噴き出す炎。
それは業火となって天をも焦がす勢いだ。
力が、みなぎってくる!!
「そ、そんなのハッタリなんだよねぇ!! ミノタウロス!!!」
オイルギッシュの言葉に、ミノタウロスはいきり立って斧を振りかぶる。
「やるのさ!! ミンチお肉にしてやるんだよねぇ!!!」
振り下ろされる斧。
唸りを上げて迫る鋼鉄の塊。
渾身のその一撃を、俺は左手一本で受け止める。
「ほげげーっ!?」
そのまま握り締めると、斧は溶けて砕け散った。
「ウガ……ガ……」
魔獣といえど、その力の差はわかるのだろう。
ミノタウロスは、怯えた表情で後ずさりをしている。
「ちょ……お、お前、こっちに来るんじゃないのさ!!」
叫ぶオイルギッシュ。
魔物使いも必死に命令をしているが、圧倒的な恐怖の前に言うことを聞かせる術はない。
追い詰められた二人と一体は壁際まで後退した。
「むぎゅう! も、もう、これ以上は下がれないのさ! 行けミノタウロス! 行くんだよねぇ!」
オイルギッシュがその足を蹴る。
だが、ミノタウロスは完全に戦意を喪失している。
その姿を見据えながら、俺は右手を高く掲げた。
炎が腕を包み、渦を巻き――。
そして、長く巨大な剣を成す。
「マーモン! マーモン! ヤバイのさ、ヤバイのさ、ヤバイのさ!! 早く、なんとかするんだよねぇ!!!」
「な、なんとかと言われましてもー!」
俺は静かに息を吐く。
「オイルギッシュ……欲望のままに生きる男! あなたに勇者を名乗る資格はない!!!」
――斬!!!
ほとばしる赤い閃光。
振り下ろした炎の剣は、ミノタウロスを頭から真っ二つに切断した。
ゆっくりと後ろに倒れるミノタウロス。
背後の壁を破壊して、夜の海へと落ちてゆく。
「あぎゃ――――――――――っっっ!!!!」
巻き込まれたオイルギッシュとマーモンも一緒に落ちてゆく。
聞こえてくる盛大な水音。
それと共に巨大な水柱が上がった。
「勝った……」
思わず吐息が漏れる。
これでようやく決着だ。
俺は、とすんとその場に腰を下ろした。
「セナーっ! やっぱり、お前様は凄い子じゃあ!」
ルリ姫が両手を広げて走ってくる。
その顔は満面の笑み。
父様もエマさんの肩を借りて立ち上がる。
傷だらけだが、命に別状はなさそうだ。
本当に良かった。
コハクさんだけは、まだ瓦礫の下だけど……。
隙間から見える白い長羽織が、もぞもぞ動いているのは生きている証拠と信じたい。
正直、厳しい戦いだった。
ほろ苦いデビュー戦として、俺の記憶にいつまでも残るだろう。
だけど今は、誰一人命を落とすことがなかったことを素直に喜びたい。
俺は、みんなに親指を立てて応えた。
――が!
――ドクン!
「うぐっ!?」
再び心臓が強く脈を打つ。
それと共に、体から炎が噴き出した。
熱い! 熱い! 熱い!
左眼の魔眼が焼けるようだ!!
「せ、セナ、もういいいのじゃ! 戦いはもう終わったのじゃ!」
姫の悲鳴のような叫び声。
違う、炎の力が止まらないんだ!
「ぐあああああああああっっ!!!」
溢れる炎が辺りを砕き、大広間を灼熱の海に変えてゆく。
こ、これは、暴走!?
炎の精霊王に体を受け渡した代償なのか!
ぐうううっ、制御ができない!
赤に染まる視界。
意識が侵される。
心が炎に飲まれてゆく。
だ……ダメだ!
このままじゃ、みんなを傷付けてしまう!
「みんな……逃げて、早くっ!! ――ああああああああああああああっっっ!!!!」
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