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第22話『応えろ魔眼!』

「ぷぎぃ、ぷぎぃぃぃぃ!!!!」


 歯噛み、床ドン、寝っ転がって手足をバタバタ。

 ありとあらゆる癇癪(かんしゃく)の起こし方を見せてくれるオイルギッシュ。


「なんなのさー!!! ミノタウロスのやつ、負けてしまったんだよねぇ!!!!」

「……恐れながらオイルギッシュ様、まだ勝負はついておりませぬ」


 魔物使いマーモンが頭を下げる。


 負け惜しみを!

 そう思った瞬間――。


「――危ない、ルリ様!!!」

「コハク!?」


 ルリ様を突き飛ばすコハクさん。

 次いで響く鈍い音。

 コハクさんの体は吹き飛んで、瓦礫(がれき)の中に突っ込んだ。


「な、何が……!?」


 それ以上、言葉が出なかった。

 俺の目に映るもの、それは満身創痍(まんしんそうい)のミノタウロスだった。

 コハクさんは、その岩のような拳で殴り飛ばされたのだ!


「コハク……コハクーッ!!!」


 ルリ姫の叫びが響き渡る。

 だが、それに応える声はない。


「コハクはウチをかばって……」


 ミノタウロスが一歩一歩と近付いてくる。

 全身から血を噴き出し、巨大な角も片方が折れているというのに、その歩みは止まらない。


「……ルリ様、セナとエマを頼みます!」

「フェルド!?」


 父様は剣を構えると、気合の声と共に斬りかかる。

 だが、ミノタウロスの反撃の前に剣は折れ、その体は吹き飛ばされた。


「ぶひゃひゃひゃ、圧倒的なのさ!」


 くそっ!

 さっきまで、癇癪(かんしゃく)を起こしてたくせに!


「さぁて、次は誰を狙わせるんだよねぇ?」


 ミノタウロスの眼が俺を見る。

 怒りに満ちた眼。


「う……あ……」


 絞り出すような声が漏れた。

 恐怖の感情が腹の底から込み上げて、心の中を塗りつぶしてゆく。

 絶望が支配する。


 ARナビは、さっきから警告を発している。

 だけど、恐怖にすくみ上がった体は思うように動いてくれない。


 こ、このままじゃ……!


 そのとき、そんな俺の前に立つ一人の背中があった。

 赤い着物と瑠璃色(るりいろ)の長い髪の女性。

 鬼の姫。


「セナよ、大丈夫じゃ。お前様にはウチがついておる!」

「る、ルリ様!?」


 姫は、ゆっくりとミノタウロスに向かって歩き出す。


「ダメです、ルリ様! 危険です!!」

「セナは必ず守る。ウチは、そう約束した!」


 約束だって!?

 俺たちは、まだ会って間もないのに?

 父様と母様の友達とはいえ、ルリ姫が命を懸ける理由なんて俺には浮かばない!


「ルリ様――っ!」


 ルリ姫は背中越しに俺を見ると、優しく微笑んだ。


「子供を守るのは大人の役目じゃ」


 ――っ!!!


 その言葉は衝撃となって俺を貫いた。


「エマよ、ウチが引き付けているうちにセナを連れて逃げるのじゃ!」

「ルリ様……ご武運をお祈りいたします」

「うむ!」


 鬼髪筆を構える姫。


「貫け、小烏丸!!!」


 その言葉に応じ、筆の穂先が長く伸びた。

 風を切る音と共に、鋭い連続突きが繰り出される。

 それはまるで横殴りの雨のよう。


 だが、ミノタウロスはそれをものともしない。

 雄叫(おたけ)びをあげて、ルリ姫に向かって突進してゆく。


 それを後目に、エマさんが俺の手を引いた。


「セナ様、行きましょう!」

「で、でも、ルリ様が!」

「ルリ様は私にセナ様を託されました。私にはセナ様を安全なところにお連れする義務があります!」

「だけど!」

「ルリ様のお気持ちを無駄にしないためにも、早く!」


 そのとき、ミノタウロスの巨大な左手が姫の体を掴んだ。

 その口が嬉しそうに歪み、ヨダレがボタボタと垂れる。


 ルリ姫を食べる気か!?


「くうっ、離せ! 牛は素直に草を食べてればいいのじゃ!」

「ぶふふん、ミノタウロスは肉食なのさ。でもねぇ……キミが、ボクのものになるって言うなら助けてやってもいいんだよねぇ?」

「死んでも言うわけなかろーっ!」

「ぶひぃ……キミみたいな可愛げのない子は初めてなのさ。勇者の末裔に逆らったこと、後悔しながら死ぬがいいんだよねぇ!」


 軽々と持ち上げられた姫の真下に、ミノタウロスの大きな口が開く。


 みんな死ぬ……。

 父様も、コハクさんも、そしてルリ様も!


 嫌だ嫌だ、そんなのん嫌だ!!

 俺だけが生き残っても、みんながいないんじゃ意味がないっ!!


「ぶひひ、なあマーモン。これだけ強い魔物を(したが)えたボクは、勇者と名乗ってもいいんだよねえ?」

「オイルギッシュ様、その通りでございます」

「わかってるねぇ。後で褒美をやるのさ」

「ありがたき幸せ」


 高笑いをするオイルギッシュにマーモンは深々と頭を下げる。


「ぶひゃひゃ、今日がボクの勇者としての伝説の幕開けなのさー!!!」


 違う!!!

 お前は勇者なんかじゃない!!!


 俺が憧れた勇者は!

 勇者ミサキちゃんは、常に弱い者の味方だった!

 愛する仲間を守るため、その身を犠牲にすることだって躊躇(ためら)わなかった!

 倒れてもその度に立ち上がる、強い勇気を持っていた!


 お前が名乗るな!!

 勇者を名乗るな!!!


 姫を掴んだミノタウロスの手が、徐々にその口に近付いてゆく。

 くそおおおおおっっっ!!!!


 ――魔眼!!

 炎の精霊王の魔眼よ!!

 お前は凄いんだろっ!!!

 この世界を混乱に(おとしい)れた力があるんだろ!!!

 悔しくないのか!!!

 あんな男の先祖に封印されて悔しくないのか!!!!


 応えろ、魔眼!!!

 応えろ、精霊王!!!

 お前の力を見せてみろ!!!

 この状況を乗り越える力を見せてみろ!!!


 俺の体をくれてやる!!!

 だから!!!


 俺の呼びかけに応えろ――っ!!!!!



 ――ドクン!


 不意に心臓が強く脈打った。

 左眼が燃えるように熱を持ち、それが全身に広がってゆく。

 赤く染まる視界。

 ARナビに、見知らぬ文字とノイズが走る。


 そして――。

 俺の中で何かが弾け飛ぶ音が聞こえた。



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い」

「続きが読みたい」

「更新が楽しみ」


 と、少しでも思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一転してピンチというのが、手に汗握る展開で、素敵です。ミノタウロスが原形残っていたので、本当に大丈夫かなぁと心配でしたが。そしてオイルギッシュ様の各種癇癪も素敵です。分かりやすい駄々っ子っ…
[気になる点] 「これだけ強い魔物を従えたボクは、勇者と名乗ってもいいんだよねえ?」この理論から行くとマーモンが勇者では?w [一言] 「力が欲しいか 欲しいならくれてやる」展開! 次話が楽しみです。…
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