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第21話『火雷神 ―ほのいかずちのかみ―』

 大気を揺るがすほどの獣の咆哮(ほうこう)

 それが、どんどん近付いてくる。


 コハクさんが狼の耳をピンと立てた。


「来ます!」


 次の瞬間、爆音と共に天井が崩れ落ち、獰猛(どうもう)な獣が姿を現した。

 体長5メートルほどの牛頭の巨人。

 ミノタウロスってやつだ!

 赤々と光る眼、鋭く太い二本の角、手にはゲームやアニメでお馴染みの巨大な斧を持っている。

 だが、その迫力は創作のそれとはわけが違う。


 ミノタウロスは俺たちを見回すと、雄叫(おたけ)びを上げた。


「ブオォォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」


 うぐっ!?


 その圧倒的な殺意の前に、全身が危険を訴える。

 めまい、動悸(どうき)、震え、呼吸困難!

 まるで心臓を握られたかのような苦しみだ!


 ヤバい! ヤバい! ヤバい!

 こいつはワケが違いすぎる!!!


「ぶっひゃひゃひゃ! なんなのさ、キミたちのその顔は」


 オイルギッシュが腹を抱えて笑う。


「さあ、第二ラウンドはコイツが相手なんだよねぇ!」


 ARナビは、さっきから警告を出しまくり。

 だが、今まで経験したことのない恐怖を前に足は思うように動いてくれない。

 今は気絶しないよう意識を保つので精一杯だ。


 そんな俺をかばうように、父様がミノタウロスの前に立ち塞がった。


「セナとエマは下がれ! ルリ様、二人を頼みます!」

「承知した! 二人とも、こっちじゃ!」


 ルリ様に手を引かれ、俺とエマさんは列の最後方へ。

 変わって、コハクさんが父様の隣に並んだ。


「神聖なるマナは生命の息吹。今ここに癒しの力を! 〈癒 し(ヒーリング)〉!」


 コハクさんの詠唱。

 その手からポゥッと輝く魔法陣が現れ、父様を包み込む。


「コハク殿、助かる!」

「ぶっひゃー! ちょっとくらい傷を癒やしたからって何なのさ!」


 悪意に歪んだ笑顔で、オイルギッシュは右手を前に突き出した。


 「さあ、ミノタウロス! みんなまとめて蹴散らしてやるんだよねぇ!!」


 その言葉を合図にミノタウロスが巨大な斧を振り下ろす。

 上空から迫る斧。

 父様とコハクさんはそれを左右に跳んで避けた。

 直後、切り返してガラ空きの両脇に斬りつける。

 だが――。


「なっ!?」


 その脇腹には、赤い線が薄く入っただけ。

 怒りの咆哮(ほうこう)を上げるミノタウロスには、大したダメージにもなっていない。


「それなら、倒れるまで斬り続けるだけだ!」

「はいっ!」


 流れるような連続攻撃。

 父様が攻めるときは、コハクさんはミノタウロスの注意を集め。

 コハクさんが攻めるときは、今度は父様が注意を集める。

 その動きは押しては引く波のごとく。

 全ての攻撃は確実に、そして的確にヒットしていた。


 ……なのに。

 ヒットしているのに、ミノタウロスの動きは鈍ることがない。

 二人の攻撃を気にする素振りもなく斧を振るい続けている。

 その風圧は、最後方にいても感じるほど。

 二人は(かわ)し続けているが、喰らえば一撃で即死だ!


「フェルド、コハク、下がるのじゃ!」


 そのときルリ姫が叫んだ。

 姫の頭上には、鬼髪筆が描いた火の玉がいくつも実体化している。


「ウチの本気、受けてみよ! 〈鬼火連弾(おにびれんだん)〉!!!」


 一斉に放たれる炎の塊。

 轟轟(ごうごう)(うな)りを上げて突き進むそれは、全てミノタウロスを直撃した!


 真っ赤な爆発と押し寄せる熱風、立ち込める煙。

 いくらなんでも、これなら……!

 その場にいた誰もがそう思っただろう。


 だが、晴れてゆく煙を前に残されたのは絶望の二文字だった。

 そこには怒り猛るミノタウロスの姿があったのだ。


「化け物じゃな……」


 姫がつぶやく。

 もちろんミノタウロスだって無傷じゃない。

 いたるところに火傷を負っている。

 だが、倒すには程遠いことも事実だ。


「ぶひゃぶひゃひゃ! さっきまでの威勢はどこにいったのさー!」

「くっ……!」


 ミノタウロスを睨む父様。

 荒い息遣い。

 顔には明らかに疲労の色が滲んでいる。

 無理もない、あれだけの攻撃を避け続けているんだから。


 その側のコハクさんも……。


 ――あ、あれ!?

 コハクさんの姿がない!

 まさか、姫様の〈鬼火連弾(おにびれんだん)〉に巻き込まれて!?


 その瞬間、姫様がフッと笑った。


「ウチらの勝ちじゃ」

「なにをぅ!?」


 愕然(がくぜん)とするオイルギッシュ。

 それとともに天から響く気合の声。


「はあああああああああっっっ!!!!!」


 見上げれば、上空にコハクさんの姿があった。


「コハクは狼の獣人。そのジャンプ力は半端ではないぞ!」


 天高く、重力に引かれて降下するコハクさん。

 それは、糸で繋がったかのように一直線にミノタウロスへと向かっている。

 月明かりを浴びた姿は、まるで流れ星だ。


「くらえっ!」


 逆手に持った刀を、落下の勢いそのままにミノタウロスの肩口へと突き立てる。

 深々と突き刺さる刃に、その口から初めて苦悶(くもん)の声が飛び出した。


 背中に取りついたコハクさんを、ミノタウロスは体をよじって振り解こうとする。

 だが、その手はコハクさんに届かない。


「我は雷狼族(らいろうぞく)、雷を操る者! 私の全魔力をお前にくれてやる!!!」


 コハクさんが手を高く掲げると、崩れた天井から見える夜空に暗雲が立ち込めた。


「受けてみろ!! 雷牙招来(らいがしょうらい)、〈火雷神(ほのいかずちのかみ)〉!!!!」


 次の瞬間、激しい落雷が起こった。

 真紅の光と耳をつんざく轟音。

 稲妻は、突き刺さった刀に直撃した。


「うわっ!!」


 目が眩むほどの閃光と、辺りを揺るがす衝撃波が俺を襲う。

 小さなこの体では耐えることができず、吹き飛ばされて2回3回と転がってしまった。


「大丈夫か、セナ!」

「は、はい、父様。それよりミノタウロスは!?」


 父様に助け起こされて前を見る。

 そこには直立不動のミノタウロスがいた。

 だが、片方の角が折れ、全身から血を吹き出し、天を見上げたまま動かない。

 口からは白い煙が立ち昇っている。


 や、やったのか!


 その隣にはコハクさんの姿もあった。

 両手両膝をつき、荒い息を繰り返している。


 全魔力をつぎ込むと言っていたし、疲労感は半端じゃないだろう。

 俺も魔力切れで倒れそうになったから、その感覚はよくわかるよ。


「さすがじゃ、コハクー! ウチは信じておったぞー!」


 嬉しそうに走り寄るルリ姫。

 立ち上がろうとするコハクさんだったが、その足はフラついてしまった。


「おっと」


 倒れそうになるコハクさんを、抱き締める形でルリ姫が支える。


「……申し訳ありません、ルリ様。私の魔力はもう底をつきそうです」

「いや、お前は本当によくやってくれた。今は、ゆっくり休むのじゃ」

「……はい、ありがとうございます」


 全力で敵を討った家臣を、強く強く抱き締める姫。

 二人の間に感じる確かな絆。

 オイルギッシュには築けない関係がここにはあった。


 ……って、あれ?

 コハクさんの顔が、どんどん姫の胸にうずもれていく……?


 あっ、その口がニヤけてる!

 確信犯か、この人!


「ブレないな、コハク殿は……」

「そうですね……」


 父様とエマさんがため息をつく。

 ……オイルギッシュには絶対に築けない関係がここにはあるのだった。



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


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 これからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一転シリアスな緊迫した場面で面白かったです。戦闘の描写も迫力があり、技名が格好いいですね。冷静に考えると、主人公は壮絶な二組の主従に囲まれてとんだカオスにいるのですが、それがまた面白いです…
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